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NRI トップ NRI JOURNAL 地域を魅力的に変えるイノベーター集団をつくる 後編――NRIのイノベーション・プログラムで体験した現場のリアル

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地域を魅力的に変えるイノベーター集団をつくる 後編――NRIのイノベーション・プログラムで体験した現場のリアル

「イノベーション・プログラム」チーム
●社会システムコンサルティング部
谷本 敬一朗(新潟・山陰プログラム担当、活動歴6年)
大江 秀明(十勝プログラム担当、活動歴5年)
早川 梨穂(十勝プログラム担当、活動歴3年)
森谷 美祐(新潟プログラム担当、活動歴2年)
廣津 奈緒子(鶴岡プログラム担当、活動歴2年)
●未来創発センター リージョナルDX研究室長
齊藤 義明(イノベーション・プログラム開発者)

#価値共創

#政策提言

#イノベーション

2023/11/24

野村総合研究所(NRI)は地域産業の創出を目指す「イノベーション・プログラム(IP)」を、5地域(北海道十勝、沖縄、山陰、新潟、山形県鶴岡)で9年間に亘り展開しています。現在までに700名を超える起業家、150以上の新事業構想、25の新会社が生まれました。今回は、各地のプログラム運営に関わり、参加者の事業化をサポートするNRIの若手コンサルタントが登場し、イノベーションの現場で起きているリアルを語ります。

前のページ:地域を魅力的に変えるイノベーター集団をつくる 前編
――ユニークな人と事業を生み出すNRIのイノベーション・プログラム

NRI社員がイノベーションの現場に関わる理由

イノベーション・プログラム(IP)は、北海道・十勝での実施(2015年)をかわ切りに、沖縄(2017年)、新潟(2018年)、山陰(2018年)、鶴岡(2022年)と開催地を広げている。1回のプログラム期間は4~7カ月。各地の金融機関や自治体が主催するが、地元の協力者とともにNRI社員が各地に出向いてプログラムを運営する。NRIでのコンサルタント業務もありながら、メンバーがIPに関わるのは、そこに新たな発見や面白さがあるからだ。

谷本:普段は、地方創生やイノベーション政策、スポーツ政策といったテーマの仕事をしています。そのつながりでIPに関わり、新潟と山陰のプログラムを担当しています。自分が好きなことである「ウォンツ」からイノベーションを起こす本プログラムの発想に、私自身、感化されたと思っています。
大江:エネルギー政策やテック系スタートアップの支援をしています。IPには2018年から関わり始め、十勝を担当してきました。個人的にイノベーションに関心があってIPに興味を持っていました。実際に関わると、IPのイノベーターは世間一般のイメージと異なり、地域の魅力をうまく活用し、アイデアで人を幸せにするという志向が強く、私には大きな発見でした。
早川:私は十勝プログラムを3期に亘って担当しています。IPには、地元・北海道への貢献、地方創生の文脈に加え、他のコンサルティングのプロジェクトとは異なる事業支援・立ち上げを経験したいと考え参加しました。今では、地域事務局の自治体や金融機関の方々と連携し仕事をする面白さも感じています。
森谷: 入社して2年目に、新潟プログラムの担当になりました。普段は省庁の政策支援などの仕事をしているので、イノベーション創出の現場を知りたいと思って関わりました。いわゆるスタートアップやアントレプレナーには、自分を厳しく律しながら目的に向かうストイックなイメージがありましたが、新潟プログラムの参加者は、もっと人間味があって、純粋に夢を抱いて動いていました。そんなポジティブな気持ちからイノベーションが起きるとわかったことが印象的です。
廣津:私は普段、観光やまちづくりの仕事をしています。その現場である地方の方々の地元への想いを知りたくて、入社2年目に鶴岡プログラムに関わりました。プログラムの7カ月間は、鶴岡を頻繁に訪れ、数日間の滞在を繰り返していたので、より密に地方の現場を体験して理解を深めています。

イノベーションを生む現場の人の熱量

イノベーション・プログラムの参加者は、期間中に12~15回のセッションを受ける。その過程でチームをつくり、自分たちのやりたいこと「ウォンツ」を起点に事業アイデアを考え、事業案を完成させる。NRIのメンバーはプログラム運営だけでなく、参加者チームに寄り添い、時にはアイデアや想いが先行する参加者たちと議論を重ねることも。その過程で、NRIのメンバーたちも、自身の役割やIPの意義を新たに自覚する。

早川:十勝プログラムで私が支援した参加者に、“おじさん”向けビジネスの立ち上げを目指す男性3人組のチームがいました。彼らは、実はその前年にも参加していたものの、事業構想がまとまりきらず最終セッションまで進むことができませんでした。翌年、再び参加したそのチームに、私は彼らのウォンツやアイデアをフレーム化して整理し、事業づくりのサポートをしました。コンサルタントとしてのキャリアも浅い20代の私がサポートすることに内心では葛藤もありましたが、最終的には、そのフレームをもとに彼らはアイデアの核を決め、すべてのセッションを完走して事業構想を発表しました。そのプロセスと結果を感慨深く思っています。
谷本:私も印象に残っている方がいます。2021年の新潟プログラム参加者に、地元の放送局に勤めている方がいました。テレビ番組をつくる以外で地域に貢献したい、という動機でIPに参加され、事業計画も作り上げましたが、具体的な事業の立ち上げには至っておりません。それでも、その方はその後、放送局の地域振興のための事業部に異動され、地域貢献というウォンツの実現に取り組まれています。IPが地域の方のキャリアをイノベーティブに変えるきっかけにもなると感じた出来事でした。
廣津:鶴岡では、参加者の地元に対する深い愛情、地域ならではの課題を解決したいという強い想いを感じました。なかには、山形県は日照時間が短いので、陽光を浴びる感覚でいられる空間づくりに取り組む方がいました。鶴岡の自然や伝統文化などを活用して、鶴岡の魅力を広く伝えよう、活気を取り戻そう、という気持ちが、参加者からひしひしと伝わってきました。IPに携わる中、私は、強い「ウォンツ」を持つ方々と対話を重ね、自身が納得できるかたちに整理するよう努めました。

【写真】左から早川、谷本、廣津

地域との関わりで、NRI社員としての仕事の姿勢も変わった

各地のIP参加者は、ごく普通の主婦、学生、自営業者、二代目経営者、高齢者など、さまざまな顔ぶれ。プログラム期間中、「ウォンツ」を見つめ、チームとしてその実現に取り組んでいく。その過程で表れる参加者の真剣な姿勢は、NRIメンバーの心をも動かしていく。

森谷:新潟プログラムの参加者には、私と年齢がほぼ変わらない大学生も多くいました。彼らが自分のやりたいことを本気で見つめ、その実現に向けて真剣に取り組む様子を見ていると、これまでの経験や自分の持っているリソースに限りがあるから無理だと諦めてしまうのではなく、自分が置かれている環境で、いくらでも可能性は見いだせる、という気持ちになります。
大江:本プログラムの参加者は、リスクを取ってでも新しい事業に挑戦しようとしている方ばかりです。彼らの事業に対するひたむきさに、私自身も強い刺激を受け、もっとチャレンジをしなければという気持ちにさせられています。

【写真】左から森谷、大江

早川:参加者は、普段の仕事や家庭での役割などいろいろある中で、数カ月に及ぶプログラムにコミットして、チームで一つの事業を作り上げています。翻って、自分がそれほど熱中して取り組めることはあるだろうか、と最近考えるようになりました。
森谷:今後、長い社会人生活を送るうえで、自分がやりたいことを糧にしないと、多くの方に影響を及ぼすことは難しいと、改めて思うようになりました。事業を起こすことに限らず、IP発想の根幹である「ウォンツ」は絶対に必要だと感じています。
谷本:全セッションを完走して、自分でも事業を立ち上げてみたいな、と。経営者として事業を起こすことに憧れと敬意を強く感じ、最近は、一個人としてIPに参加したい気持ちが高まってきました。

今後のイノベーション・プログラムをどうする?

2015年から始まったIPは、内容、やり方を変えつつ、今日まで続き、そろそろ10年になろうとしている。IP継続の背景には、参加者のみならず、地元の支援者たちの熱量の劇的な高まりがある。各地にイノベーションの種を蒔きつつも、多くの地域でイノベーションが自走していくことを、NRIのメンバーは期待している。

谷本:地方に暮らすほうがQOLは高いと私は思っています。難しいのは、地方では仕事や収入を得る手段が少ない、という点。それなら「稼げる」地域になればよいわけで、イノベーション・プログラムがその一助となればと思っています。新潟では、事業化した後、しっかりと利益を出している企業もあります。そうした企業を核として、地方で雇用を生むサイクルを生み出していけたらと考えています。
早川:「ウォンツ」があり、事業を立ち上げたい想いを持つ人は、日本各地にまだたくさんいるはずです。NRIが種を蒔くことでイノベーションを生む仕組みが動き出し、ゆくゆくは地域のみなさんで自走を始める。そうすることで各地域の事務局や参加者たちの横のネットワークも育ち、いずれはNRIがいなくても日本全国でイノベーションを生む仕組みが回っていく。こうなるのが理想です。
大江:IPはイノベーターを育てると同時に、イノベーター集団を生み出すことに価値があると思っています。そこを継続して行うことが、NRIの役割だと思います。プログラム参加者が100人、1000人と増えていけば、おのずと自走していくはずで、そうなったら私たちは離れて、別の新たな地域でイノベーションの種を蒔いていきたいですね。
森谷:現在は東京などの大都市在住者でも、いずれは地方で暮らすことを考えている方もいます。地方に移って事業を起こす道筋を可視化できれば、地方へのUターン・Iターンが増えて、人は各地に分散するでしょう。IPはその仕掛けにもなると思っています。
廣津:IPは、地域のポテンシャルや魅力、可能性を、私たちのような第三者との対話を通じて再発見するきっかけにもなっています。私たちからも新たな視点や刺激を提供することで、地域を盛り上げていけたらと思います。
大江:IPの今後で言えば、デジタルの力をもっと活用してもよいと思います。例えば、私は現在、市民が自由に意見を出し合ってアイデアを広げるプラットフォームの開発を進めています。イノベーターらしく、従来にない新しいやり方で地域に貢献する道を模索していきたいです。

齊藤:10年前、ローカル・イノベーターを育成する場を各地につくろうと、IPを始めました。今日は、私たちNRIの人材も地方創生のリアルな現場で地域の参加者ともに共にもがきながら刺激を受け成長していることを知り、大変嬉しく思います。各地の参加者のみなさんは、IPの4~5カ月間を通じて想像以上の変貌を遂げます。事業構想の最終発表の場では、いつもその姿に感動し、不覚にも涙が出てくることもありました。今では卒業生も増え、イノベーターのコミュニティも発展しています。今後、NRIの手を離れて自走体制に入る地域も出てくると思います。それぞれの地域に適したかたちで、その地域ならではのイノベーションを続けてほしいと思っています。

【写真】新潟イノベーションプログラム(1~5期)の熱狂の大同窓会(2023年9月撮影)

関連書籍

『日本の革新者たち』

野村総合研究所 齊藤 義明 [著]
ビー・エヌ・エヌ新社 発行

100人の革新者(イノベーター)たちにみるイノベーションのキラースキルを分析し、「成功していく起業家の実像」に迫る。

『イノベーターはあなたの中にいる』

野村総合研究所 齊藤 義明 [著]
東洋経済新報社 発行

地域に創造的起業家(革新者)を育成・増殖させるために開発した“イノベーション・プログラム”実践の虎の巻。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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