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人民銀行の金融調節手段MLFの導入と差別準備制度について

2014/11/11

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1.MLFの導入

人民銀行の2014年第3四半期の「金融政策執行報告」(以下、「報告」)が発表された。ここで、2014年9月に新たな金融調節手段、MLF(Medium-term Lending Facility、中期貸出ファシリティー)が導入されたことが注目を集めた。

これは、中期的のマネタリーベースを供給する金融政策ツールとされる。取引対象機関は(マクロプルーデンス管理の要求を満たした)商業銀行・政策性銀行であり、国債・中央銀行手形・政策性金融債・優良な債券等を適格担保とする。

「報告」によれば、今年9、10月にMLFを通じてそれぞれ5000億元と2695億元のマネタリーベースが供給された。期間は3ヶ月で金利は3.5%である。

MLFの導入により、2013年以降導入された金融政策ツールは以下のようになる。

  • SLO(Short-term Liquidity Operation、公開市場短期流動性調節ツール)。2013年1月導入。銀行システムの流動性の一時的な変動に対して適時使用。7日以内のレポ(無担保)が主で、取引対象機関は金融政策の伝達能力の強い金融機関(5大銀行等12行)である 。金利・金額等の結果は1ヵ月後に公表。
  • SLF(Standing Lending Facility、常設貸出ファシリティー)。2013年初に導入。金融機関からの要請の応じる形で、比較的長期で金額の大きい流動性を提供(日本銀行の補完貸付制度に相当)。対象は主に政策性銀行(国家開発銀行等)と全国的商業銀行、2014年に、一部地域の中小金融機関にも拡大。期間1~3ヵ月の担保貸出で、金利水準は金融政策調整・市場金利誘導の必要等に基づき決定。貸出残高は公表、金利は公開されない。今年3月以降の残高はゼロ。 また、PSLが使用されたとの報道もある。
  • PSL(Pledged Supplementary Lending、担保補充貸出)。従来から実施されている人民銀行から金融機関への貸出(「再貸出」)の一種と見られる。金融機関への中長期の貸出(担保付)であり、最終的にはインフラ建設等に融資されると言われている。

短期から中長期の流動性の調節及び市場金利の誘導の手段がそろってきたことがわかる。また、「報告」では、外貨準備の増加(とそれに伴う市中への人民元供給)が鈍化しつつある中で、中期の補充的な資金供給手段が必要であるとも述べている。

なお、今年9月には5000億元のSLFが実施されたという報道があったが(金融ITフォーカス2014.11「中国における最近の金融調節の展開」参照)、実際には、新たに導入されたMLFを通じた資金供給であったことがわかる。

2.差別準備制度への言及

一方、「報告」は差別準備制度のダイナミック調整メカニズムにも言及している。差別準備制度は、自己資本比率や融資増加率等の指標により金融機関によって異なる預金準備率が適用されるもので以前から存在する。「報告」によれば、第3四半期に、計算モデルにおける小企業・零細企業や農業向け融資政策の執行状況に関する政策パラメータを調整し、これらの分野及び中西部への融資比率の引上げを奨励している。(なお、「報告」では、差別準備制度は、政策パラメータを利用する方法を採っていることから、行政指導とは異なるとしている)。

「報告」を見ると、金利調節や通常の準備率操作は、現在の中国の金融制度では意図した効果を必ずしも持たないことから(例えば、単に金利を引上げると、資金に余裕のある大企業には資金が流れ続け、小企業に流れない等)、差別的準備制度といった手段も必要との認識を政策当局が持っていることがわかる。

また、「報告」は、一部の経済主体はあまり金利敏感でなく、また、市場メカニズムに基づく為替レート形成も道半ばであるとも言及している。ソフトな予算制約下にある経済主体の存在や自由化されていない市場が並存する中では、先進国型の金利を介した金融政策のトランスミッションメカニズムの実行は難しく、現時点では、差別的準備制度といった方法を採らざるを得ないとのことであろう。

さらに、差別準備制度をリーマンショック時に採られた4兆元の景気刺激策の影響を消化するための、つまり金融を常態化するための一つの選択肢とも捉えている。

当面、差別的準備制度の調整に加えて、上述のSLFや選択的預金準備率引下げといった特定の金融機関や経済領域にターゲットを定めた金融政策ツールの使用が続くことが予想される。

執筆者情報

  • 神宮健

    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    金融デジタルビジネスリサーチ部

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