2024/09/24
鉄道やバス、タクシーなどの公共交通が縮小するなか、一般のドライバーが他者を送迎するライドシェアに注目が集まっています。2023年12月には規制緩和が発表され、2024年4月より、タクシー事業者の管理下における限定的な実施が認められました。
野村総合研究所(NRI)は、「まちづくり」の視点からライドシェアの可能性に着目し、神奈川県在住の18歳以上を対象に、ライドシェアの利用意向やドライバーの参画意向に関する調査を実施しました。この記事では調査結果を踏まえて、日本におけるライドシェアのあり方を提言します。ライドシェアの可能性や、その普及に向けた課題について、本テーマに詳しいアーバンイノベーションコンサルティング部の新谷 幸太郎、川手 魁、小菅 直樹に聞きました。
繁忙期や遠隔地、公共交通の「空白」を埋めるライドシェア
ライドシェアは、短期的には、利用者の予約に応じた時間や経路で運行するデマンドバスや、タクシーを補完する交通手段として、車両サイズの適正化やドライバーの柔軟な確保が必要な場面での活躍が見込まれます。
例えば、都心部では公共交通機関のドライバーは正規雇用が中心で、突発需要への対応が難しい場面もあります。加えて、若者を中心に免許保有率が低下し、自家用車を持たない人も増えています。そのため、通勤時間帯や悪天候の日、催事の時期などの特定時期・時間を対象として、タクシー会社の配車サービスと連動してライドシェアを提供することが考えられます。
一方で、郊外では人口減少による運賃収入の減少や、運転手の不足によって公共交通の維持が難しくなるケースも見られます。さらに共働き世代の増加や高齢化によって、自家用車による家族内送迎にも限界が来ています。駅から遠く待機タクシーがない地区などに絞り、タクシーの営業が少ない夜間・早朝を中心にライドシェアを提供すれば、こうした課題の改善につながります。
また、アプリを通して提供されるライドシェアは、インバウンドを含む旅行客や出張客にとっては、どの地域でも同じような仕組みで利用できる安心感がある点も利点と言えます。近い将来、幹線交通とドアtoドアの移動を担うライドシェアがひとつのアプリでつながれば、既存の交通機関をライドシェアが補完することにもなり、より利便性の高いサービスを提供できるでしょう。
自家用車からの転換は運賃が鍵
ライドシェアのニーズとしてまず考えられるのが、自家用車の運転からの転換需要です。具体的なシーンとしては、利用者自身が移動する場面と他者を送迎する場面が想定されます。
利用者自身が移動する場面では、仮にライドシェアの利用料がタクシーから2割引程度の運賃であれば、自家用車運転者の約1割の人が利用意向を示しています。価格感度の高さから、需要発掘には競争力のある値付けが必要になります。
一方で他者を送迎する場面では、地域により傾向が異なりますが、タクシーから2割引程度の運賃で約1~2割の人が転換意向を示しています。利用者自身が移動する場面と比べて転換意向を示す人の割合は小さいものの、自家用車の総運転時間に対するライドシェアの転換意向時間で見ると、他者送迎の方がライドシェアへの転換意向率は高いことが特徴です。特に高齢者の送迎においては相対的に転換意向が高く、高齢者の移動を代理で手配できる機能の実装も期待されます。
地域で比較すると、居住地と目的地が近接する中心都市部よりも、都市近郊ではあるものの公共交通がやや不十分な準都市部において、特に転換意向が高くなりました。一方で郊外部では、自家用車への依存度が極めて高く、都度運賃負担が発生するライドシェアへの転換に抵抗があるものと考えられます。
なお、今回のアンケート調査では、消費者の多くは自家用車の利便性を依然として重視していることもわかりました。ライドシェアが普及した場合に自家用車を手放す意向を示した人は全体の3%にとどまり、大多数は自家用車とライドシェアを上手に使い分けると考えられます。
ライドシェアという新たな移動手段の登場により、移動需要全体の拡大も期待されます。加えて運転から解放されることによる時間の創出、外出機会が増えることによる消費増といったポジティブな変化も引き起こします。こうした新たな移動需要誘発のポテンシャルは、免許の非保有率や外出意向の高い20~30代前半で相対的に高くなりました。この層では、ドライバーとのトラブルや犯罪の懸念からライドシェアを利用したくないと考える人もおり、需要発掘にはトラブルへの対策が課題となりそうです。
ドライバーが求める報酬は「時給2,000円」が基準に
ライドシェアを事業として成立させるには、ドライバーの確保が必要不可欠です。では、どのくらいの時給水準であれば、ドライバーを集められるのでしょうか。ライドシェアの運賃水準をタクシーの8割程度と仮置きして、利用意向と就労意向のバランスから成立可能性を分析しました。
その結果、時給1,500円程度では1人あたり年間約22時間、2,000円程度では年間約71時間の就労が見込まれることがわかりました。時給2,000円程度を確保できれば中心都市部・準都市部だけでなく郊外部でも十分なドライバーを集められる見通しであり、「時給2,000円」がひとつの基準になりそうです。
職業別に見ると専業主婦(夫)やパートではドライバーへの就労意向が低く、フルタイム勤務の役職員(会社員など)やフリーランスでは、追加収入を求めてドライバーとして就労しようとする意向が見られました。そのため休日などの週数日、最大6時間/日程度の勤務を希望する人が多く、フルタイムの本業というよりは隙間時間での副業としての就労意向が大きいことがわかります。十分な供給を確保するためには、自由な働き方を認める仕組みが必要です。
ライドシェアが生活に与える経済効果
想定通りにライドシェアが普及すれば、運転時間の削減によって全国で9,150億円相当の時間価値が創出されるとともに、赤字の公共交通の代替によって23億円、外出促進により消費活動が活性化されて919億円、ドライバーの自家用車の購入増加で3,247億円と、経済活動の変化によって、700億円~4,200億円の経済効果が生まれる見込みです。
ライドシェア普及の先には、自動運転タクシー(ロボタクシー)の社会実装があります。大都市部以外におけるバス事業は、コロナ前の2018年度でも496億円の赤字が出ており、無人車両を路線バス並みの運賃で利用できるようになれば、長期的な赤字に悩む郊外や中山間地域のバス事業において、年あたり431億円の収支改善が期待されます。利用者は中山間地域でもきめ細かい移動ができるようになり、交通ネットワークの再構築が可能になるでしょう。
このように、ライドシェアの普及は力を入れて取り組むべき価値のある課題です。そのためには既存の事業範囲にとらわれず、ドライバーと利用者の双方がWin-Winとなるような仕組みづくりが求められます。これまでの「まち」や「ライフスタイル」を大きく変えることなく、愛着のある場所で住み続けたい。ライドシェアはこうした願いを実現するための、大きな解決策になると考えています。
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