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NRI トップ NRI JOURNAL 有事にも効果を出せる顧客データプラットフォームの構築&活用法

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有事にも効果を出せる顧客データプラットフォームの構築&活用法

ライフネット生命保険株式会社 データサイエンス推進室長 渡邉 直俊(写真右)
ライフネット生命保険株式会社 データサイエンス推進室 橋詰 青弥(写真中央)
NRIデジタル株式会社 リードマーケティングDS 大和 大祐

2024/11/28

インターネットを主な販売チャネルとしている生命保険会社であるライフネット生命は、IT人材が不足する中で既存システムが老朽化する「2025年の崖」問題を見越して、顧客データプラットフォーム(CDP)の構築と活用をいち早く推進してきました。同社の渡邉直俊さん、橋詰青弥さん、データ分析や利活用についてお二人と一緒に考え推進してきたNRIデジタルの大和大祐にCDP構築や活用のポイントについて聞きました。

データサイエンスで顧客体験の向上へ

ライフネット生命は、2008年にインターネットを主な販売チャネルとした生命保険会社として発足しました。主要チャネルがオンラインのため、もともと社内に豊富なデータを保有していましたが、その活用は部門ごとに個別最適化され、横断的な顧客体験を提供しきれていないことに渡邉直俊さんは問題意識を持っていました。そこで社員有志が経営層に直談判し、データサイエンス推進室を開設。営業本部と兼務しながら、実態分析、課題抽出やPoC(概念実証)などに取り組んできました。

2020年頃、会社への貢献度を高めようと、データサイエンス推進室のミッションを再定義し、専任のデータサイエンティストを置くことを決定しました。「社内にデータサイエンスの知見や専門人材が不足していたため、デジタルマーケティング全般に強いNRIデジタルに悩みごとを相談させていただきました。議論の中で、マーケティング領域に留まらず、ご契約者さまの属性情報も含めて広範にデータを分析すれば、営業活動の高度化やコスト効率の向上が図れるのではないかと考えるようになり、別々のシステムで取得・蓄積されているデータを一元化することにしました」と、渡邉さんはCDPの開発経緯を説明します。

コロナ禍中に発揮されたCDPの有用性

「オンライン生保という事業特性上、すでに個々のシステムにデータが適切に格納されており、アナログからのデータ化という苦労はなかったものの、その一元化には苦労しました。ウェブでアクセスするお客さまは追跡できても、途中で電話対応やチャット対応など複数の顧客接点があり、必ずしもデータは1カ所に固まっていません。関係者にお願いして協力をとりつけながら、それを結合し、意味のあるデータにする作業が特にチャレンジングでした」と、開発に携わったNRIデジタルの大和大祐は振り返ります。

CDPを有効活用するためには、データを集めてくるだけでなく、使える形でデータを維持管理することが重要だと、渡邉さんは指摘します。「データ基盤について話すときに、私はよく冷蔵庫にたとえます。美味しい料理をつくるためには、新鮮な良い材料が必要ですが、ただ冷蔵庫に放り込んでおくだけでは腐ってしまうかもしれません。冷蔵庫を常にきれいにしておく必要があります」

整備したCDPはテレビCMの効果分析など日々活用されていますが、特に役立ったのがコロナ禍のときだったそうです。「医療保険や死亡保険のニーズが高まる一方、ご契約時の審査や、保険金・給付金のお支払いには、丁寧な対応が求められ、詳細の確認や説明に多大なオペレーションコストが発生しました。こうした緊急時には、難しいモデルや工数のかかる施策ではスピード感が合いません。CDPで一貫してデータを分析し、最初の問い合わせから保険金・給付金支払いまで、プロセスごとにリスクの確率と可能な施策を表示し、作業負荷の軽減を図りました」と、データサイエンティストの橋詰青弥さんは説明します。この施策の有効性は社内で認められ、コロナ収束後に他の商品にも展開されました。

課題ドリブンで「宝の持ち腐れ」にしない

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の一環でCDPを構築したものの活用が進まないという問題はよく起こりがちです。「CDPの活用で意識しているのは、課題ドリブンであることです。データドリブンで分析だけ先行しても、事業側に活用してもらえなければ意味がありません」と、橋詰さんは言います。「各部署は特定のデータのみを見ていますが、データサイエンス推進室はデータをつないで全体を見て、最適化した提案ができます。部署間の利害対立も調整できるので、会社にとっても必要な存在になっていると感じます」

「ビジネスを回す部署と分析をする部署が共通のKPI(重要業績評価指標)を持つことが大切です」と、大和も指摘します。「ライフネット生命では、データサイエンス室立ち上げ時に、事業部と兼務している人が分析チームに加わっていたので、事業を理解し、現場が感じている問題点を把握したうえで、どのような分析をすれば、どのような結果が出て、それがどう役立つかを事業側にスムーズにコミュニケーションできていました。事業部と協働で分析する進め方は他の会社にもお奨めです」

世の中ではさらにデジタル化が進み、これまでとは異なる形で利用可能なデータが増えてきます。その中で渡邉さんは「生成AIなども活用しながら、保険のお申し込みやご契約においてより良い体験をお客さまに提供していきたい」と考えています。「現在のCDPはスペシャリストしか扱えませんが、全社に広げて、多くの人が使えるデータ環境を整備していくことをめざしています。オンライン生保のリーディングカンパニーとして、デジタル活用の最前線を走っていければと思います」

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