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地方創生の視点から見る「森林由来J-クレジット 」とは――山形県鶴岡市の取り組み

DX事業推進部 神林 優太

2024/05/22

NRI(野村総合研究所)は地方都市が抱える課題解決に向けた戦略策定とその実行に取り組んでいます。地方創生関連のデジタル化戦略策定、実証実験企画などに多く携わってきた神林優太は、新たに地域活性化の取り組みを行う資金を、中山間地域自身の手で得ることも重要であると考えます。その参考例となるのが鶴岡市における「森林由来J-クレジット」の取り組みです。

「森林由来J-クレジット」の取り組みが鶴岡市で始まった

山形県鶴岡市では現在「森林由来J-クレジット」の取り組みが進んでいます。当地の森林組合や林業事業者、鶴岡市役所、自治会などの地域関係者とNRIが2023年から検討を続け、2024年1月に鶴岡市の林地において、クレジット創出に向けた申請手続きが始まりました。
「J-クレジット」とは、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が「クレジット」として認証する制度。CO2などの排出量削減に関わる取り組みをした事業体は、その削減量分をクレジットとして大企業などに販売できます。クレジット創出者は売却益で森林整備の効率化などを行うことができ、クレジットを購入した企業は森林保全活動の後押しや、製品・サービスの差別化などに活用できます。

鶴岡市の市域面積は東北一広く、その約7割は林地。この環境を活かして、「森林由来J-クレジット」を創り出して流通させよう、というのが本プロジェクトです。
ただし、J-クレジット制度においては申請に際しての煩雑な手続きや山主との調整が必要になります。今回の「森林由来J-クレジット」でNRIは、そうした手続きを効率化する仕組みづくりなどで関係者や自治会等と協業しています。このプロジェクトに立ち上げから関わってきたDX事業推進部の神林優太は、地場関係者をつなぐハブとして動いています。

中山間地域は新しい取り組みを始めたくても、お金がない

鶴岡市などの地方都市の視点から「森林由来カーボンクレジット」に取り組む意義について、神林は次のように説明します。
「特に中山間地域では、人口減少や過疎化、公共サービスの維持など多くの課題を抱えています。しかし、何か新しい取り組みをしたくても、一歩目を踏み出すお金がない。それで多くの場合は、国の交付金や企業の持ち出し費用に頼ることになる。交付金によって地域外の企業・サービスを導入しても、ノウハウは地場に残らず、お金がなくなれば取り組みも止まってしまう。ところが『森林由来J-クレジット』なら、地方にこそある森林のCO2吸収という価値を経済価値に変え、それを更なる環境価値創出に使えるよう地域に還元することができる可能性があります」

「日本の中山間地域は担い手不足や高齢化などの社会課題が都市部よりも先に顕在化しています。クレジット収益を活用した取り組みが、新たな担い手を呼ぶきっかけとして活用したいと地域の林業事業者から伺うこともあります。また、森林はCO2の吸収源としての機能に加え、土砂災害防止や水源涵養、木材の供給、生物多様性の保全など多面的機能を持ち、これら機能の維持・向上に繋がることを期待する声もあります。」

地域が自走して取り組む地方創生の事例

この取り組みの特徴は「官からの補助金に頼ったものではなく、地域が自らクレジットを取引して資金を得ることにある」と神林は話します。また、市場メカニズムの中で、環境価値を経済価値に変えて流通を図っていく際、デジタル基盤が必要となります。「森林由来J-クレジット」でのデジタル基盤構築はその一例と捉えることもできます。「『森林由来J-クレジット』は国の制度ではありますが、林業関係者や山主である地域住民と地域内外の企業とがつながって、自力でお金を生み出す仕組みとなっています。地域にとって、従来出会うことのなかった様々なプレーヤーが、互いにメリットを得られるエコシステムを検討するきっかけとなることにも、意義があると思っています。」
地域における「民民の取り組み」であっても、自治体との連携も重要と神林は指摘します。
「自治体は、地域のリーダー、課題などを地域の視点で把握しており、各関係者に対して中立の立場にあります。地域の課題感を強く感じている森林組合や、意欲的な自治会・民間林業事業者の本取組への巻込み方を、自治体と一緒に検討を行ったことはNRI・地域の双方にとって重要でした。」
鶴岡市での取り組みでは、すでに二つの林地(事業体)でクレジット創出が見込める状況になっています。今後はこの取り組みを全国に展開し、森林由来J-クレジットの流通拡大、地方創生に貢献したいと神林は考えています。

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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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