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社会インフラの「予防保全型」維持管理――転換への3つの課題

システムコンサルティング事業本部
DX事業推進部 矢野 誠一郎(手前右)、馬場 耕太(手前左)
YHプロジェクト部 板野 壮一郎(右奥)
システムデザインコンサルティング部 板東 洋平(左奥)

#価値共創

#DX

#データアナリティクス

2023/11/30

道路、橋、トンネルなど日本の社会インフラの老朽化が進んでいます。次々と施設や設備を新設して利便性を高める時代が終わった今、建設から時間の経ったそれらをいかに長期的かつ安全に利用し続けられるかが、社会全体の課題となっています。課題解決に向け、NRIは国や自治体、事業者の生の声を多数ヒアリングし、現実解を模索してきました。今回は代表して、矢野誠一郎と馬場耕太に、劣化が軽微なうちに修繕等を行う「予防保全型」維持管理について聞きました。

事後保全型から予防保全型への3つの課題

道路、橋、トンネルなど社会インフラの多くは50年前の高度経済成長期に建設されており、戦略的な維持管理・更新が必要なフェーズを迎えています。社会インフラは私たちの生活に密着しているため、崩壊事故などの発生時の影響は甚大なため安全性の確保が重要ですが、そのためには、維持管理費・更新費が右肩上がりに増加していくことになります。国土交通省は「事後保全型」に比べて、「予防保全型」の維持管理がトータルコストを抑えられるという試算をしており、予防保全型の維持管理への転換を推奨しています。

予防保全に寄与するデジタル技術として、ドローンや各種センサーによる点検・検査技術が登場しています。インフラオーナーである自治体や、点検・修繕工事を担う事業者では、技能職・技術職の人手不足が進んでいるため、新技術を用いて誰でも同じ品質で効率的に点検・検査が出来れば、人手不足の解決に寄与します。このように技術進歩は予防保全型維持管理への追い風にはなりますが、単純な技術導入では解決できない課題が3つあります。

1つ目は財政面の課題です。事後保全の修繕に加えて、予防保全の観点からの修繕をする場合は、修繕箇所が増えて一時的にはコストが膨らみます。予防保全の効果は長期的な視点で考える必要があり、効果を刈り取るには相応の期間が必要です。自治体は単年度で予算を組むのが通常なため、長期スパンで予算を確保するケースは稀です。長期予算確保に向けては、国土交通省はインフラメンテナンスを長期で民間に委託する「包括的民間委託」の手引きを示していますが、管理するインフラの種類・状態・自然条件、インフラ維持管理の組織体制、地場の事業者の数・規模などが個々の自治体で様々なこともあり、長期の包括的民間委託を有効に活用できている自治体はまだ限定的です。

2つ目はDX(デジタル・トランスフォーメーション)の課題です。インフラが劣化する前に修繕をするためには、センシングによるインフラ状態データの取得とデジタル基盤によるデータ蓄積・分析・可視化が重要です。現在のインフラ状態をセンシングするだけでも予防保全を進めることはできますが、予防保全効果を最大化するには劣化予測をするなど、より高度なデータ分析が必要です。インフラ状態だけではなく、天候、修繕方法、使用材料など多様なデータを中長期で取得・蓄積して分析・活用ができるデジタル基盤、及び、データを活用した高度な事業運営をする組織作りが実現されて初めて、予防保全の効果が最大化されます。ただし、予防保全効果は長期間での刈り取りとなるため、このようなデジタル技術への投資や組織改革の実行は、自治体にとって簡単な決断ではありません。

「三方良し」のスキームを生み出す難しさ

3つ目はスキーム面の課題です。社会インフラは、インフラオーナーである国や自治体、点検・修繕をする事業者、利用者である住民の3つの関係者が存在するため、3者が納得するスキーム作りが求められます。自治体は、限られた予算内で増加する老朽化インフラを維持管理する必要がある一方、地元事業者の雇用維持のためにも、効率化による単純な業務量の削減は望ましくありません。住民が維持管理コスト増を抑制しつつ従来通りの水準でインフラを利用し続けるためには、何らかの方法でインフラ維持管理に関与するスキームが求められます。

この財政、DX、スキームの3つの課題を乗り越えて、予防保全型維持管理の成功事例を示すことができれば、他の自治体への水平方向、市町村レベルへの垂直方向への展開が見込めます。しかし、現時点では、この3つの課題を解決した成功事例が明確には存在しないのが実情です。

成功事例の創出に向けて

予防保全型維持管理への転換が全国的に進むためには、まずは成功事例を創出することが重要な第一歩です。成功の1つの姿として、長期のインフラ維持管理業務を事業者に魅力的な規模で委託すると同時に、インフラ状態の取得・蓄積・分析にデジタル技術・基盤を活用することで、自治体や事業者に加えて住民もデジタル技術を通じて維持管理へ参画できる姿があるのではと、我々は考えます。長期委託により、予防保全効果を自治体だけではなく事業者も享受しつつ、デジタル技術・基盤の導入により、人手不足の解消や自治体・事業者の業務高度化、住民によるインフラ状態モニタリングの補完が可能になります。この絵姿の実現を後押しするには、長期委託制度やデジタル導入の推進を所管する国への働きかけがカギになります。

NRIの使命の一つとして、新しい社会のパラダイムを洞察しその実現を担う、というものがあります。我々はインフラ老朽化という社会課題解決に向け、各種環境の分析、国や現場関係者へのヒアリングからパラダイムシフトとなる新たなスキームを描きます。各関係者が一緒に取り組めるような絵姿を描きつつ、実現に向けたステップも描きながらいかに実現まで牽引するかが、我々の腕の見せ所です。

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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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