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KPIマネジメントの再考

執行役員 コンサルティング事業本部副本部長 兼 システムコンサルティング事業本部副本部長 小林 敬幸

#小林 敬幸

#DX

#経営

2023/11/20

KPIとはKey Performance Indicatorの略で「重要業績評価指標」と訳される場合が多い。
組織として立てた目標に対して、その達成度合いを定量的に測ることに特徴がある。一例を挙げると、投下資本利益率、顧客満足度、新商品売上高比率などがある。最近では、デジタル化が進み、顧客獲得単価、コンバージョン率などもKPIとして追加されてきた。現在ではほとんどの企業が、何かしらKPIの考え方を導入しているのではないだろうか。その理由として「定量的に」立てた目標の達成度合いを測るため、経営のPDCAをしっかりと回せることが魅力的に捉えられているのだと思う。

デジタル化で見直すKPIマネジメント

今、あらためてKPIマネジメントの再考が必要と考えるのは、まずデジタル化の進展により、顧客データ、サプライチェーンデータなど、あふれるようなデータが社内各所で取得されるようになってきた点が挙げられる。さらには、企業経営に期待される役割が広がり、ステークホルダーに対し、財務面は当然として、環境、地域社会、人的資本拡充など、さまざまな観点から定量的な説明責任が求められるようになってきたことも契機になっている。とはいえ、場当たり的にKPIを増やすだけでは、社内に混乱を来す恐れがあり、KPIが単なる管理部門のデータ収集業務に陥る危険性もある。

KPIマネジメントを成功へと導く「3つのポイント」

このような認識の下、KPIマネジメントを再考するうえで重要な点を3点述べたい。
まず戦略立案と同じくらいの重要度もしくは、それ以上でKPIを設定すべきだ。よく見られるのが、まず戦略を立案して、その戦略の達成度合い、進捗度合いを測る目的でKPIが「後づけで」設定されるものである。戦略は通常、言葉で表現される。しかも曖昧さを含む。これに対してKPIを設定しようとすると、無数のKPIが考えられる。しかも設定の際には、設定者自身の解釈が入るため、設定者以外の関係者には、このKPIを達成すれば本当に戦略が実現するのかを腹落ちできないこともある。KPIが戦略を正しく表現できていないと、会社のやりたいことと行っていることが整合しない。逆の見方をすれば、しっかりと組織の目指すべきKPIを戦略と同時に考えることで、戦略を具体化しゴールを明確にできる。KPIは戦略の後付けで考えるのではなく、経営レベルで議論し、KPI=戦略の発想で設定していくべきである。

KPIを立案すれば経営の仕事は終わりではない。そこで、2点目として、経営者は組織が実行に移せるような具体的な施策にまで気を配るべきことを言及したい。「顧客LTVの最大化」という目標が近年注目を集めているが、この目標についてKPIを設定することは簡単ではない。LTVとはLife Time Valueの略で、その目標には、顧客とは一度きりのつき合いではなく、顧客に合った提案を次々にすることで長い付き合いを目指すといった狙いがある。ただ、現場にこの目標をそのまま下ろしても戸惑うだろう。とにかく販売数量を増やそうという単純な目標ではないため、具体的にはどこに向かってエネルギーを注いだらよいか分かりにくい。
そこで求められるのが、経営者がKPIを翻訳して分かりやすい行動として現場に伝えることである。そうした新たな行動が促進されるような評価に変えていくこと、顧客軸で営業組織を再編するなどの施策も重要になる。競合他社と差別化するため、独自のKPIを設定しようと努力する企業も多いが、実はKPIにそれほどバラエティはなく、そのKPIを達成するための具体的な施策の方が差別化につながる場合が多い。

最後の3点目は、一度設定したKPIは単年度でなく複数年度にわたり変更しないこと、そして、継続的に達成数値を高めていくべきということである。年度方針を作成する際に、都度KPIを刷新しようとする企業も多いが、毎年KPIを刷新していては、単年度でできる範囲の施策しか手が打たれない。しかもKPIのデータが連続して取得できないため、達成する可能性の高い数値目標が設定されがちである。そのため、次々に新たな目標・施策を打ち出しているように見えても、実際は、成り行きの変革しか実現できていないケースが多いのではないか。
複数年かけて同一KPIを追うことで、段階的な企業変革が可能となり、数値結果を適宜モニタリングすることで、適切なストレッチ目標を毎年設定することも可能となる。

データドリブン経営とKPI

最近はデータを積極的に経営に活用するデータドリブン経営が主流になってきた。確かに無数のデータが取得されるようになってはきたが、経営目的に応じたデータを意識的に取得していかないと、データの洪水に溺れてしまう。データドリブン経営の軸になるのがKPIのはずだ。企業経営として重視するKPIを厳選し、それを具体的な施策にまで落とし込んでいく。さらにはそのKPIを複数年かけて追求することができれば、KPIが単なる期末の結果確認ではなく、企業変革の強力なツールとなるはずだ。

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