2023/09/26
NTTドコモの個人向けローンサービス「dスマホローン」は、2022年のローンチから約1年で累計貸付実行額が200億円を突破しました。順調な滑り出しですが、そこに至るまでの道のりは苦労の連続でした。サービスを立ち上げたNTTドコモの進藤丈二さんと広瀬仁一さん、コンサルタントとして支援したNRIの染谷雅之と野本祐一郎に、非金融事業者がゼロから挑んだプロジェクトの舞台裏を聞きました。
リスクをとって金融サービスに挑む
人口が減少局面にある日本市場では、既存事業を続けるだけでは成長が見込めません。国内通信事業でトップシェアを誇るNTTドコモも新しい収益源を模索してきました。その中で着目したのが、収益性の高い個人向け融資サービスです。
これまでは他社提携を通じてdカード(クレジットカード)、THEO+docomo(資産運用)、保険サービスなどを扱ってきましたが、今回は自社単独でサービスの立ち上げに取り組むことを決意。「自社開発はリスクが大きく、どこまで事業の可能性を信じきれるかが問われます。とはいえ、ドコモの金融サービスにおける新たな収益の柱としてやるからには、本気でリスクもリターンも取りにいこうと覚悟を決めて、自社単独でのサービス立ち上げという意思決定がなされました」と、NTTドコモの進藤丈二さんは経緯を説明します。
新商品・新サービスの開発において、ICT分野と金融分野とでは取り組み方に大きな違いがあります。ICT分野はスピード重視で多様なサービスを数多く繰り出すことが求められているのに対し、金融分野ではサービスに極めて高い信頼性が要求されるので、金融庁が定める厳格なルールを守らなくてはなりません。開発に際して、スピード感と信頼性確保のバランスが勘所になると、NRIの染谷雅之は見定めていました。通信は同じ規制産業でも、金融とは「似て非なるもの」だと進藤さんも指摘します。「それもあって、以前からおつきあいがあり金融分野のITサービス創発に詳しいNRIさんに、規制対応や監督官庁とのコミュニケーションも含めて、プロジェクト推進全般で知見を借りることにしました」
立場の違いを超えて協業する
少数精鋭で走り出したプロジェクトは、新サービスの追加というよりも、ゼロからの新規事業立ち上げに近い感覚だったと、進藤さんは振り返ります。「人手が足りないので、NRIのメンバーも交えて“全員野球”状態で一人が何役もこなし、学習しながら、課題を克服していきました。中途採用者を含めて仲間を増やした結果、最終的に総勢40名以上、ビジネスとシステムで部門を分けて運営する組織へと成長しました」
「サービス立ち上げに伴い、新しく2つの基幹システムを開発しました。特に、勘定系システムは金利計算などお金に関わります。金融庁のガイドラインが定める品質レベルでシステムを組み上げるために、品質面はとにかく重視しました」と、システム開発を統括した広瀬仁一さんは説明します。「開発の途中で全社的にセキュリティ基準が変更され、当初の設計を見直す必要が出てきたのですが、すぐにNRIセキュアさんと連携して議論し、ドコモのセキュリティ基準のモデルケースになるような対応がとれました。何よりも驚いたのは、NRIメンバーの“圧倒的な当事者意識“です。立場の違いを超えて協業できたことは大きな成果につながったと思います」
「ビジネスに必要な業務設計、システム開発の推進、設計、構築など、ビジネスとシステム横断的に伴走させていただきましたが、提案するだけでなく、お客様に密着して自分事としてコミットしたので、充実感がありました。リリース直前にアプリの不具合が見つかるなどトラブルにも遭遇しましたが、大変だとはまったく感じなかったほどです」と、NRI側でリーダーを務めた野本祐一郎は語ります。「関係機関への届け出が金融庁の担当者が交替する時期と重なったのですが、事前に関係づくりができていたので、認可遅延などの問題は回避できました。そうした金融庁対応や規制対応に関するアドバイスの面でも、お役に立てて良かったと思います」
顧客基盤を活かしサービス拡充へ
新しくローンチしたdスマホローンは、1000円から借りることができ、金利は融資限度額と連動させるのではなく、ドコモデータを使った信用スコアで決まります。また、ドコモの携帯電話や所定サービスを利用するほど金利が優遇されるなど、柔軟な設計が特徴です。こうした商品性が刺さって、マス広告で宣伝しなかったにも関わらず、短期間で多くのユーザーを獲得できました。若い人が使うものという先入観に反し、40代の正社員が家族の急な出費のために「ちょい借り」するニーズにも応えられたと、進藤さんは累計貸付実行額を伸ばせた理由を分析します。
「今後はドコモのいろいろなサービスと連携させながら、使いやすく、ドコモユーザーに最初に選んでもらえる融資サービスを目指して、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)を進化させたいと思っています」と、広瀬さんはさらなるサービス拡充を目指しています。「残高をさらに増やし、より高い収益目標を達成したいと思っていますが、規模が大きくなれば、システムも含めて新たな問題が出てくるはずです。そのときには、アジリティ(機敏性)高く対応できるようにテコ入れし、洗練されたサービスに育てていきたいです」と、進藤さんも抱負を語ります。
「今回は、非金融企業が金融サービスを立ち上げるというチャレンジに伴走する機会をいただき、金融領域や関係省庁に関する知見、システム、ビジネス、セキュリティなどオールNRIのケイパビリテイを活用しながら、若手社員も含めてプロジェクトと一緒に成長することができました。誰もが持っているスマートフォンをタッチポイントとして必要なお金を届けるサービスには大きなポテンシャルがあります。NTTドコモさんの幅広い顧客基盤を活かして新たな可能性を追求していくために、私たちも貢献できればと思っています」と、染谷は今後の発展を期待しています。
- NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています