FRBのパウエル理事の任命公聴会-政策の連続性
はじめに
FRBのパウエル理事は、今月初のトランプ大統領による次期議長としての指名を受けて、11月28日に上院の銀行・住宅・都市問題委員会での任命公聴会に対応した。少なくとも筆者がLiveで視聴した冒頭の1時間半については、議員の質問に対するパウエル氏の回答は予想の範囲内であり目新しさには欠けたが、FRBを取り巻く現在の政治情勢を再確認する意味でも内容をみておきたい。
金融規制の見直しについて
トランプ大統領による次期FRB議長の選任過程では、金融規制の見直しへのサポートが重要な条件となっていただけに、今回の公聴会でも、共和党と民主党の双方の多くの議員がこの点を取り上げた。
このうち共和党側は、クラッポ委員長を筆頭に、同委員会が既に可決した金融規制の見直し法案への支持をパウエル氏に迫る形での質問が目立ったほか、SIFIの適用などに関する要件を資産規模でなく、ビジネスモデルやリスクプロファイルに即したものに転換すべきとの指摘も多かった。
これに対しパウエル氏は、コミュニティーバンクのような単純なビジネスモデルの銀行については、現在は規制の負担が大きいとの見方を確認しつつ、FRBが議会での特定の法案審議に関わることは適切ではないが、金融規制の見直しに関する議論には貢献していきたいと応じた。
これに対し民主党側は、副委員長のブラウン氏やウォーレン氏を中心に、大銀行の不適切な行動の結果、金融危機によって国民の雇用や財産が失われたことを忘れてはならず、その後に導入された金融規制の維持は重要との考え方を確認するよう求めた。また、一部の議員からは、中小金融機関の負担軽減は良いとしても、大規模金融機関には規制強化が必要との厳しい意見も示された。
パウエル氏は、金融規制の全面的な見直しを求めている訳ではない点を強調した上で、中小金融機関の負担の適切化のほか、金融機関の破綻処理-危機における円滑な破綻処理の仕組みーなどの面でも見直しの余地があることを指摘した。
なお、本来は金融規制の見直しの一つの柱であり、筆者も個人的に注目している住宅金融改革については、クラッポ委員長が政府保証の限定化と透明化を中心とする共和党の考え方を説明したのに対し、パウエル氏が重要性を確認したのみで、他の議員によるフォローアップもなく、具体的な議論には乏しかった。
金融政策の運営
緩和的な金融環境の維持も、トランプ大統領が次期FRB議長の選任に際して重視したとされているが、今回の公聴会での金融政策に関する議論は、共和党側がクラッポ委員長やスコット氏に代表されるようにバランスシート削減を取り上げたことが印象的であった。
パウエル氏は、こうした質問に対して、保有資産は償還を通じて緩やかに削減する、最終的な規模には不確実性が強いが今後3~4年後に2.5~3兆ドル程度まで減少すると見込まれる、その水準は現在より小さいが危機前より大きい点でNew Normalである、具体的な規模は銀行券と当座預金に対する需要によって決まる、といった基本的内容を丁寧に説明した。
このように、一見すると技術的な問題に焦点が当たったことは、クラッポ委員長が冒頭発言の中でFRBによる6月の資産削減方針を歓迎すると述べたことに象徴されるように、共和党による量的緩和への批判的なスタンスを示唆するものと考えられる。
一方で、民主党側が金融政策について主として取り上げたのは、独立性に対する懸念であった。つまり、副委員長のブラウン氏は、冒頭発言の中で、新任の大統領が前任の大統領の任命したFRB議長の再任を認めてきた伝統が損なわれた点を批判した。また、他にも、FRBによる政策判断に政治が直接的に介入するリスクについてパウエル氏に同意を求めるケースが見られた。
これに対しパウエル氏は、FRBの独立性はそもそも議会によって与えられたものである点を確認した上で、FRBの独立性を尊重する米国の歴史とこれまでの議長の実績に照らせば、その維持は可能であるとの自信を示した。また、現政権にはムニューシン財務長官を含む親しい知人がいることを認めつつも、そうした関係が政策判断に影響するリスクについては明確に否定した。
このほか、民主党側は、リード氏に代表されるように、米国経済は全体としては改善しているが、人種によっては雇用や所得の恩恵を受けられない人々が多く残存しているとの問題を提起し、金融政策の正常化が正しい判断かどうかを改めて質した。
これに対してパウエル氏は、FRBは議会の決定に即してデュアルマンデートの達成を目指して金融政策を運営していることを確認した上で、雇用に関しても失業率や雇用者数の点で顕著な改善が見られたとして、緩やかな利上げの合理性を主張した。その一方で、パート労働や労働参加率の面では労働市場のSlackが完全に解消した訳ではないとして、議員の主張にも配慮をみせた。
なお、ティリス氏のような共和党議員は、議論が大詰めを迎えている税制改革を正当化する観点から、税制改革が実現した場合の景気や税収に関する予測を示すよう迫った。
パウエル氏は、経済予測の上で税制改革を重視しているとしつつも、不確定要素が多いため現時点では推計が困難であり、個人的にも具体的なイメージが持てないとして回答を避けた(FRBには多数の優秀なエコノミストがいるはずとの指摘に、パウエル氏が苦笑する局面もあった)。税制改革に関しては、民主党側もメネンデス氏のように、中流階級に対する負担をむしろ増やすとの懸念に同意を求める質問がみられたが、もちろん、パウエル氏はこうした主張にもコメントを避けた。
おわりに
パウエル氏が、上に見たような微妙な質問に対しても終始冷静に対応したため、視聴者は次期FRB議長として安定感を感じたことであろう(おそらく、同氏にとって唯一、想定問答を離れて回答したのは、世界経済に大きな影響を与えうるポストに就くことへの感想を求めた共和党のヘラー氏とのやり取りであろう)。
もちろん、それは同氏の資質や性格によるのであろうが、上に見たような応答内容を踏まえると、イエレン議長体制の最後に構築された基本スタンスを継承しているからという面もあるように見える。だとすれば、パウエル氏の真価は、米国の金融経済が前体制の想定しなかった展開を見せ始めた時から初めて問われるということなのであろう。
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