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新株発行改革とIPO再開

2013/12/03

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証券監督管理委員会(証監会)は11月30日に、(1)新株発行改革、(2)優先株の導入、(3)借殻上場(裏口上場)の厳格化についての意見・通知を発表した。三中全会後、資本市場改革は再始動した。

第一は、「新株発行体制改革のさらなる推進に関する意見」である(注1)。最大のポイントは、新株発行における市場メカニズムのさらなる導入、換言すれば、行政指導のさらなる後退であり、三中全会で示された市場メカニズム重視の動きが早速現れたことになる。

同意見によれば、証監会による新株発行の審査は、今後、発行申請書類と情報開示内容が規定に合っているかどうかの審査に重点を置き、企業価値やリスクについては投資家と市場が自主的に判断するという基本的な姿勢が示された。証監会は発行者(企業)の利益獲得能力と投資価値については判断しないこと、投資家が開示情報をよく検討して企業価値を自ら判断しリスクを負うことをわざわざ明記している。また、審査通過後、新株の発行時点は発行者が自ら決定し、発行価格は発行人とスポンサー機関(証券会社)が確定する(注2)

市場メカニズム重視により、当然のことながら情報開示がますます重要になり、発行者、スポンサー機関(証券会社)、会計事務所・法律事務所等の情報開示に関する責任も重くなる。例えば、発行者は、目論見書の事前開示後、情報・財務データ等を勝手に変更してはならず、審査中に記載情報の矛盾が見つかった場合、証監会は審査を中止し、その後12カ月は関係スポンサーの推薦する発行申請は受け付けない。また、発行者、支配株主、スポンサー、会計事務所等は、目論見書における虚偽記載等で投資家が損失を被った場合、賠償することを承諾しなければならない。

中国のIPOでは、いわゆる三高現象(発行価格、PEレシオ、超過募集額が高いこと)が長らく問題となってきた。発行者とスポンサーの結託、投資家による新株投機等さまざまな要因が背景にある。これに対しても改善策が打たれている。いくつか紹介すると、支配株主・董事・高級管理職は、▽ロックアップ期間終了後2年間は、発行価格を下回る価格で所有株を売却しないこと、▽上場後6カ月以内に株価(終値)が20営業日連続で発行価格を下回った場合あるいは上場後6カ月後の終値が発行価格より低い場合、ロックアップ期間が少なくとも6ヶ月間延長されること、に同意しなければならない。これは、支配株主等の既存株主が無理な高値で発行して資金募集することを抑制する意図がある。また、IPOの際の既存株主(株式保有期間満3年以上)による一部の株式の売出しの奨励(上場初日の供給増)、ブックビルディングの際の価格上位10%の申込みの除去(機関投資家による意図的な高値の抑制)もある。

この「意見」を受けて、関連する規定が発表される。そして、2014年1月には、約50社が上場手続きを終えるとされる。

過去においては、証監会の行政的指導の色彩が濃い中で、「上場」が希少資源となり、価格が急上昇するといった弊害を生んだ。株式市場が徐々に成熟してくる中で、市場メカニズムを働かせる一方で情報開示と違反の罰則を厳しくするという方向が明確にされ、三中全会で提示された「株式発行登録制」に向けて一歩踏み出した点で重要な展開である。

第二に、「優先株試行の展開に関する指導意見」は、中国では今後、優先株を市場に導入するものである。発行側企業・投資家両者にとっては投資・調達手段が多様化する。これは、上述の新株発行改革の意見でも、資金調達方式の多様化を目指し株式、会社債、株と債券の組合せといった選択肢を増やすとしていることとも符合する。また、商業銀行にとっては、自己資本比率規制を満たす際の新たな資金調達ツールとなる。

第三は、「借殻上場におけるIPO上場基準の厳格執行に関する通知」である。これまで、借殻上場の基準はIPOの基準に比べて緩かったが、今後は、両者を同じにするものである。公平性を確保することに加えて、業績不振で上場廃止間近の会社が未上場会社の上場の「殻」(未上場会社が資産注入をして事実上の上場を果たす)となるのではないかとのことで、日本の整理ポストに相当する銘柄への投機(それに関連するインサイダー取引)が以前から絶えなかったことに対する措置でもある。

三中全会で採択された「改革の全面的深化における若干の重大問題に関する中共中央の決定」の金融の部分にある▽株式発行登録制改革を推進する、▽多方面からエクイティファイナンスを推進する、▽直接資金調達の割合を引き上げる、▽商品の多様化を促進する、等、に向けて、証券分野は既に動き出している。

(注1)なお、新株発行改革は昨年4月にも行われている。当コラム2012.5.01「2年ぶりに行われる中国のIPO制度改革」参照。
(注2)価格決定の方法は発行公告で開示する。

執筆者情報

  • 神宮健

    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    金融デジタルビジネスリサーチ部

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