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岐路に立つローカル線、「地域経済の牽引役」として立て直しなるか

コンサルティング事業本部 新谷 幸太郎、川手 魁、大畑 毅志、倉林 翼

#運輸・物流・倉庫

#公共

2023/12/26

人口減少社会において、ローカル線の維持はますます難しくなっています。その一方で見直されているのが、観光資源としてのローカル線の価値です。単なる移動手段としては収益性が低くても、地域の自然・文化・歴史の象徴として欠かせない存在であるという声が高まっています。野村総合研究所(NRI)では、「地域住民の生活基盤としてのローカル線」と、「地域経済の牽引役としてのローカル線」という2つの役割に着目して、持続可能なローカル線のシナリオを描きました。未来を見据えたローカル線のあり方とは、どのようなものなのか。本テーマに詳しいコンサルティング事業本部の新谷 幸太郎、川手 魁、大畑 毅志、倉林 翼に聞きました。

変わらぬローカル線の苦境、マイカーの便利さに勝てず

ローカル線の存続は依然として厳しい状況です。JR各社の費用構造改革が進んだことにより固定費が下がったものの、足元の鉄道利用者数は完全には回復していません。今後もローカル線を抱える鉄道事業の事業性は、ますます低下していくと見られます。これまでの利益水準を維持するには、客単価の増額や路線の縮小を迫られることになるでしょう。

ローカル線の利用者数低迷は、沿線人口の減少が一因と考えられます。しかし根本的な要因は、マイカーの普及を前提としたまちづくりにより、鉄道の利便性が相対的に低下したことがあげられます。長距離大量輸送が得意な鉄道と、現在の地域の移動ニーズとは必ずしもマッチしていません。少子高齢化・過疎化で地方の鉄道利用者数は減少傾向にあり、現行の運賃では採算が合わなくなってきています。安い運賃でたくさんの乗客を輸送できるという、鉄道の強みを発揮できなくなっているのです。

さらに鉄道には、乗り換えや待ち時間が多く発生するというデメリットがあります。そのため、地方では鉄道よりも小回りのきくマイカー移動が定着しています。高齢者にとっても、ドアtoドアで移動できるバスやタクシーのほうが使い勝手がよく、免許返納後の代替手段として鉄道は選ばれにくくなっています。バスやタクシーにも、ドライバー不足や運賃の高さといった弱みはあります。しかし、少子高齢化や過疎化の傾向は今後も変わらず、鉄道事業単体の持続可能性の課題は解消しそうにありません。

期待される「地域資源」としてのローカル線

その一方で期待を集めているのが、地域の自然・文化・歴史の象徴としてのローカル線の価値です。こうした「シンボル的価値」は自動車では代替不可能であり、地域経済全体への波及効果で見ると十分な経済効果も期待できます。

その先行事例となるのが、1997年の運行開始から26年間にわたって運行されており、観光列車として名高い「リゾートしらかみ」(JR五能線)です。生活基盤としての五能線が年間約38億円の赤字に苦しむものの、「リゾートしらかみ」の運行に伴う効果を抜き出すと、約4億円の黒字を確保しています。なにより、年間30億円にのぼる地域経済への波及効果を発生させているのです。

「リゾートしらかみ」の黒字は、高単価の長距離路線を含めた周遊ルートを構築することで発生しており、必ずしもすべてのローカル線で再現できるとは限りません。しかし、ローカル線を取りまく環境が悪化する中、従来の「移動手段」とは別の視点からシナリオを描いた点は特筆されます。ローカル線において注目されている「地域経済の牽引役」という新しい側面。その価値を再検証することは、ローカル線の持続可能なあり方を模索する上で非常に重要です。

官民の「戦略的な経営リスクの共有」が現状打破の鍵

ローカル線をもっぱら移動手段として捉えるのか。それとも、地域経済の牽引役として捉えなおすのか。わたしたちはその岐路に立たされています。前者を選ぶなら、多大な運行費用を地域全体で受け入れ、鉄道と道路を統合して自動運転などの技術導入を進めることになります。鉄道会社もサービスを維持・改善するために継続的な投資が必要になりますが、少子高齢化で収支改善のめどが立たない中、あまり現実的ではないかもしれません。

一方で後者を選んだとしても投資は必要です。しかし「地域」という新たな投資の担い手が加わることで、鉄道事業の見通しはいくらか緩和するでしょう。「リゾートしらかみ」の分析から、観光列車は地域に恩恵をもたらす一方で、ローカル線の赤字を解消するまでには至りません。鉄道会社の資本力に依存するのではなく、官民が経営リスクを共有して、経済波及効果を大きくするための環境整備や沿線の魅力を底上げする投資が必要になります。地域全体で「未来の地域交通サービス」としての鉄道のあり方を模索することが望まれます。

さらに鉄道会社には、これまで培ったノウハウを活かした助言など、地域産業界との連携が求められます。一方で地域にも、課題解決策の提案や魅力的な観光施設の設立、継続性のある事業計画の立案とその展開といった主体的な取り組みが必要になるでしょう。

「地域経済の牽引役」としての鉄道を実現するためには、費用の分担方法にも工夫が必要です。妥協の産物として“なんとなく”費用を分担するのではなく、鉄道会社と地域双方のモチベーションを高める戦略的な費用分担方法を模索していかなければなりません。例えば、施設の運営・管理を鉄道会社が行う一方で、収入が一定基準を下回った場合は自治体が補助金を拠出し、負担を共有する方法があります。収入が一定基準を上回った場合は利益相当分の一部を自治体に還元するといった、成果報酬の導入も有効でしょう。他にも自治体が鉄道会社と共同で出資と経営を行えば、需要創出の段階から主体的に関わりやすくなるかもしれません。自治体や地域全体でローカル線の活かし方を考え抜き、鉄道会社に共同企画を提案できるかどうかが、現状打破の鍵になりそうです。

ローカル線は単なる移動手段という枠を超え、貴重な地域資源となりつつあります。実際に、ローカル線が地域経済の牽引役を果たすためには、さまざまな課題に直面することになるでしょう。そうした課題に対しても、官民が連携し、資源と知恵を出し合い地域全体で解決を図っていけば、未来を見据えたローカル線のあり方が見えてくるはずです。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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