2016年経済工作会議における金融分野の言及について
年一回の中央経済工作会議が12月14日~16日に開催された。ここでは、主に金融政策に関する部分について見ることにする。
今回の経済工作会議の基調は、ここ数年と同じく「穏中求進」(安定の中で進む)である。2016年については、第13次5ヵ年規画(2016~20年)の良好な始まりとなったとしながらも、中国経済には、生産能力過剰と需要高度化の間の矛盾、経済成長における内生的な動力不足、金融リスクの累積などの問題があるとした。
第一に、マクロ経済政策については、引き続き「積極的な財政政策と穏健な金融政策」を実施する。財政政策は企業の税・費用の軽減などから、より積極的になる模様だが、「金融政策は穏健中立を維持し、マネーサプライの供給方式の新たな変化に適応して」、マネーサプライを調整し「流動性の基本的安定を維持する」とされた。また、「金融リスクの防止・コントロールを重要な位置に置く」とし、諸リスクへの対処、資産バブルの防止、監督管理能力の改善を挙げ、金融のシステマチック・リスクを発生させないとしている。
2015年の経済工作会議も、金融リスクの防止・解消に言及していた。具体的には、地方政府債務のリスクの解消と(P2P等による)違法な資金集めが挙げられ、システマチックなリスクと区域性のリスクを発生させないとしていたが、2016年は、金融リスクの防止に重要な位置づけを与えるとした点で金融リスク防止がより強調されている。
2016年が特に前半の景気減速を受けて、金融政策が緩和方向にバイアスがかかっていたとすれば、2017年は資産バブル防止などを指摘している点から、中立という面が強いものと見られる。上述したように「金融政策は穏健中立」と表現されており、穏健の後に中立の二文字が加わったことに注目する向きもある。実際、2016年は、大都市を中心に不動産価格が上昇し、10月には不動産市場の過熱抑制策が採られた経緯もある。加えて、シャドーバンキングによる資金の流れもある。
「マネーサプライ供給方式の変化」については、いろいろと考えられる。一つは、外貨準備が減少していることから、いわゆる外為勘定では人民元資金が市中から中央銀行である人民銀行に吸収されてしまう。こうした展開を見越して、人民銀行は、数年前からMLF(Medium-term Lending Facility 中期貸出ファシリティー、2014年9月導入)を始めとする資金注入のための市場操作手段を導入している(注)。
もう一つは、銀行のオフバランス理財商品(資産運用商品)を通じた、いわゆるシャドーバンキングを考慮したとも考えられる。人民銀行の高官は、10月に、一部の銀行のオフバランスの理財業務の増加が速く、また、これらは貸出類似業務や債券を含んでおり、信用拡張作用がある、としている。
人民銀行は、銀行がオフバランスの資金運用商品で調達した資金について、その運用部分をMPA(マクロプルーデンス評価体系)の「広義の貸出」に算入することを検討しており、来年から実施する予定と見られる。こうした動きも、マネーサプライ供給方式に関連したものと捉えることもできる。
第二に、金融規制については、「金融監督管理体制改革を深く研究し、積極的に確実に推進する」。銀行のオフバランス理財商品の資金や保険会社の資金は、業態を跨いで複雑に流れ、その間に仕組み債が使われるなど、金融システム全体のリスクが上昇しているように見える。一部の上場会社株式に見られる大量購入や仕手戦のような状況は、従来の業態別の縦割り規制では対処し難いものである。
業態別の規制体制の変更の必要が言われて久しいが、金融リスク防止を重要視する中で、これまでになくその必要性は高まっていると言える。
(注)中期的に流動性を供給。国債・中央銀行手形・政策性金融債・優良債券等を適格担保とする。対象は商業銀行・政策性銀行。
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