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第五回全国金融工作会議について

2017/07/18

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7月14、15日に、5年に一度の全国金融工作会議が北京で開催された。今回は5回目で、前回は2012年1月6、7日に開催された。中国では2013年がインターネット金融元年と言われるように、過去5年間でインターネット金融を始め、FinTechが大きく発達した。このため、足元では伝統的な金融機関を業態別(銀行・証券・保険)に縦割りで規制することの弊害や限界が明らかになっている。こうした中で、金融工作会議が金融監督管理のあり方についてどのような策を打ち出すかが、年初来市場で注目されていた。

会議後の習近平国家主席の講話は、▽金融が実体経済に貢献すること、▽金融リスクを抑制すること、▽金融改革を深化させることという3つの任務に言及した上で、金融工作の重要原則として、①金融が本源に回帰し、経済社会の発展に貢献すること、②金融市場・金融機関・金融商品体系を改善すること、③監督管理を強化し、金融リスクの防止・解消の能力を引き上げること、④市場に金融資源の配分における決定的な役割を発揮させること、の4つを挙げている。

第一に、金融の本源回帰について見ると、中国の金融システムの問題として、間接金融の比重が高く、しかも、銀行が中小企業への融資に積極的でないことが以前から指摘されている。加えて、過去数年は、規制回避や短期的な利益追求のために、銀行間で資金を回す同業者取引が増え、金融取引が実体経済から遊離していることが問題視されていた。このため直接金融(多層化した資本市場体系)の発展をさらに促すと同時に、金融包摂(Financial Inclusion)を発展させ、小・零細企業や農業等への金融サービスを強化することが打ち出された。

第二に、金融リスクの防止である。金融リスク防止は今年のマクロ経済政策運営の重点であり、債務比率の引下げ、ゾンビ企業の処理、地方政府債務の増加のコントロール、インターネット金融に対する監督管理の強化等に言及している。

なお、地方政府債務については、地方政府の隠れ債務問題が再び浮上していることがある。民間活力利用や地方財政負担の軽減のために導入が盛んな地方政府のPPP(Public Private Partnership、官民協力モデル )において、地方政府が参画する民間部門(国有企業を含む)に対して、裏で元本や利回りを保証しているケース、つまり、事実上の地方債務が生じているケースが一部で見られる。PPPには、銀行がオフバランスの資金運用商品で調達した資金の一部が、地方政府の産業ファンド等を経由して入っている場合もある。銀行・地方政府の間で透明性の低いオフバランスの金融取引が依然として続いているわけであり、リスク管理上、問題視されている。

第三に、金融改革の深化である。ここでは、監督管理強化の一環として、国務院金融安定発展委員会が設立されることが明らかになった点が注目される。

ここ数年間、中国のシャドーバンキングは複雑化し、潜在的な金融リスクとなっている。中国においてシャドーバンキングは主に銀行のオフバランス取引であり、融資規制・自己資本比率規制を回避するための迂回融資である。迂回ルートとして信託会社や証券会社等の資産運用商品が使われ、同時に、銀行・保険・証券という業態別縦割り行政下で業態により規制が異なることも利用される(規制アービトラージ)。そして、ここ数年は、投資リターンの引上げ等を目的に、迂回ルートの中に、PEファンドやファンド・オブ・ファンズ(FOF)等を組み込むケースが見られたり、規制が最近までかけられていなかったインターネット金融等も利用されたりしている。

しかも、現行の業態別縦割り規制の下では、銀監会(銀行業監督管理委員会)、保監会(保険監督管理委員会)、証監会(証券監督管理委員会)等の個々の規制当局が、金融業態を跨ぐ資金の流れ全体を把握・検査するのは難しい。また、迂回ルートの参加者が増え、その中にFOF等も介在する中では、誰が、特に個人投資家が最終的に何に投資し、リスクがどの程度なのかがわかり難くなっている。これは個々の投資家の適格性にはじまり金融システム全体のリスクの把握にかかわる問題である。

こうした状況を受けて、今回の金融工作会議は、国務院金融安定発展委員会を設立し、また人民銀行のマクロプルーデンス管理とシステムリスク防止の職責を強化するとした。金融安定発展委員会の設立により、規制当局(人民銀行、銀監会、保監会、証監会)間の協調を強化し、また、金融データ情報面での共有等を進める。

金融業態間の規制を統一し、またインターネット金融等の新たな金融の方法についてもそれを適用する方向に進むと見られる。これにより、同じ機能を持つ金融商品・サービスに対して、業態によって異なるルールが適用されることから生じる不公平や規制アービトラージを避ける。また、資金の流れの全体像を把握し(いわゆるルックスルー)、投資家保護を強化し金融システム全体のリスクを把握する。

中国では、上述したような国内の金融リスクに加えて、昨年以降は対外資本流出への対応にも苦労している。一時は、自由化の流れに逆行するような動きも見られたが、今回の会議では、市場メカニズムによる資源配分の重視のほか、人民元の為替レート形成メカニズムの改革の深化、人民元国際化の穏やかな推進、資本項目の自由化の穏やかな実現に言及しており、基本姿勢としては金融改革・開放の路線が続いていることが確認された。

執筆者情報

  • 神宮健

    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    金融デジタルビジネスリサーチ部

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