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新たな従業員データ利活用で「健康経営」を促進する――心身の不調への早期介入を実現

社会ITコンサルティング部 西尾 紀一

#ヘルスケア・医療

#AI

#ビッグデータ

#データアナリティクス

2023/07/27

コロナ禍は、職域での感染予防対策など、従業員の健康をいかに守るかという課題を企業が直視するきっかけになりました。また、健康保険組合(健保)の財政悪化、人的資本の情報開示の義務化も加わって、「健康経営」の重要性は高まる一方です。健康・医療関連情報だけでなく、従業員エンゲージメントなど関連データを駆使した“攻め”と“守り”の「健康経営」について、NRIの西尾紀一が解説します。

健康増進や疾病予防がますます重要に

大企業が独自に設立する企業健保は、重要な社会システムとして日本の医療制度を長年支えてきました。それが今、財政破綻の危機に直面しています。全国で約1400の企業健保のうち、半分以上が2021年度決算で赤字を計上。コロナ渦中の受診控えが災いし、生活習慣病等が重症化する傾向にあり、2023年度は赤字の健保が全体の8割弱に増えることが予想されます。2025年には、人口の多い団塊世代が75歳以上の後期高齢者に達します。さらに膨張する医療費の一部は「高齢者医療への拠出金」として企業健保が支えることになり、一層の財政圧迫が懸念されます。

70歳定年時代を睨んだ認知症予防やフレイル(加齢による虚弱状態)対策など、企業が新たに対応すべきテーマも浮上しています。とりわけコロナ禍を経て重要性が高まっているのが、メンタルヘルス対策です。テレワークが定着し、対面で交流する場や機会が減ったため、一部の人は「この会社にいてもよいのか」と不安や孤独感を募らせています。病欠や休職、離職という旧来の問題だけでなく、人材確保やパフォーマンスの向上などの新しい領域でも、働く人の心身の健康を考えていく必要があります。

守りと攻めの「健康経営」とは?

「健康経営」の具体的な取り組みは”守り”と”攻め”に大別されます。“守り”は個々人を対象に、早期発見・早期介入で重症化を食い止めます。たとえば、健康診断やストレスチェックの結果データをもとに、心身の不調を早期に捉え、病院への受診勧奨や改善指導を行います。これまでは企業健保や産業保険が主に担当してきましたが、別々に要治療者に働きかけると重複や混乱が生じるため、企業側でもスムーズに連携できる仕組みを整備していく必要があります。

“攻め”は、企業全体で従業員をより健康にするための取り組みです。健康診断の結果や医療費などのデータ上では不調とみなされない人もケアしたり、変化の兆しを見つけて働きかけたりする必要があるので、デジタル技術を活かした新たなデータ利活用が欠かせません。最近では、ウェアラブルデバイスを用いて、血圧等のバイタルデータや生活習慣データ(運動・食事・睡眠)が取得しやすくなり、摂取カロリーや血糖値なども個人が自分で日常的に測定できます。こうしたデータを収集し有効活用すれば、早期介入につながるだけでなく、個々人の意識を高め、主体的に健康の維持増進に取り組むモチベーションになります。

とりわけメンタルヘルス対策では、”攻め”と”守り”の両面で新しいアプローチが必要です。不調を引き起こす要因は多岐にわたり、年1回のストレスチェックだけでは補足しきれません。従業員の心理状態や心身の不調や変化を多角的に捉えるために、複数の「網」を用意することが重要です。その際には、働きがいやエンゲージメントを高めるHR施策も役立ちます。NRIでは例えば、Talent Market Placeという、AIを活用した人材×仕事のマッチングプラットフォームを用いて、人材像(スキル、性格、興味や熱意)と業務(社内プロジェクト、トレーニングなどの機会)を可視化・分析し、個人の適性に合った活動や機会を推奨するシステムを開発しています。本人の意向を踏まえた適材適所の実現などもメンタル面のケアに寄与すると考えています。

データ利活用における3つのポイント

“攻め”の観点の取り組みを強化するためのポイントは3つあります。まず、データ活用に向けた体制づくりをすること。データ活用というと、ツールや手法が注目されがちですが、データサイエンティストなどデータの扱いに長けた人材を、ITやデジタル組織だけではなく、「人的資本経営」や「健康経営」を主導する部門(人事・総務など)にも配置するのが望ましい状態です。

第2に、社員向けのインセンティブを設定すること。たとえば、健康増進活動に参加すればポイントが溜まる、ステータスが上がるといった一工夫が、データ収集や新しい取り組みの定着・継続に役立ちます。また、運動促進イベントの共同開催といった企業間連携をうまく活用すれば、自社単独で企画運営するよりも継続しやすく、社員交流の機会が広がります。

そして何よりも重要なのが、トップが三方よし(従業員本人、会社、社会)の経営メッセージを発信し、継続的にコミットすることです。多様なデータを取得し可視化することに対して抵抗感を持つ従業員もいます。会社のためだけでなく、個々の従業員にもメリットがあることをしっかりと伝えて、会社(経営層)と従業員の信頼関係を深めていくことが大切です。

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