供給側(サプライサイド)構造改革について
供給側改革の目的
3月の全国人民代表大会(全人代=国会)でキーワードの一つとなると見られる「供給側(サプライサイド)構造改革」について考える。
この改革の狙いは、長年の課題である経済成長モデルの転換である。従来は、経済成長を見る際に、輸出、固定資産投資など需要項目から考える発想が主であったが、これを供給面重視に変える。つまり生産活動において、労働・資金・資源等をどれだけ効率よく投入するかが焦点となる。
第一に労働投入を見ると、人口ボーナスの消滅、具体的には高齢化に伴う労働力人口の減少がある(労働力人口のピークは2011年)。加えて、農村から都市部への労働力移転も難しくなっている。
既に、一人っ子政策は廃止されたものの、即効性はない。そこで、農村労働力のさらなる利用を促すために、都市化や戸籍制度の改革が行われる。
例えば、1月22日国務院常務会議は、農業からの都市への移転人口についての戸籍変更の条件緩和や超大都市以外での大学卒業生・留学帰国者等の戸籍制限緩和に言及した。また、「居住証暫定条例」が2016年1月に実施された。これは、都市部定住の出稼ぎ労働者に対して義務教育・就業・医療・法律援助等の基本公共サービスを提供するものである。戸籍制度の全面的な改革には財政制度の改革も必要であり、なお時間を要すると見られるため、居住証による状況改善を図るものと見られる。
こうした動きと並行して、農村では土地の経営権の移転や耕地の大規模化に向けた土地制度の改革が必須となる。
第二に資源投入面を見ると、従来から効率の悪さが指摘されている。地方政府の思惑などがからむため、不動産投資を含む固定資産投資は無駄が多く、同時に贈収賄、所得格差拡大、環境破壊などの弊害を招いてきた。固定資産投資が多い割には経済全体の生産性向上には必ずしも結びついてこなかった。
資源配分の効率化には、市場メカニズムを発揮させねばならない(市場化)。金融市場では、昨年、金利自由化が基本的に完了し、また、人民元為替レート形成メカニズムの市場化に向けた動きがある。
ここでは、過去数年に見られたインターネット金融の台頭にも注目すべきである。すでに、インターネット金融は支払・決済、融資、資金運用、金融商品販売など金融の各機能に及んでおり、伝統的な金融機関を巻き込んで金融のあり方を変えつつある。
昨年まではインターネット金融に対する規制が無い中でP2P金融(Peer to Peer、インターネット上の個人間貸借)などが野放図に拡大し、リスクが拡大してきたが、今年はインターネット規制元年となるはずであり、今後の発展はより秩序立ったものとなろう。
生産要素をより効率的に結びつけ、経済全体の生産性を引き上げるには技術面も重要である。既に、「製造業(メイドインチャイナ)2025」、「インターネット+(プラス)」など、新技術やインターネットを応用する戦略が打ち出されている。創業・起業が鍵となる中で、税制面の改革も議論されるようになろう。
その一方で、マイナス要因つまり過剰生産設備・不動産の問題も緩和しなければならない。ゾンビ企業の整理や国有企業改革に対しては地方政府等、既得権益層が抵抗するため、これをいかに抑制できるかが重要である。その一方で、失業が急増すれば社会の不安定化を招くため、政府は慎重に過剰設備などの処理を進めると見られる。
需要面の高度化・多様化も
これら供給側の動きを需要側から見ると、産業の高度化や新産業の発展が需要の高度化や新たな需要が実現させることが期待できる。一例を挙げれば、「あればよい」という水準から脱却したいという消費者の潜在的要求は中国国内では満たされず、結局日本での爆買いにつながった。こうした動きを中国国内で取り込めれば、経済発展モデルの転換も促せる。また、設備投資面では、足元での労働コスト上昇や環境破壊の問題を考えると、産業ロボット等の省力化や省エネ関連の投資がさらに重視されよう。
供給側構造改革のめざす今後の中国経済の姿は、石油ショックを境に高度成長期が終わり安定成長期に移る中で、消費多様化・省エネ・環境対策が進んだ1970年代の日本の姿と類似しているところもある。その意味では、供給側構造改革は、経験のある日本企業にとって有利に働くかもしれない。
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