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生成AIと非認知能力

執行役員 システムコンサルティング事業本部長 郡司 浩太郎

#AI

#経営

#DX

2024/01/19

今日急速に進んでいる生成AIの活用・技術開発は、1960年代の第1次ブームから数えると、第4次ブームの胎動といえるほど加熱している。特に、2023年3月にGPT-4がリリースされたことを境に、驚くべきスピードと関心度を持って世界中で拡大している。民間企業においても、コンサルティングファームやITベンダーが提案するまでもなく、自社の業務効率向上を目的としたユースケースの開発、AIの適切な使用に関するルールやガバナンスの策定、自社AI環境の基盤整備など、各社内の検討が一斉に開始されている。お客様との対話からも、経営陣の方が自らスマートフォンでChatGPTを試していることに気づかされる。IT部門や一部の専門家が扱っていた過去のAIブームとは少し様相が異なる印象だ。

AIとロボティクスがもたらす、ユーザーインターフェースの未来

AIとロボティクスの融合も目を見張るものがある。2022年、最新技術の見本市「CES2022」で公開されたEngineered Arts社のヒューマノイドロボット「Ameca」は大きな注目を集めた。通りがかった来場客が話しかけると、彼女はすぐに応対を始め、対話の途中でしげしげと自分の手を見つめ、回答する際に一瞬斜め右上を見つめる(これはAmeca独特の癖のようだ)。撮影している周囲の人々に気づくと、彼女はちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべ微笑みながら手を差し伸べる。多少失礼な質問に対してはジョークで切り返すこともある。私自身、時間を忘れてその動画に見入ってしまった。

AIとロボティクスの技術進歩は、ユーザーインターフェースの大変革だともいわれる。
2007年にApple社が「電話を再発明」して初代「iPhone」をローンチして以降、旧来型のコミュニケーションインターフェースはスワイプ(拭い取る)された。同様にAIが組み込まれた各種デバイスによって、人々や企業内外のコミュニケーションは再び「再発明」される可能性がある。実際に同社が2024年に販売を予定している「VisionPro」は、ARやVRを体験できる「ゴーグル」ではなく、「空間コンピュータ」として位置づけられている。このデバイスにより、テキストやアイコンを介さず、人間が外界を感知するための五感(現在は視覚・聴覚・触覚)を直接的なインターフェースとした没入体験が可能となり、デジタル空間に「もう一人の自分」が出現する。前述のEngineered Arts社も、AmecaはAI武装した最新のヒト型ロボットであり、ヒューマンロボットインタラクション(HRI)に最適なプラットフォームとしている。ユーザーインターフェースの未来は非常に魅力的であり、人々の日常生活やビジネスに大きな変化をもたらすことが予感される。

生成AIは「非認知能力」を強化する

これらの技術進化の延長線にはどのような可能性があるだろうか。筆者は、AI武装された対話型インターフェースは、相手の行動や感情をデータ化するだけでなく、対話を通じた人の「非認知能力」の育成・強化に役立つものと考えている。認知能力(認識力や問題解決能力など)は選択問題や正誤問題を解く能力であり、企業の基幹業務の多くはこれに該当する。言い換えれば、正確な処理を反復的に大量かつ高速に行う業務である。このような業務は、今後、IT化や機械化の進展によってますます代替され、企業の生産性向上に寄与するだろう。
一方、非認知能力(コミュニケーションスキル、共感力、文脈理解力など)は、日常生活や社会活動において重要な影響を与える。これらの能力は、対話やコミュニケーションを通じてのみ磨かれるとされる。たとえば、ブランド品の魅力を伝える際には、商品の背後にある歴史やストーリーに共感することが顧客支持につながる。老舗高級ホテルのフロント応対業務も、重要な顧客との関係構築や相手の生活背景、趣味趣向、考え方などを理解することで、満足度の高いサービスが提供できる。実際、そうしたホテルを利用する欧州の富裕層は、たとえ手間と時間がかかることになったとしても、フロントでの対面予約に価値を見いだしていると聞く。また、教育分野では、「何を学ぶか」だけでなく、「誰から学ぶか」が生徒のモチベーションに大きな影響を与えることがあり、筆者自身の原体験としてもそれは間違いない。非認知能力は、こうした対話を通じた文脈理解と共感する力だといってもよい。

AIやロボティクスが進化・普及し、企業活動のあらゆる場面で活用される時代はそう遠くない将来に現実となる。そのとき、認知的な業務の自動化や効率化は進展する一方で、企業の優位性や競争力を高めるために、どのような非認知能力を強化していくかが新たな経営課題として浮上してくるだろう。生成AIは非認知能力を向上させる道具として既に活用され、そのポテンシャルは非常に高い。AI自身が人間の非認知能力の一部を模倣し、人間との対話を通じて育成・強化することが可能になっている。
AIと人間が協力することで、より賢明で効果的なビジネス環境が築かれていくだろう。

知的資産創造11月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:AI時代のテクノロジー活用の攻めと守り

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