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発表された地方政府債務の会計監査

2014/01/06

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2013年12月30日に中国審計署(会計検査院に相当)は、2013年6月末時点の政府債務の監査結果を発表した。地方政府がシャドーバンキングの主要な最終的借り手であることから、中国の金融システムの潜在的リスクを知る重要な手掛かりとして、監査が開始された昨年後半から発表が待たれていた。また、2013年12月の中央経済工作会議で決定された2013年の6つの主要任務の一つは「債務のリスクの予防とコントロール」であり、地方政府債務のリスクの緩和・コントロールはマクロ経済運営の点からも重要である。

今回の監査は、2010年実施の監査(2011年発表)に次ぐ2回目の全国的な調査である。今回は、前回に比べて監査の対象範囲が拡大された。まず、今回の監査対象政府は、中央政府と地方政府4級(省、市、県、郷鎮)であり、中央政府と郷鎮政府が新たに加えられた。次に、2011年以降、地方政府の資金調達方法が多様化したことを受けて、地方政府融資平台以外の国有企業(地方政府の独資、支配企業等)を通ずる資金調達、BT(Build-Transfer建設-譲渡)、リース等を新たに監査対象に含めた。

債務の種類については、(1)政府が返済責任を負う債務(財政資金で返済するもの)、(2)政府が担保責任を負う偶発債務(債務者が返済できない場合、政府が連帯責任を負う)、(3)政府が一定の救済責任を負う可能性のある偶発債務(法律上、政府に返済責任はないが、債務者が返済困難になった場合、政府が一定の救済をする可能性があるもの)が審査対象となっており、前回と同様である。

今回の監査結果によると、第一に、2013年6月末時点で、中央政府の債務残高は、(1)が約9.8兆元、(2)が約2600億元、(3)約2.3兆元であり、注目の地方政府債務残高は、(1)約10.9兆元、(2)約2.7兆元、(3)約4.3兆元である。よく引用される前回監査の地方政府債務10.7兆元(2010年末)は(1)~(3)の合計であり、今回の場合は(1)~(3)合計で17.9兆元である。債務残高増加は、2011年以降の債務増加とカバー範囲の拡大の結果であるが、今回の監査報告は(1)、(2)、(3)は性格が異なるので単純に合計してはならないとあえて指摘している。

第二に、地方政府債務を借入主体別にみると、地方政府債務全体に占める地方政府の融資平台(資金調達プラットフォーム)の割合が(1)で37.4%、(2)で33.1%、(3)で46.4%であり、やはり融資平台が主要な借入主体であることがわかる。なお(2)では政府部門・機関も36.3%を占め、(3)では国有企業(独資・支配)が32.4%と大きい。

第三に、資金調達方法から見ると、銀行融資の割合が(1)で50.8%、(2)で71.6%、(3)で61.9%と大きい。一方、2011年以降増加した都市投資債券(「城投債」、具体的には企業債、MTN、CP。都市インフラ建設等の資金調達のため発行)等を含む債券は、(1)で10.7%、(2)6.3%、(3)11.8%である。新たに監査対象となったBTは(1)で11.2%を占めている。

借り手における融資平台、貸し手における銀行とも全体に占める割合は2010年末に比べ低下しているものの、銀行融資の割合の絶対水準は高い。銀行のオフバランスの理財商品の最終的な運用先に「城投債」が一部組み込まれていること等を考慮すると、実態的な割合はさらに大きくなると思われる。

第四に、(1)の返済期限を見ると2013年後半から2015年の間に、全体の約62%が返済されなければならず、当面が返済のピークである。ただし、未完成プロジェクトの場合、借り換えが認められる措置(2013年12月31日発展改革委員会発表)等があることから、返済圧力はある程度緩和される。

第五に、審計署は、政府債務GDP比率(2012年、36.7%)等、各種の政府債務関連の比率が国際的なコントロール標準(政府債務GDP比率の場合、60%)を下回っていることから政府債務のリスクはコントロール可能との認識を示している。ただし、▽一部の地方では債務の負担が重いこと、▽銀行システムにリスクが集中していること、▽返済資金源における土地譲渡収入の比率が高いこと(2012年末で省市県政府債務(1)の37.2%)も指摘している。つまり、局所的なリスクが銀行のシステマチック・リスクに転化することや、一部ではバブルと言われる不動産・土地市場の状況によりリスクが顕在化することは依然として懸念材料である。

審計署は、これらの問題が生じる背景として、▽税・財政制度が完全でなく、地方政府の財政の力が限られていること、▽地方政府自体には債務による資金調達の権利を認めておらず(注:そのため融資平台を通して資金調達している)、地方政府の債務管理制度が完全でないこと、▽一部の地方政府幹部の業績観が、依然として経済成長追求型であること、また地方政府幹部の考査において債務面が考慮されていないこと、▽政府債務の予算、規模、リスク予防等の面の管理が弱いこと、を指摘している。

こうした認識に立ち、審計署は今後の措置については、▽税・財政制度改革や中央政府と地方政府の責任・財源の区分の合理化、▽地方政府債務の規範化(透明度・予算管理の強化等)、▽地方政府幹部の考査の見直し、▽債務リスク予防と応急措置の構築、等を挙げている。これらは以前から指摘されていた点であり、また、三中全会や経済工作会議等で打ち出された方針の具体化でもある。

今回の監査結果は債務規模も含めて概ね事前に予想されていた範囲にある。当コラムで以前から指摘してきたように、地方政府債務の全貌が明らかになりリスクの所在がより明白になったことに意義があり、今後、具体的な措置が採られることが期待される。

執筆者情報

  • 神宮健

    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    金融デジタルビジネスリサーチ部

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