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NRI トップ NRI JOURNAL 財務パフォーマンスに影響するパーパス

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財務パフォーマンスに影響するパーパス

~データから見えてきたパーパス・理念の意義~

メドテックコンサルティング部 羽生 竜平(中央)
事業DXコンサルティング部 小島 健一(左)
金融コンサルティング部 中田 舞(右)

#経営

#ミッション・ビジョン・バリュー構築

2023/10/31

企業経営に関わる概念要素の一つとして「パーパス」が注目されています。日本企業の多くは2016年以降、パーパスを取り入れた経営を模索してきました。ミッション、ビジョン、バリューといった理念体系に、さらに加わったパーパス。その意義や設定後の効果を明らかにしようと、野村総合研究所(NRI)のコンサルタント3名が、定量的な分析に取り組みました。結果からは、パーパス活用のヒントが見えています。

根拠が示されていない気持ち悪さ

一般的にパーパスは、社会における企業の存在意義といわれています。以前からある、ミッションやビジョンとの違いは「自社が社会に存在する根源的な価値を意識する点」だと、羽生竜平は語ります。

羽生「2000年代に、ミッション・ビジョン・バリューという言葉が盛んに取り上げられ、多くの企業が経営理念に設定しました。その後、この動きは沈静化しましたが、日本では2017年に入って 新たにパーパスという概念が着目されました」

ミッション・ビジョン・バリューの見直しなどを通して企業の変革を支えてきた羽生はさらに、パーパスという新たな概念要素を追加することに、どんな意味・効果があるかを考えるようになりました。一般的には、社員のエンゲージメント向上、組織の求心力向上、相互理解による戦略遂行の加速化、対外的にはマーケティングにおけるブランド力向上などが定性的なメリットが多く、その根拠は示されていません。

羽生「財務をはじめとする定量的なインパクトや関係性に対する言及も見当たらない状況でした。コンサルティングをする立場としては、裏付けもなく、パーパスについてお客さまに説明や提案はできません。ならば私たちが、可能な限り定量的な検証をしようと考えました」

検証を行った小島健一と中田舞も、羽生と同じような問題意識を持っていました。

小島「ミッション・ビジョン・バリューといった理念体系 、パーパス、そして最近はサステナビリティも重要といわれています。これらを個別に見るのではなく、体系的にとらえる時期に来ていると思い、関わりました」

中田「私は、パーパスを設定しただけで企業が変わるのか、という問題意識がありました。検証を終えた今も、どう活用していくかを突き詰めたいと思っています」

NRIオリジナルのデータベースを作成

検証は、2022年の冬、情報収集と整理から始まりました。メンバーは、東証プライム市場で売上高5,000億円以上の約300社を対象に、理念 の改訂やパーパス設定に関わる情報を集めていきました。具体的には、各社のウェブサイトやニュースリリース、過去5年ほどの統合報告書をはじめ 、理念の改訂やパーパスの新設・変更 に関する2010年以降の記載をピックアップしました。これらの情報を収集・整理してオリジナルデータベースを作成しました。対象企業を、理念やパーパスの変更状況から以下の4つにセグメント分けして、財務データ(2021年を起点に過去10年間分)と非財務データ(2023年時点のFTSE Russell ESG総合評価)で検証しました。

  •  ①

    パーパスや理念を併せて改訂した企業群

  •  ②

    理念のみ改訂した企業群

  •  ③

    パーパスのみ新設・変更した企業群

  •  ④

    パーパスや理念の改訂がない企業群

 

営業利益指標に表れたパフォーマンス

検証した結果、理念やパーパスに対する各社の動向が見えてきました。自社の理念にパーパスを追加し、理念の体系を変更した国内大手企業は、調査対象の4割を超えていたのです。その動きは2019年から2022年に集中していました。
そして、パーパスや理念の改訂の効果については、予想を超えた結果が得られました。顕著なところでは、①パーパスや理念を併せて改訂した企業群は、④パーパスや理念の改訂がない企業群に比べて、5年間の売上高比率で+2割、営業利益額比率・営業利益率改善ポイントでも統計的に有意差が認められるほどの良いパフォーマンスが見られたのです。

羽生「まずは、パーパスや理念の見直しが約半数の企業でなされていたことに驚きました。通常、大手企業の理念見直しは稀有な事象です。理念の体系に影響を及ぼすパーパスの登場や、企業の創業周年記念の節目などと重なった影響だと見ています。効果においては特に、営業利益指標において、①の企業群は他の群と比較して+3~4割ほど伸びていました。これはパーパスや理念の改訂が、全社員の役割へのコミットに関係したものと考察しています」

一方で、③パーパスのみ新設した企業群については、わずかに良いパフォーマンスが見られる程度、②理念のみ改訂した企業群にも変化は見られませんでした。

パーパスを発信・浸透させる活用が大事

これらの結果をわかりやすくまとめれば、パーパスを新設し理念を見直すことは、企業にとってメリットがある、と言えるでしょう。

羽生「ただし、単にパーパスを新設、理念の改訂をしただけでは、本当の意味での効果は得られません。財務パフォーマンスが良い企業はしっかり“活用”しているのです。例えば、①群のある企業は、理念 ・パーパスを改訂後に、事業とサステナビリティを融合させようと事業構造の改革に着手しました。このプロセスを通じて、『経営理念や目指す姿と変革が有機的につながった』、『調達や生産に対してどうありたいかを考えるなかで、経営理念や行動指針に想いを馳せる思考プロセスに変わった』という声を聞いて います。新しい理念に基づいた組織風土改革についても、専門部署を設定してさまざまな浸透活動を企画・推進し、各種制度の変更にまで着手しています」

取り入れたパーパスや理念を 、社内に発信し浸透を促すとともに、ビジョンや中期計画に反映させる“活用”をしてこそ効果を発揮します。

パーパスは企業にどんな影響を与えているのかを可視化したい。そんな問題意識から始まった、パーパスを定量的に検証する試みは日ごろ思っていたことを裏付ける結果になった、とメンバーはとらえています。

小島「今後はパーパスを、業務や制度のさまざまな場面で活かしてもらえたらと思います。例えば、新事業の立ち上げや業務・システムの刷新時など会社の構えが大きく変わり得るタイミングは、パーパスを考える機会になります。 そこから道筋をつけて、企業のご支援ができればと思っています」

中田「私にとって、今回の結果で一番印象的だったのは、非財務情報で構成されるパーパスの新設・理念体系の改訂 が、財務に結びついた点です。この結果から自信をもって、今後は、長期ビジョンや中期計画など、会社の事業にパーパスを浸透させることで、企業の成長につなげていきたいと考えています」

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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