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人間の能力を拡張する生成AI

代表取締役会長 兼 社長 此本 臣吾

#AI

#経営

#DX

2024/03/19

睡蓮の葉は数日で枚数が倍になる。ある日、池の中に睡蓮の葉が現れても、枚数が少ないうちはほとんど気づかない。しばらく経って葉が池の半分くらいを覆っても、まだそれほど気にはならないかもしれない。ところが、それから1日か2日経って見てみると、水面のすべてが睡蓮の葉で覆われていることに驚愕することになる。指数関数的な変化とはこういうもので、初期の段階では変化にほとんど気づかないが、曲線が垂直に立ち上がる頃には変化はものすごいスピードになる。まさに最近の生成AIの驚異的なイノベーションは指数関数的であり、日々急激な変化を続けている。

生成AIで加速するシンギュラリティ

GPT-1が世の中に現れたのは2018年。AIの性能を意味するパラメータ数は当時1億強、それが今年リリースされたGPT-4では1兆を超えている。パラメータ数は脳のニューロン間結合(シナプス)の数になぞらえることがあるが、人間の脳のシナプス数は100兆(脳スケール)といわれる。もちろん、人間の脳はシナプス数だけでその能力が表されるわけでもないが、生成AIのパラメータ数はあと数年もすれば人間の脳スケールを超えてしまうだろう。
2007年にレイ・カーツワイルが『ポスト・ヒューマン誕生』という本を上梓した。この中では2040年代半ばにはシンギュラリティ、つまり機械が人間の能力を超越する瞬間が訪れると予言したが、その瞬間はもっと前倒しでやってくるだろう。私たちは既にシンギュラリティの初期的な段階に入ったのである。
ところで、生成AIは今までのAIと何が違うのか。一つは画像や図、文章のような非構造データが学習できるということ、また、自然言語を使ってさまざまなAIとコミュニケーションができる(専門性の高いプログラマーでなくてもAIを簡単に扱える)ということ、さらに自然な文章や画像、音声などを創造できる、平たくいえば人間にしかないと思われていた創造力を機械が持ったということである。
画像生成AIのサービスが始まってから、この1年で150億枚以上もの画像が生成されている。AIとの間でプロンプトと呼ばれる指示を何千時間もやり取りしながら、ディテールまで見事にこだわった絵画や写真が生まれており、絵画や写真のコンテストでは生成AIでつくったものが優勝したという事例もある。AIは過去の画像を学習しているのだから、そもそも真の創造物とはいえないという声もあるが、人間も過去の経験などをベースに創作活動を行っており、生成AIの成果物だけに創造性がないというのは無理がある。生成AIは十分に創造的な成果物を生み出しているといってよい。
また、生成AIの特徴の一つは人間の言動をまねるのが上手であるということだ。たとえば、シドニーのユダヤ博物館では、第2次世界大戦中のホロコースト体験者に膨大な時間をかけてインタビューを実施し、それを学習したAIが来場者と会話形式で質疑応答するというサービスを提供している。中国では、一般のブロガーが音声合成を利用して大好きだった亡き祖母のアバターをつくり、会話を楽しんでいるニュースが話題になった。いずれのケースでも、生成AIの活用で時空を超えて過去にワープできるわけだ。皆さんの肉声を今からアーカイブしておけば、未来の子孫はあなたといつでも会話ができるだろう。

生成AIと日本の挑戦

企業のシステムにも生成AIは変革をもたらしている。プログラムの自動生成はもちろん、今まで人間が担当していた情報収集や分析、戦略立案、クリエーティブ業務、あるいは顧客サービスやコールセンターなどでも生成AIの導入が始まっている。いずれは人の仕事がAIに取って代わられるという懸念が強まっており、米国ではハリウッドの作家たちがストライキを行った。
私たちは8年前にオックスフォード大学のオズボーン教授と共同研究で「20年以内に職業の49%がAIやロボットに代替される」という予測結果を発表した。しかし筆者は、必ずしもAIは人から仕事を奪い取っているわけではないと捉えている。むしろAIは人間をサポートして、両者は協働しながら業務やサービスの質を高めているのではないかと思う。
生成AIのプラットフォームのほとんどは米国から生まれており、これからも大量の資金と人材投入が必要なプラットフォーム開発は米国企業が独占的地位を維持し続けるであろう。その一方で、Adobeが実施したアンケート調査では、世界で最もクリエーティブな国として日本が挙げられており、次いで、米国、フランスの順になっている。また、最もクリエーティブな都市としては、東京がトップ、次いでニューヨーク、パリとなっている。また、データサイエンティストの世界的なコンペティションであるKaggleの上位入賞者数はトップが日本、次いで中国、米国、インドの順になっている。つまり、創造性やAIを活用するトップエンジニア数で日本は世界の先頭を走っているのである。
プラットフォームを活用したアプリケーション領域での競争はこれからであり、そこでは日本にも勝ち目がある。

知的資産創造1月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:生成AI時代の新たな社会

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