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EV普及とリードユーザー

執行役員 コンサルティング事業本部副本部長 兼 システムコンサルティング事業本部副本部長 小林 敬幸

#小林 敬幸

#イノベーション

#自動車

2024/05/20

中国では電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数が近年、大きく伸びている。コロナ禍が始まった2020年はEV+PHEVの中国の販売台数は118万台で乗用車販売全体に占める割合は約6%であったが、2023年は同887万台、約34%にまで急拡大している。実際、コロナ禍後、久しぶりに中国に出張に行くと、街の風景がどこか変わったと感じる方も多いのではないだろうか。自動車は都市の風景の一部であるが、EVを示す緑色のナンバープレートやBYDなど新興メーカーの自動車が多く目につくようになった。

EV市場を支えるリードユーザー

中国が世界に先駆けてEVが普及した背景には、政府が積極的な支援策を打ってきたことが知られている。たとえば、科学技術部が重点EV開発テーマを設定し、企業や研究機関に開発補助金を拠出してきた。さらに消費者に対しても、国や地方政府がEV購入補助金や車両取得税の免税、ナンバープレート取得条件の緩和などを実施し、EV普及を後押ししてきた。ここまで中国がEV普及に積極的な理由は、環境対策に加えて中国の産業競争力向上を狙ったものであるといわれている。中国は世界第1位の自動車市場であるが、従来のガソリンエンジン技術で後れを取ったため、海外メーカーに中国市場を席捲されてきた。この状態に対し、EVでゲームチェンジを狙ったわけである。その結果、EV用電池ではCATLなど中国メーカーの躍進につながっている。

このように、国策によって中国がEV普及に成功したことは確かだが、私は消費者側の要因もかなり大きいのではないかと考える。中国のEVは、単に動力源がモーターに替わっただけではない。自動運転機能や車内カメラを活用したビデオ通話機能、家のリビングのような巨大ディスプレイや電動マッサージ機能などを備えている。EV化は、いわば新たな自動車の「きっかけ」であり、従来とは異なるコンセプトの自動車が中国の消費者に受け入れられ始めたのである。
新たなコンセプトの車では、供給するメーカーも多様化している。たとえば、通信機器大手のファーウェイもEV事業に参入したが、自らは工場を持たず、重慶長安汽車や奇瑞汽車に組立を委託している。車の展示はスマートフォンやPCと同じ店舗で行っている。
このような従来の車とは異なる概念のEVが中国で受け入れられた背景には、新しもの好きのリードユーザーが多数存在することが挙げられる。実際、各種消費者アンケートでも、中国の消費者は、新技術、ハイテク商品への興味が高いことが特徴である。

リードユーザーの開拓で、新たなモビリティ社会を創出

翻って日本の状況はどうだろうか。EV+PHEVの新車販売台数に占める割合は、2023年は3.5%に過ぎない。年々増加しているものの、中国などに比べると圧倒的に少ない。理由はいろいろとあるが、私が気になるのは、日本ではEV化を契機として新たなコンセプトの車をつくり出すという熱気が感じられないことである。日本ではハイブリッド車が乗用車販売台数の約半分を占める。さらに軽自動車など小型車も多く、日本全体としては環境に優しい車が多く走っているのは事実である。
しかし、メーカー側も消費者側も現状に特に不満を抱かず、EVの問題点を挙げることばかりしていると、日本の自動車産業の競争力が弱まる懸念がある。実際、日本車が強いASEANでは、中国のEVが市場を侵食し始めている。従来の車に飽きてきた消費者、リードユーザー、を中国メーカーが取り込んでいる。
一般的に新しいコンセプトの商品が売れる条件として、メーカーの努力だけでは不十分で、積極的に新しいものを取り入れるリードユーザーの存在が不可欠だ。それをEVで考えてみると、残念ながら日本は中国ほどのリードユーザーが見つかっていない。とはいえ、日系メーカーにとって、車両開発の中心は日本であり、何とか日本でリードユーザーを開拓し、車の新たなコンセプトを日本発でつくり出す必要があるのではないだろうか。
たとえば、日本は世界に先駆けて高齢化が進む。遠出を想定しない近距離移動を軽自動車のEV化で推進することはどうだろうか。長距離利用しない分、電池容量は小さくて済む。そのためコストが抑えられる。さらに自動運転技術を盛り込むと、運転ミスによる事故も減少することが予想され、高齢者にとっても社会にとっても安全な小型車ができ上がるのではないか。そうした小型EVは、高齢者のみならずクルマ離れが進む若者にも手頃な移動手段として受け入れられるかもしれない。

EV化の議論を、単なる動力源の変化と矮小化させてはいけない。自動車最大市場中国を起点に、次世代の車のあり方が問われ始めた今、日本企業にとっては、従来のユーザーだけでなく、リードユーザーからの意見やアイデアをうまく活用し、新たな車、新たなモビリティ社会を創出する意欲を発揮する必要があるのではないだろうか。

知的資産創造3月号 MESSAGE

NRIオピニオン 知的資産創造

特集:拡大するEVエコシステムと日本企業のビジネスチャンス

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