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トレードオフより両立を

特別顧問 嶋本 正

#経営

2024/09/20

当社は来年、還暦となる創立60周年を迎える。1965年度に野村證券の調査部と電子計算部がそれぞれ分社化し、野村総合研究所と野村コンピュータシステムの2社が誕生した。そして、それぞれの創業時代の20有余年を経て1988年に両社が合併し、新生・野村総合研究所(以下「NRI」)が発足した。NRIは、コンサルティング事業とITソリューション事業が合体した企業として、そのシナジーを追求してきた。また、その途上の2001年には東証一部上場を果たした。親会社である野村證券という大樹からの「自立」と、パブリックカンパニーに求められる「自律」の、二つの「じりつ」に向き合いながら、コーポレートガバナンスの充実を図りつつ、健全で持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指し、還暦間近の今日に至っている。

NRIの成長を支える人的資本

筆者は、野村コンピュータシステム出身の二人目のプロパー社長として、2010年度より6年間、NRIグループを率いた。そして初めて、旧野村総合研究所出身の社長にその役割を引き継いだ。今年度就任した現社長は最初の合併後の NRI出身者であり、これまでとは異なる新鮮な風を当社に吹き込んでくれるものと期待する。NRIグループの従業員数は、合併直後に2,000名規模、上場時点で4,000名強であったが、2023年度末には17,000名を超え、売上高も、順に1,000億円、2,000億円規模から、7,000億円を上回るレベルに達している。利益額や時価総額の推移を見ても、持続的な成長や企業価値向上を実践できていると見てよさそうである。

この成長ぶりは、経営に携わった立場からすると大いに誇らしいものであり、うれしい限りである。この成長の源泉は、いわゆる人的資本の充実によるところが極めて大きい。個々の人材が強みを発揮できるように、若いときからプロフェッショナルとしての自覚と高い専門性を磨く環境を整備し、また、さまざまな経験から多くの知見を吸収し、それらを新しい挑戦に応用できるよう、変化対応力の向上に力を入れてきた。そして、個々人が好奇心を持ちながら新しい技術やスキルを自律的に習得するような雰囲気づくりにも努めている。また、個々の人材の成長のみならず、組織として総合的な能力を発揮できるよう、本部や部という組織の枠組みを超えて相互に連携し、目標に向かって進む「異才融合」も徐々に広がっている。

新時代を生き抜く、正解のない世界に挑む力

このような人的資本の充実が大きな成果につながっている反面、企業の成長とともに新たな課題も出てきたように感じる。それは、「正解のない世界に挑む力」とでも表現すべき能力に関して、である。昨今、解決すべき課題に対して、最短ルートで直線的な解を求め過ぎたり、0か1かで割り切らないと気が済まなかったり、という場面に出合うことが増えた。また、与件や前例を疑わず、「そもそも論」に立ち返ることを避ける傾向が見られることも問題であろう。これらは、組織が大きくなり、マネジメントが強化され、社内の各種ルールが整備され、秩序が重んじられるようになったことに加え、コンサルティングやITソリューションの業務の特性として、とりわけロジカルシンキングに重きを置く傾向が強いことが大きな要因なのではないだろうか。
変化が激しく先行きが読めない時代に入った今日、解決すべき課題は急速に増えている。それらに対し、単純で分かりやすい解決方法が簡単に見つかるはずもなく、まさに前述した「正解のない世界に挑む力」が試されることになる。
ではどうすれば、そのような力が身につくのだろうか。筆者自身の経験を振り返ると、この力を試される局面ばかりであった。中長期のビジョンに重きを置くのか、それとも足元の業績回復を急ぐのか。既存事業を守り伸ばすのか、それとも新規事業創出を優先するのか。また、個別組織の収益力を強化するのか、それとも組織間の連携によるシナジーを追求するのか、などの局面が思い当たる。このように一見対立するような問いにどう答えるのか。いずれのケースも、どちらか一方のみを選択して他方を犠牲にする「トレードオフ」の考え方では答えにならない。両者を一定レベルまで成立させながらの「両立」の思考が必要なのではないだろうか。ただし、両者を足して2で割るような単純な手法では当然うまくいかず、深い洞察や熟慮はもちろんのこと、ステークホルダーとの弛ま ぬコミュニケーションや、そもそも論に立ち返った議論が欠かせないというのが現時点での答えである。

古希を迎えた筆者はNRIを卒業することになるが、さらなる成長と企業価値の向上を目指すNRIグループを支える役職員には、この「トレードオフより両立を」の思考で、不確定要素が強まる新時代を生き抜いていってほしいと思 う。

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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