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コラム 神宮健のFocus on 中国金融経済

国務院の地方政府債務に関する意見について

2014/10/20

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10月初に国務院が地方政府債務の管理強化に関する意見を発表した。地方政府の債務に関しては、昨年12月に審計署(会計監査院に相当)が地方政府債務の規模の推計を発表し(当コラム2014年01月06日「発表された地方政府債務の会計監査」参照)、また、今年5月には10省・市(上海、浙江、広東、深セン、江蘇、山東、北京、青島、寧夏、江西)において地方政府債券の自主発行・償還の試行が開始された。今回の意見は、これらの流れを受けて、地方政府の債務の今後のあり方や既存債務の処理策を打ち出したものである。金融リスクの面から問題視される地方政府の債務は正常化に向けて一歩前進することになる。

意見の内容を見ると、第一に、地方政府に債務による資金調達の権限を与える。省・自治区・直轄市は国務院の批准を経て、債務により資金を借入れできるようになる。市・県級政府は、省・自治区・直轄市が代わりに借入れる。

これまでは、地方政府債務は法律上認められておらず、地方政府はいわゆる融資平台(資金調達プラットフォーム)会社等を通じて実質的に資金を借入れてきた。今回の意見は、地方政府が企業を通して借入れることを禁止し、また、融資平台も新たに政府債務を増やしてはならないとされた。

そして、地方政府の債務による資金調達の方法は、地方政府債券の発行によることになった。収益のない公益事業については、「一般」債券を発行して一般公共予算で償還する。一定の収益がある公益性事業については、「専項」債券を発行して、事業に対応する収入から償還する(レベニュー債に相当)。

また、政府と社会資本の協力モデル(官民協力モデル。PPP:Public Private Partnership)を普及するとした。都市のインフラ建設等で政府が特許経営権を与える等して、投資家が長期安定的な収益を得られるようにする。投資家は、独自あるいは政府と共同で特別目的会社を設立する。

第二は発行規模・プロセスと予算管理である。地方政府の債務は国務院及び全人代(または全人代常務委員会)が許可した限度額を超えてはならず、地域別の限度額は地方政府の限度額内で、各地域の債務リスクや財政状況等によって決められる。

そして、地方政府の債券発行は当該地域の全人代またはその常務委員会の認可を取得しなければならない。地方政府が借入れた債務の用途は公益的な資本支出と既存債務の返済に制限され、経常的な支出には使えない。また、地方政府の信用評価制度を構築し、地方政府債券市場を改善するとあり、後述の情報開示とあわせて、発行市場に市場メカニズムを働かせる意図が見てとれる。

第三はリスクのコントロールと緩和である。具体的には、地方政府債務のリスク事前警告メカニズムと債務リスク応急処置メカニズム(プロジェクト規模圧縮、公費圧縮、資産の処理等)の構築がある。また、地方政府は自身の借入れた債務に対して償還責任があり、中央政府は救助しないという原則が明示された。

さらに、資金の調達・使用に関する違法行為を処罰するメカニズムを構築する。特に、土地の違法譲渡(売却)による資金調達を取り締まる。これまで地方政府財政が事実上、土地譲渡収入に大きく依存してきたことから、土地譲渡の管理についてわざわざ言及したと考えられる。

第四は情報開示等の関連制度の整備である。具体的には、地方政府債務の統計報告制度の改善、地方政府債務公開制度の構築であり、定期的に地方政府債務及びそのプロジェクトの建設状況が開示される。

地方政府債務の統計については、地方政府債務が建前上存在しないはずであったことから、以前は、研究者によるサンプル調査等に頼るしかなかった。審計署が2010年、2013年の2回にわたって推計を公表したことから、全貌については以前よりもかなり明らかになってはいるものの、頻度・内容と十分ではなく、今後、情報開示の改善が期待される。

第五は既存債務の処理と建設中のプロジェクトの資金調達についてである。2013年の審計署の監査結果をもとに既存債務を分類して予算管理に入れる。また、新規発行債券による借換え等により、既存債務の金利負担を引き下げるとしている。営業収入が不足するプロジェクトについては、優良資産の注入等の措置により返済能力を引き上げる。一方、既に損失の発生している既存債務については、債権者は商業原則によって相応の責任と損失を負担しなければならないとされている。基本的に市場メカニズムを重視し行政的干渉を減らす方針と見られる。また、建設中のプロジェクトへの資金供給を保証する。これは、途中でプロジェクトを中止することによるプロジェクトの不良債権化を避けるためである。

今回の意見により、地方政府に地方債発行という合法的な資金調達源を与え、地方政府の資金調達に市場メカニズムを働かせるという方針がはっきりした。具体的には、地方債に関連する情報開示を促し、それに基づいて信用格付け等がなされることになる。地方政府の活動は、今後徐々に透明度を増すことになろう。過去10数年間に見られた経済発展モデルの中枢には、あたかも不動産開発業者のように動く地方政府があったが、その資金の流れはブラックボックスとなっていた。地方政府の活動がより透明化されることで、資源の非効率な配分、環境破壊、不正所得による所得分配の歪み等の問題の改善につながり、経済発展モデルの転換に一歩近づくことが期待される。そして、上述したPPP方式等が、形だけを変えて融資平台と同じことを繰り返す器にならないかに注意する必要がある。

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