フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 生成AI時代の新たな社会を展望――NRI未来創発フォーラム TECH & SOCIETYを開催 前編

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

生成AI時代の新たな社会を展望――NRI未来創発フォーラム TECH & SOCIETYを開催 前編

#AI

#DX

#経営

2024/01/30

2023年10月30日、野村総合研究所(NRI)は「NRI未来創発フォーラムTECH & SOCIETY」をオンラインで開催しました。今回のテーマは「生成AI時代の新たな社会」。長年にわたりAIと社会との関係を研究してきたNRI未来創発センターの3名が、それぞれ専門の立場から講演し、生成AI時代の人間とAIの関係、AIが常在する新たな社会における課題や展望などについて考察しました。前編では、Session1~3の講演を報告します。

AIと資本主義:創造力革命か隷従への道か

Session 1では、未来創発センター デジタル社会研究室長の森 健が登壇し、資本主義が生成AIをどのように取り込んでいくのかを独自の視点から論じました

生成AI「ChatGPT」は2022年11月の公開後3カ月でユーザー数が約1億人に達しましたが、これはCovid-19が生活のデジタル化を伸展させ、デジタルデータが多いほど学習精度が上がる生成AIの登場を後押ししたとも言えるでしょう。歴史を振り返ると、14世紀半ばには、ヨーロッパを襲ったペストの大流行により深刻な労働力不足に陥り、これが活版印刷術という革新的なツールの発明を促し、書籍の出版が飛躍的に伸びたというケースがあります。
森は、「活版印刷の発明がルネサンス期におけるまさに情報爆発と創造力革命を引き起こしたように、生成AIは“空間”や“時間”の地平を拡張するだけでなく、人間以外の存在とのコミュニケーションという“心”の地平も拡張する。生成AIはコミュニケーションと創造力革命の源泉だ」と述べました。

現代の日本経済は、知的財産へ投資しても技術進歩や効率性向上につながりづらい「アイデア生産性」の低下に直面しています。経済成長理論では、経済成長は「労働投入量の変化」「資本投入量の変化」「TFP(全要素生産性)の変化:効率性向上や技術進歩などを含む概念」で成り立っており、労働投入量や資本投入量が変化しなくても、効率性が上がれば経済成長につながると考えることができます。労働投入は今後もマイナスが予想され、資本投入も縮小する日本経済では、いかにTFPを増やすかがポイントです。

森は「資本主義はまさにうってつけのツールである生成AIを活用することでアイデア生産性やTFPを高め、経済成長につなげようとするだろう」と予測。アイデア生産性は、アイデアフロー(アイデア量を増やす)とアイデア価値化(アイデアを価値につなげる)に分けることができますが、特にアイデアフローが重要で、森は「人間と生成AIは協業し、アイデアの大量生産やプロセスの効率化を図るだろう。これからの経済成長では“創造力”が勝負であり、その鍵を握るのが生成AIだ」と強調しました。
創造力についてNRIは、1990年刊行『創造の戦略』で、情報化社会に続く第4の波として「創造化社会」の到来を予見していました。創造化社会ではアイデアを大量生産する「(仮称)創造業」が登場し、創造力の産業化と知的資本の蓄積が進むでしょう。

創造化社会には、創造主体の違いから3つの未来像を想定できます。シナリオ1「良きダイモン」は、生成AIをダイモン(古代ギリシャ神話の精霊)つまり良きアシスタントとして人間が創造性を発揮します。シナリオ2「アイデア消費」は、少数の人間が創造したアイデアを大多数の人間が消費します。シナリオ3「アイデア・オートメーション」は、生成AIがアイデアを自動生成し、人間は事実上隷従します。森は「言うまでもなく、生成AIを良きダイモンとすることで人間のウェルビーイングを向上させ、同時に経済成長を追求するシナリオ1がベストな未来像だ」と述べ、「日本は生成AIを活用することで、世界で創造化社会をけん引するポテンシャルを有している。どのような未来像を作るかは、私たちの選択と行動にかかっている」と締めくくりました。

拡張される社会:人とAIの協力のデザイン

続いてSession 2では、未来創発センター デジタル社会研究室 エキスパートリサーチャーの西片健郎が、人とAIの協調について講演しました。

AIは、国や企業やSNSなどの社会システムにどのようなインパクトを与えるのでしょうか。この10年ほどで予測や分析するAIが急速に普及して様々な分野で活用されていますが、生成AIの進歩により、AIの応答は人と見分けがつかないレベルに達しています。西片は「生成AIは1つの通過点に過ぎず、今後のAIの発展には色々な形があるだろう。近代文明では人間が最も優れた知能を持つことを前提に社会システムが作られてきたが、人間とAIが知能を持つかもしれない今、どんな社会システムを作って行けばよいかが問われている」と述べます。

多極化する世界では、社会システムの未来の姿は1つではなく、社会や文化ごとに異なる多元的な未来であると予想されます。多元的な未来には“機械的な社会”と“生物的な社会”という大きく2つの方向が考えられます。
今の社会システムに近い“機械的な社会システム”は、①「合理的な個人」による意思決定、②予め決めた目標を最大化していく「最適化」、③法律やルールなどで管理をする「ガバナンス」という考え方に基づいています。しかし、GDPの最大化が環境問題を生み出し、SNSのアテンションの最大化が社会の分断を生み出したように、経済価値と社会価値の両立が難しいという課題があります。
対照的に、生物から着想を得る“生物的な社会システム”は、①周りから学んで意思決定をする「探索と学習」、②環境変化に柔軟に対応する「適応」、③社会課題を自発的に解決する「協力」、という考え方に基づいており、経済価値と社会価値の両立が期待できます。

西片は「AIが社会システムの能力を拡張する技術だとすれば、“機械的な社会”を拡張するか“生物的な社会”を拡張するか、大きく2つの道がある」と前置きし、「今の社会は機械的な色合いが強いアンバランスな状態にあるので、“機械的な社会”をAIで拡張した場合、課題を更に深刻化すると共に、AI中心の社会になってしまうリスクがある。反対に“生物的な社会”を取り入れ、それをAIで拡張した場合、経済価値と社会価値の両立が促進され、人間と環境中心の社会の実現が期待できる。2030年に向けては、経済価値と社会価値を両立するために“生物的な社会”の拡張にAIを利用すべきではないか」と語りました。

さらに先の未来を見据え、西片は「AIや人工生命の歴史では、知能や生命のモデルを作るために、脳や神経など“生物”を研究してモデルを作り、それを元に作った“機械”を研究してモデルを更新するというサイクルを繰り返してきた。社会システムも“生物的な社会”と“機械的な社会”の両方からバランス良く学ぶサイクルを作り、経済価値と社会価値を持続的に向上できるようになることが望ましいのではないか」と訴えました。

知識の進化論:生成AIと2030年の生産性

Session 3では、未来創発センター デジタル社会研究室 エキスパートストラテジストの長谷佳明が登壇。生成AIの「知識」に着目し、生産性向上への影響や、AI共生社会における課題と展望について論じました。

これまでのAI研究や議論では、スキルに焦点があたり、知識は人が持つものという観点から、AIによる知識の獲得は想定されていませんでした。知識とスキルの関係では、知識はスキルを獲得するための前提条件であり、スキルの効果を高める役割を担っています。生成AIには、1つのモデルの中にスキルに該当するシステムと、知識に該当するデータという2つの論理的な階層があります。
長谷は「スキルについては、文章や翻訳、プログラミングなど人の能力に迫るものが登場しているが、知識には現時点では得手不得手があり、いまだ発展途上だ」と分析。今後の生成AIについては、「人の与えた目的を軸にして、短期記憶のように情報を蓄積し、それを汎化して新たな知識として獲得する。さらに複数の生成AIを連携させることで、より高度な生成AIを作り出す。連携した生成AIは、知識の領域とシステムの領域が内部で分化し、小さなAIが連合するネットワークへと進化し、AI同士が共通仕様として言語をやり取りして、まさに人間的なシステムになるだろう」と予測します。生成AIの内部ネットワークが高度に発展した時、仮想的なグループや会社、社会を形成することももはやSFではないかもしれません。

では、生成AIが内なる他者と会話し始めた時、何が起こるのか。長谷は「生成AIには個性があり、協力して効率的に課題を解決するためには他者とうまくやり取りする必要がある。人間社会では協働の結果、共通の概念として倫理観や文化などが醸成されるのと同様に、AI内部に形成された仮想社会でも、AIは試行錯誤の中から協調性や文化、倫理観さえも獲得できる可能性がある」と語りました。

言語を学習した生成AI「GPT-4」は、文章の並びから誤字や文章の意味を理解します。この技術を活用してタンパク質の配列を学習した生成AI「AlphaMissense」は、タンパク質の配列から正常か病原性があるかを予測します。長谷はこれを「生成AIが革新的なノウハウや知識を獲得する予兆だ」と捉えます。「これまで人が天才や偶然の幸運に依存して知識を獲得してきたのに対して、生成AIは自ら人が到底考えつかないようなルールを自ら連続的に発見するかもしれない」。

今後AIが人のスキルを代替し、新たな知識を紡ぎ始めた時、人の仕事はどうなるのか。人とAIの協働が定着し、人の管理者と複数のAIによる組織が生まれることも考えられます。スキル重視の社会から、マネジメント重視の社会に変化するのです。
長谷は「スペシャリストの時代から、AIを管理する“シン・ジェネラリスト”という新しい時代を迎える」と予測し、「AIとの協働から経験を積み、その気づきから専門性を探求し、知識を増加させていく。AIによって職業間の垣根が低くなった時、優れた専門性は外(環境変化)ではなく、内(探求心)から生まれるだろう」と強調しました。

次のページ:地域の未来像について【後編】――デジタルによる社会課題解決と未来創発

 

登壇者プロフィール

Session 1:森 健(もり・たけし) NRI未来創発センター デジタル社会研究室 室長。
研究員、コンサルタントを経て、野村マネジメント・スクールにて経営幹部育成に従事し、2019年NRI未来創発センター所属。デジタル技術が経済社会にもたらすインパクトを多面的に研究、情報発信。主な共著に『デジタル資本主義』(2019年大川出版賞受賞)、『デジタル国富論』『デジタル増価革命』。

Session 2:西片 健郎(にしかた・たけお) NRI未来創発センター デジタル社会研究室 エキスパートリサーチャ―。
エンジニアを経て、技術研究開発や国際標準化に従事。近年は、先端技術による環境変化を踏まえたデジタル社会インフラの設計を研究。MIT社会技術システム研究センター客員研究員、拡張知能評議会メンバー、ISO/TC 307 分散台帳技術専門委員会スタディグループ主査など歴任。共著に『Trusted Data』。

Session 3:長谷 佳明(ながや・よしあき) NRI未来創発センター デジタル社会研究室 エキスパートストラテジスト。
約10年にわたり、ITアナリストとしてAIの技術動向や萌芽事例の調査、顧客企業の戦略策定に従事。近年は、AIの進化が与える社会的影響の調査研究へと軸足を広げている。共著に『AIまるわかり』『まるわかりChatGPTと生成AI』など。

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

NRI JOURNAL新着