2024/06/26
脱炭素社会の実現に向けて、走行時に二酸化炭素を排出しない電気自動車への転換が進んでいます。2017年から2022年にかけて、グローバルEV販売台数は50%を超える年平均成長率で推移しました。ただし、その成長スピードや消費者の志向は地域によって大きく異なります。野村総合研究所(NRI)では2017年から定期的に、日本・米国・ドイツ・中国の4地域でEVシフトに関する消費者動向調査を実施してきました。調査結果を踏まえ、EV普及に向けた課題にはどのようなものがあり、何をすべきなのか。本テーマに詳しいV2030推進室の小池 貴之、グローバル製造業コンサルティング部の石川 祐樹、コンサルティング事業本部の風間 智英に聞きました。
EV購入に前向きな中国、慎重な日本
現在、乗用車全体に占めるバッテリー式電気自動車(EV)の比率は全地域で上昇傾向です。「EVを購入したい」という人の割合も20~30代の若年層を中心に各国共通で高い傾向にあり、中でも最大の市場は中国です。中国は2022年時点ですでに499万台の市場を形成しているほか、EV比率も2割を超えています。さらに86%にEVの購入意向があり、60代以上を含めた全年代で購入意向の割合が高いことがわかりました。
新興メーカーへの期待度が高いのも中国の特徴です。Googleや華為、日本ではソニーなど、従来の自動車メーカーとは一線を画した新興メーカーが電気自動車のブランドを立ち上げる動きが活発化しています。こうしたメーカーの自動車に対しては各国共通で若年層を中心に前向きな意向を示す傾向にありますが、特に中国においては若年層に限らず幅広い年代で好意的であるため、新興メーカーにとって中国は最重要マーケットと言えるでしょう。
また、近年、急速に市場が拡大してきたのは米国です。テスラの躍進もあり、2022年のEV販売台数は80万台を超えました。米国では2017年から2023年で購入意向が26%から53%に倍増しているうえ、これからEVの中心購入層になる20代~50代の購入意向が伸びています。EVに許容する追加コストの平均額も132万円と、中国の82万円、ドイツの78万円、日本の67万円を大きく上回っています。EVに対する価値が高まり、経済力も伴っている米国は、全メーカーにとって注視すべきマーケットになりそうです。
ドイツは、2022年に新車販売台数におけるEV比率で17.5%を記録し、環境への意識が高い欧州の中でもEV先進国の1つです。EVの購入意向も増加傾向にありますが、米国や中国に比べると伸び率の低さが目立ちます。価格への懸念が市場拡大を阻害しており、調整期間に入りつつあると考えられます。
一方で日本のEVの販売台数は5.3万台です。電動車といえば、EVよりもHV(ハイブリッド車)が主流であり、他国との差が開く結果となりました。EVの購入意向にもここ数年でほとんど変化が見られず、全地域で購入意向が高い傾向にある20~30代でさえ、34%と低調でした。EVの乗車経験は購入意向と相関性があるため、日本においてEVの乗車を経験する機会がそもそも少ないことも、購入意向の停滞に影響していると考えられます。
さらに、EVに許容する追加コストが低いことも中国や米国との違いであり、EVの浸透率が上がらない一因となっている可能性があります。
「電池搭載量の最適化」が安価なEVを実現する
グローバルでEV市場が拡大する一方で、「EVを購入したくない」という消費者もまだまだ存在しています。その大きな理由は、車両価格が高いことです。特に日本・米国・ドイツでは車両価格を懸念する割合が50%を超え、市場拡大を阻害しています。中国でも、2022年末にNEV(新エネルギー車)補助金が撤廃されたことを受け、車両価格を理由にEVを購入したくないと考える人が増えています。
最大市場である中国でさえこれまでの勢いが頭打ちになる可能性がある中、今後は市場の大衆層を開拓する必要があります。そのため、よりリーズナブルな価格帯での商品提供が求められています。
車両価格を下げるためのヒントとなるのが、EVの航続距離に対する意識の変化です。現在、一度の充電で必要な航続距離が300km未満でも十分、と考えるユーザーが全地域で増加傾向にあり、日本・米国では半数近くを占めています。これに対して、500km以上の航続距離を求めるユーザーは減少しています。実際にEVに触れる中で「それほど長い航続距離は必要ない」、「途中で充電する機会はそれほどない」と感じる人が増えたことが背景にあると考えられます。
現在のEVは、大型電池を積んだ航続距離500km~600kmの商品が主流ですが、これを見直し、300km程度の航続距離を前提に電池搭載量を減らした安価な商品(スマートレンジEV)を投入することが、市場拡大の糸口になりそうです。
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