フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL ミドルの価値観

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

ミドルの価値観

執行役員・経営企画担当 山口 隆夫

#経営

2023/12/20

時間に追われると、目には見えないほどの小さな差が積み重なり、いつしか大きなことになっていることがある。華々しい成果も、地道な努力の積み重ねでしか得られないものだとすると、その積み重ね方が何より重要だ。
それを組織に重ね合わせてみれば、洋の東西を問わず、仕事仲間、顧客と最も会話を多く交わすであろう、ミドル(中間管理職層)の日々の判断が大事になる。さらにいえば、ミドルの判断に至った価値観が後々の組織における競争力の礎ともなる。

SRIのチームワークの要、「チャンピオン」の役割と3つの価値観

そのことを再考したきっかけは、先日、当社(野村総合研究所)の設立へ関与し、当社の設立趣意書にも当時のモデルとして言及されているSRI International(以下、SRI)の組織運営について話をうかがったことだ。SRIはスタンフォード大学が1946年に設立した研究所を起源とし、コンピュータのマウス、URL、モバイルコミュニケーションなど、生活を変えた技術を産んだ非営利の研究機関だ。なぜSRIが3/4世紀以上にもわたり、世界を変えるような著しい成果を上げ続けているか。その秘訣の一つが、天才に頼らずチームワークを重視するという基本的な運営思想にあるという。
ここでいうチームは、専門性を備えた研究者で構成される。チームワークの要は「チャンピオン」だ。チャンピオンは顧客の立場に立ち、スタッフをまとめていくリーダーであり、組織上のミドルである。計画段階から予算獲得、技術の実用化に至るまでのプロジェクトを運営し、数々の問題を解決しながら成果を生んでいく。そのチームを束ねるチャンピオンはどんな行動様式を持っているのか。特に学びたい点は以下の3つの価値観である。
まず、顧客、社会価値へのこだわりである。非営利法人のため、成果は営業利益のような指標では測定できず、自ずと案件の獲得額と主観的な評価になりがちである。しかしそれでは組織の持続性が保てない。SRIでは、常に顧客と、その先にある顧客の価値の観点から案件を評価し、研究機関として世の中における存在意義を絶やさないようにしている。
次に着目した点は、シーズのニーズへの転換の考え方である。「技術が活きるはずだ」というニーズの思い込みではなく、SRIでは、その技術の適用に関連する場所、モノ、人間の観察を通じて、社会で実用されるニーズに対する技術の適用を重視する。
最後に、チームワークの要とされる信頼の原則を重視していることである。それは他者への敬意、裏表のない誠実さなどを指すが、端的にいえば助け合う気持ちを持っているかどうか。注目したのは、SRIでは、チャンピオンがこうした気持ちを行動で示しているかどうかという表面的なことではなく、人間の資質として潜在的に備えているかどうかを重視している点である。

ミドルの価値観で変わるチームワーク

チャンピオンは、社会を変え得るような高度な専門性と障壁を乗り越える組織運営力を兼ね備えた稀有な存在といえなくもない。ただ、その過程にあるチームワークとミドルの価値観が毎日の地道な努力の糧となり、大きな成果を生んでいるのである。そう考えれば、私たちの日常にも通じるものがあると感じられ、ぐっと力が湧く。
国内に視点を転じてみると、いつの時代も組織のミドルは忙しい。仲間の離職、組織内・顧客とのトラブル、部員、課員のマネジメントなどへの心理的負担は大きく、人材育成、事業目標の達成、私生活とのバランスなどが崩れると、ミドルは理想との乖離に悩む。
しかし、事業を拡大させ、顧客に喜ばれる新たなサービスを展開し、社会の課題を解決することにおいては、ほかでもない、その志が高いミドルこそが絶好のポジションにいるともいえる。組織内の上下関係あるいは顧客との間で波のように打ち寄せるニーズや要望を、波打ち際で聴き、感じ取る立場にいることは大きい。そして、それらは決して一人では解決できないことも知っている。そのとき、部員、課員は既に管理、マネジメントをする対象ではなく、そうした課題を解決する同僚、仲間であり、自ずとチームワークが求められる。その時、大事にすべき価値観は、あらゆることはほかのメンバーとの協力関係で成り立っていることを理解し、チームを優先する気持ちにほかならない。

失敗をしたくないという思いが先に立つと、当たり前のような上記の価値観を歪めてしまう。日本は失敗への許容度の低さが問題視されることもあるが、大事なことは成功や失敗を先に思うのではなく、どのような考え方で取り組むか、だと思う。これを単なる理想的な精神論と見るか、それとも注視すべき小さな意識の差の総和と見るか。日々の努力の積み重ねは目指すことの実現に大きな差を生むように思う。

知的資産創造10月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:カーボンニュートラルからネイチャーポジティブへ

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着