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アフターコロナ、アフター東京オリンピック・パラリンピックの企業のスポーツ支援――アンケート調査から見える支援のあり方

社会システムコンサルティング部 西崎 遼

2024/05/15

NRIは2023年7月~8月にかけて、公益財団法人大崎企業スポーツ事業研究助成財団の委託事業において、「企業におけるスポーツ支援の実態把握に関するアンケート調査」を実施しました。前回調査(2019年)以降、コロナ禍など未曾有の事態に直面し、スポーツを取り巻く環境は大きく変化しましたが、企業のスポーツ支援にはどのような影響が及んだのでしょうか。スポーツ関連調査に長く携わってきたNRIの西崎遼に聞きました。

環境変化にも揺るがない企業姿勢

2020年以降、新型コロナウイルスの流行でスポーツ大会が相次いで中止され、東京オリンピック・パラリンピックも無観客で開催されるなど、誰も想定しなかった状況が起こりました。この状況は、自社の宣伝・イメージアップや社会貢献やCSR(企業の社会的責任)をスポーツ支援の主目的にしてきた企業にとって、支援のあり方を見直す契機となる可能性がありました。そこで今回の調査では、そうした点を含め、企業のスポーツへの関わり方がどう変化したかを数字で捉えることに主眼を置きました。

本調査はもともとスポーツ支援をめぐる企業関連の定量データが少ないという長年の問題に対応するために開始したものです。時系列で比較検討できるように、支援の方法、目的、費用、対象競技などの質問項目はほぼ前回を踏襲したうえで、直近5年間の支援方法や金額規模に変化があったか、その理由も併せて調査しました。
上場企業234社の回答からわかったのは、何らかのスポーツ支援を行っている企業の割合が56.4%と、前回から約7%ポイント増えたこと。金額規模を拡大させた企業が半数にのぼる一方、変化なしは3割、縮小は1割でした。全体の傾向としては、直近5年間で企業のスポーツ支援への興味・関心が高まった可能性があります。

コロナ禍における集客しにくい状況下では、スポーツイベントを支援する価値や効果が見出しにくく、企業の関与は低下しうると予想していた西崎は、この結果に驚いたと言います。「東京オリ・パラが終了し、コロナが流行しても、全体の約7割がスポーツの支援方法や金額規模に影響なしと回答していました。大企業のスポーツ支援のあり方は、社会情勢を含めてこれだけ大きな変化にも揺るがない土台ができているようです」

抽象度の高い支援価値から具体的な地域貢献へ

スポーツ支援の目的は前回同様、自社宣伝、イメージアップ、社会貢献・CSRがともに7割を超えました。一方、「社会貢献・CSR」が減少し、代わりに「特定の地域への貢献」が増加していました。ここから示唆されるのは、社会貢献といった抽象度の高い支援価値よりも、具体的な地域貢献が好まれ始めている傾向です。実際に、「社内で承認を得るためのスポーツ支援の価値が示しづらい」「明確な費用対効果の株主等への社外説明が難しい」など、各社の担当者の多くが社内外への説明で苦労していると、西崎は指摘します。

「アメリカなどの諸外国と比べて、日本ではスポーツにおけるビジネス志向が弱いとよく言われます。逆に言うと、社会貢献、社内の一体化、障がい者理解の促進など、ビジネス以外の部分に価値を求めて支援する企業も多い。環境が変化しても企業の支援姿勢が揺るがなかったのは、ビジネス志向ではない特徴が良い方向で働いたのではないかと感じます。支援価値に具体性を求める傾向が続くかどうかは今後も追っていきたいと思います」

スポーツ支援額は経常利益の約0.3%

新しい試みとして、支援金額の回答データを用いて、企業は経常利益額の何%をスポーツ支援に当てているかの概算を出しました。結果は平均で0.3%。経団連の下部組織が以前、連結経常利益の1%程度を社会貢献活動に支出するよう呼びかけていたことを勘案すると、まずまずの水準だと、西崎は考えています。「これまで他社の支援状況は分からなかったため、こうしたデータは参考になるというフィードバックもいただいています」

企業によるスポーツ支援のあり方は、金銭に限らず、自社商品の提供など、さまざまな形があります。純粋に広告宣伝のために活用する企業もあれば、パラスポーツ支援などを通じて社内でD&I(多様性、包摂性)の意識向上を目指す企業、あるいは、企業スポーツの収益性を上げることで継続的な支援を目指す企業もあります。スポーツ団体側はどのような支援でも歓迎することが多いですが、継続性は重視されます。

「スポーツ支援はこうあるべきだと型にとらわれる必要はありません。企業は目的を明確にした上で、スポーツ団体と対話しながら、お互いに要望を出し合い、ウィンウィンの関係性をつくれるといいと思います」と、西崎は助言します。「私たちも企業やスポーツ団体とも議論しながら、必要なデータを見極め、収集や分析方法を工夫しながら情報発信を続けたいと思っています。定量データで全体の動きを捉えることにより、企業に役立てていただき、スポーツ界の発展に少しでも寄与できればと思っています」

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