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生成AIでビジネスはどう変わるのか

未来創発センター 鷺森 崇、長谷 佳明

#AI

#経営

#DX

2023/12/18

ChatGPTの流行によって、生成AIのビジネス活用に注目が集まっています。しかし生成AIには苦手分野もあればリスクもあり、導入には相応の検討や準備が必要です。生成AIのビジネス活用に向けて、企業は何に取り組むべきなのか。技術的な視点で見た場合の展望や課題について、本テーマに詳しい未来創発センターの鷺森 崇、長谷 佳明に聞きました。

広がる生成AIのビジネス活用、広告制作やデザインにも

生成AIの出現を機に、AIは文章、画像、音声といった新しいコンテンツを「創造」できるようになりました。野村総合研究所(NRI)が2023年の5月と10月に行ったアンケート調査によると、日本のビジネスパーソンの間で生成AIへの認知が急速に進展しています。5月の時点では認知度が50.5%であったのに対し、わずか5ヶ月後の10月には、その数値は70.5%まで急増しました。

生成AIに関する市場規模は世界全体で急速に拡大しており、2022年で約1.5兆円、2032年には約21兆円※1に達すると見られています。それに伴い日本でもビジネスでの活用に期待が寄せられており、すでにIT・通信、教育・学習業界を中心に導入やトライアルの実施が始まっています。企業においてはマニュアルや議事録作成といった社内サポート業務での利用のほか、広告制作やオフィスデザインなどのクリエイティブ領域を中心に、顧客向け利用も行われるようになりました。生成AIを活用して、オリジナル楽曲の生成AIを提供する企業や、商品のパッケージデザインを生成AIによって提案するといった、独自の新しいサービスを提供する企業も登場しています。

ただし、生成AIのビジネス活用にはリスクも伴います。「決められた行為の自動化」だったAIが「創造」できるようになったことで、リスクはより多面的になりました。Webから収集された学習データには、著作物や有害コンテンツが含まれている可能性があります。また生成AIのモデルは、開発過程で別のモデルを含んでいる場合もあります。その系譜をすべてさかのぼり商用利用が可能かを調べるのは、非常に困難です。このような著作権の侵害は、生成AIリスクの代表例でしょう。

生成AIは基本的に「わかりません」と言うことができません。そのため事実と異なる回答をくり返す可能性があり、このようなハルシネーション対策として情報検索の用途ではファクトチェックが必要不可欠です。さらに近年深刻化しているのが、ディープフェイクと呼ばれる悪意あるユーザーによる誤情報の生成・拡散です。生成AIは非常にリアルな画像・動画・音声などを簡単に生み出すことができます。これを悪用してフェイク画像・動画を拡散し、詐欺をはたらく例が多発しています。こうした状況に鑑み、国内外でAI関連法規制の策定が進められています。導入を検討するうえでは、国内のAIガイドラインと海外の法規制の動向を注視すべきでしょう。

生成AI時代においてビジネスパーソンに求められるのは、AIを理解し、ビジネスにうまく活用する能力です。データリテラシーやAIの基本的な原理・利用方法に対する理解力がそれにあたります。また、リスクを把握してメンバーに周知し、対策に向けた教育を施す能力も必要になるでしょう。自らが積極的にAIに触れ、最新の情報をキャッチアップすることで、こうした能力を身につけていかなければなりません。

生成AIはなぜ“人間さながら”の回答ができるのか

生成AIの特徴は、まるで人間とやり取りしているような自然な使用感です。それを支えているのが、2017年にGoogleが発表した大規模言語モデル「トランスフォーマー」です。それまでのAIネットワークでは、並んでいる単語を順番に認識し、次に何が来るのかを予測していました。「よろしく」の次には「お願いします」が続きそうだ、という感じです。これがトランスフォーマーでは、一度にすべての文章を認識し、各単語間の関係性を理解できるようになりました。離れた場所にある単語どうしの関係性も理解できるようになったことで、言語認識の精度が飛躍的に上がったのです。

トランスフォーマーの効果は、学習効率の面でも発揮されています。学習時に並列処理が可能な構造であるため、計算リソース次第でこれまで不可能と思われた程、膨大なデータを学習できます。AIの回答精度を上げるには、AIが大量の学習データを学習しやすい形で準備しなければなりません。そこで効果を発揮したのが、自己教師有学習です。自己教師有学習では、穴埋め問題などを機械的に生成するため、アノテーションが不要です。結果、大量のデータを短期間のうちに準備できるようになりました。

学習に適したモデルと学習データがそろい、生成AIモデルの大規模化はますます加速しました。OpenAIがマイクロソフトの支援によってつくったGPU1万基からなるAIスーパーコンピューターは典型的な例です。その結果、生成AIは、少ない指示文(プロンプト)だけでさまざまなタスクを処理できるようになりました。さらにChatGPTは、会話のお作法、文の良し悪しといった個人的な好みに合わせる能力をも獲得しています。生成AIが見せる人間のような自然なやり取りは、こうした技術のたまものです。

AIが自ら考えて行動する未来は近い

一方で生成AIには、従来のAIにはなかった問題点もあります。その最たるものが、コストの大きさと処理時間の長さです。生成AIは学習と推論の両面で膨大な電力とGPU設備を必要とし、膨大なコストがかかります。また、文字認識のような認識系AIと比べ、モデルも大きいためレスポンスが遅く、学習データもあまりに膨大であるため、内容を精査しきれないという問題もあります。

こうした問題を解消するため、生成AIは今後「大規模で多機能なモデル」と「限定的な機能で省電力を目指すモデル」に二分されるでしょう。すでにマイクロソフトリサーチは2023年6月、小規模ながらGPT-3.5と同等性能のモデルphi-1を発表しています。パラメータ数は、わずか13億パラメータとGPT-3の100分の1です。国内では理化学研究所が、日本語に特化した言語モデルを開発しています。また、Facebookを運営するMetaの開発したコード生成に特化した言語モデル「Code Llama」など、大規模化とは異なる、特化型のモデルが新たなトレンドになっています。

生成AIは、巨大なニューラルネットワークの中に、要約や意味理解のような言語処理、いわばシステム的な機能と、学術的な知識のようなデータとが密結合したシステムになっています。このため現状のままでは、新たな知識を注入すると、完成度の高い別の機能が劣化するなど、メンテナンス性の悪いシステムになっています。今後の可能性では、生成AIもアーキテクチャ化が進み、例えば、言語処理を担う生成AIと知識をつかさどる生成AIとが分離、独立し、必要に応じ連携することで解を生成する方式などが考えられます。

生成AIは、コンピュータの上に構築されていながら、計算のような数の処理が苦手です。そこで、生成AIは全てを自分で賄うのではなく、不足する能力を別のシステムで「拡張」するアプローチが始まっています。ChatGPTの有料版を利用したことがあるユーザーならご存じのように、ChatGPTのプラグインには、「Advanced data analysis」という機能があります。データ分析用の言語として人気のPythonのランタイムとChatGPTを連携し、簡易なデータ分析なら、誰かにメールで頼むような感覚でお願いできます。Advanced data analysisは、生成AIに足りない機能を別のシステムで拡張する萌芽事例といえるでしょう。

近い将来には、生成AIは自ら作業計画を立て遂行できるようになるでしょう。Googleは2022年11月、推論と行動を組み合わせたフレームワークReActを発表しました。これは人間が設定した目的に向けて、AIが自ら思考・行動するというものです。AIは単なる自動化ツールではなく、自律駆動型AIエージェントへと成長を遂げると考えられます。

その先にあるのは、おそらく複数のAI同士が連合し、より優れた解を導く、MoE(Mixture of Experts)であると予想しています。ノースカリフォルニア大学の研究者らが2023年9月に公開した論文「ReConcile: Round-Table Conference Improves Reasoning via Consensus among Diverse LLMs※2」では、まるで「文殊の知恵」のように、複数の生成AIに会話させ、単独よりも優れた解を導くことに成功しています。

生成AIも今後は「シングル」から、複数のAIが連合するMoEの「マルチ」に発展していくと思います。これは性能が単に向上するだけでなく、別の効果もあると考えています。単一の巨大なモデルでは、どのように「思考」したのか、詳細を知ることは困難です。あえて生成AIに問い合わせてロジカルに説明させたとしても、それが本当の思考過程なのかは保証できません。しかし、複数のAIが連合し会話しながらやり取りすれば、会話履歴がログとなり、どのように問題を解決したのか、私たちにとって自明なものとなります。

将来、生成AI同士の会話を監視し、性能異常や倫理的に好ましくない発言を検知するような監視サービスが登場するかもしれません。また、気になる生成AI間の連携ですが、プロトコルは「言葉」になると思います。これまでシステム間連携というと、データの仕様を合わせて通信方式を決めるなど「機械的なシステム」でした。しかし生成AIは、言語を獲得しているため、言葉を活用した「人間的なシステム」になると考えています。

今の生成AIには課題も多く、ビジネスに使うにはまだまだ発展途上です。しかしその技術は、驚くべきスピードで進んでいます。生成AIは、業務効率を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。企業はその特徴と最新動向を理解して、自社の業務への活用を検討していくべきでしょう。

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