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デジタル政策の行く末

経営役 未来創発センター副センター長 南側 洋司

#AI

#マイナンバー

#公共

#政策提言

2024/11/20

2024年12月より、新たな健康保険証の発行が停止され、マイナンバーカード(マイナ保険証)へ移行される。直近のデジタル庁の発表によると、6月末時点でのカード発行枚数は9,200万枚、申請数では1億枚を超えた。また、健康保険証としての登録も7,300万枚に達し、年末には1億登録を超えると見込まれている。

マイナンバーカード、国民生活の中核へ

かつて、1968年に佐藤栄作内閣が「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置して以来、国民番号制度は、長らく政治論点となってきた経緯がある。1983年の納税者番号制度(グリーンカード)や、2002年の住基ネットといった政策の頓挫や多難も経験したが、それらを乗り越え、今年の12月に健康保険証として結実する。
こうしたデジタル政策の目的は、人口減少・少子高齢化が進む日本社会において、その担い手となる行政や国民の生産性を飛躍的に向上させ、難局を打開することだと私は考えている。
後世につなぐ社会では、デジタル技術によって労働力や経済余力を捻出し、それを成長領域へ最大限に振り向けていく構造転換が必要である。その社会では、デジタル空間における本人を確実に認証できることが不可欠であり、この根底を支えるのがマイナンバー制度である。
一方、マイナンバー制度がスタートした2016年以降、国民からはこうしたデジタル政策に対して批判的な場面も少なからずあった。その背景には、デジタル政策がほかの政策とは異なり、スマートフォンなど日常の生活デバイスの中で展開されるため、日々利用する決済・SNSサービスと同じ物差しでの優劣が、そのままデジタル政策への批判に一致してしまった側面がある。加えて、マイナンバーカードでの認証行為に、まだ国民が不慣れであったことも挙げられる。ただ、これらはデジタル化政策を考えるうえでの表層的な課題に過ぎず、根底には、デジタル化の進展が従前の行政サービスに対して、万事「簡便」になるという「誤解」があることを、あらためて指摘しておきたい。

デジタル化で変わる行政、利便性と自己責任

デジタル社会の創出における本質は、従前の階層・中間的判断に伴う行政機関の処理構造を極力排して、国民自らが直接かつ自己責任において判断し、指示や承諾を行うことにある。
もちろん、この判断を支えるITやAIなどを駆使した弛まぬ工夫が求められる。しかし何よりも、国民自らがそれぞれの政策への理解度を上げ、「意思どおりの情報管理の状態」になるように、デジタル化のパラメータ(設定値)を適切に選択・決定することが重要なのである。
政策の「デジタル化」の進展とは、デジタル空間に再現される国民としての「私の像」を政策の対象として、社会整備が進んでいくことである。この進化により私たちは、以前よりも時間的、空間的に多大な利便を感じることができるだろう。また、各政策も個別性が高くなり、より個人に即した内容になる一方で、自らの情報に対する積極的な管理、自己責任が伴う環境にもなる。
平たく言えば、デジタル政策を通じて「自分のことを自分で管理する」仕組みに近づくのだが、他方、これまでの任せ切りな状態と相まって、国民がこの環境を所与の社会機能として受け入れることは容易ではない。中には、これまでにない自己判断と責任に対峙することで、不安感を持つ人も出てくるだろう。その不安は、操作性のような表層的な議論にすり替わった批判となり、デジタル政策の停滞を招く可能性もあると考えている。
先に述べた社会の「飛躍的な生産性の向上」を実現するためには、これまで重層的な責任体制の下で運用してきた政策や制度について、躊躇なく国民の手元にデジタルで収斂させる必要がある。しかし、同時に合理化のパラドクスとして、経験的にも心理的にも耐性不足の中では、デジタル化の追求による国民の責任負担の変化が、政策普及の阻害要因になる可能性を認識しておくべきだろう。

後世につなぐ、より自立した社会

デジタル政策が成し遂げるのは、国民の自己決定にかかる自立であり、自己の情報管理における総国民的な理解の進化である。この進化の度合いが、社会的に許容される「政策の合理性」を支えることになる。具体的には、デジタル空間における認証された本人に対する自動的な手続きや、承認による法的効用の発生など、生産性を飛躍的に向上させる起点を作り出すことができるのである。政策課程の全体を俯瞰してみれば、1968年の佐藤内閣時には、国民総背番号制と批判された制度も、56年の歳月を経て、今日の日本社会では、個人番号制度・マイナンバーカードの活用に基づいた健康保険証利用について、合理性を許容する社会へ変容したとも言えるのではないだろうか。
将来の日本の課題を「飛躍的な生産性の向上」をもって打開し、後世へ矜持をもって合理化した社会を引き継ぐならば、われわれ一人ひとりが、手元の利便性に対する批評に優先し、積極的にデジタル化された挑戦的サービスへの試行や寄与度を高め、利用者としての実数に貢献していくことから始めたい。

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