シャドーバンキングの抜本的な解決に向けた動き
11月17日、中国人民銀行、銀行業監督管理委員会、証券監督管理委員会、保険監督管理委員会、外為管理局が連名で「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」の草稿(パブリックコメント募集用、以下、指導意見)を発表した。
銀行のオフバランス理財商品(資産運用商品)を始めとする各金融機関の資産管理商品はシャドーバンキングの中核をなしていることから、当局がシャドーバンキングに対して抜本的な対策に乗り出していることが確認された点で、今回の発表は草稿ながら重要である。
中国のシャドーバンキングは、主に銀行が主導する規制回避等のための迂回融資である。過去7、8年間、規制強化とイタチごっこを繰り返し、迂回融資のチェーンは長く複雑化した。同時に、業態別縦割り規制の限界も明らかになってきた。業態により異なる規制は、規制アービトラージにつながった。また、資産管理商品の資金が他の資産管理商品に投資され金融業態を跨いで資金が流れる中、最終的な投資家(個人)が最終的に何に投資しているのか、リスクがどの程度なのかを、業態別縦割り規制の弊害から当局も把握し難くなっている。
指導意見は29条からなり、資産管理商品の類型に基づいて統一的な監督管理基準を制定している。指導意見の基本原則は、▽(今年の金融政策の基調である)金融リスク防止、▽金融の本源回帰(実体経済への貢献)、▽金融業態別規制と機能別規制(同じ金融商品・サービスには同じ規制を適用)の結合、▽迂回融資チェーンの複雑化・不透明なレバレッジ・規制アービトラージ等の問題に対する統一的な標準規制の設定、▽規範化に対する市場の対応能力を考慮した過渡期の設定(2019年6月末まで)、である。
以下、ポイントを見る。
- 資産管理業務は金融機関のオフバランス業務である。つまり、金融機関は元本や収益を保証してはならず、投資家がリスクを負う。
- 機能別規制の基礎となる商品の分類は、募集方式と投資先の二つの次元でなされる。前者は公募と私募、後者は固定収益類・エクイティ類・商品とデリバティブ類・混合(バランス)類である。私募商品に関連して、適格投資家についての定義もある(金融資産500万元以上等)。
- 金融機関は投資家教育を強化する。そして、違法な元本保証等をした金融機関は罰せられる。これは、足元で銀行のオフバランス理財商品については、販売した銀行が最終的に責任を取るだろうというモラルハザードがはびこっているためである。販売時に銀行がリスクをきちんと説明してこなかったことが背景にあり、今後は、投資家責任をはっきりさせる方向である。
シャドーバンキングに関連するリスクについては以下の措置が採られる。
- 資産管理商品の資金を非標準化債権類資産に投資する場合、限度額管理、リスク準備金管理等の標準が定められる。非標準化債権類資産とは、簡単に言えば銀行間市場や証券取引所等で取引されていない資産である。これは、例えば不動産プロジェクトに対する収益受益権など、シャドーバンキングにおいて重要な役割を果たしてきた非標準化商品の管理を意図したものと見られる。
- 金融機関は、資産管理商品の管理費収入の10%をリスク準備金として積むか、規定に基づきオペレーショナルリスク準備資本を積まなければならない。資産管理商品の信用リスクは投資家が負うので、オペレーションや技術的な故障等で発生する損失についての準備である。
- 各資産管理商品はそれぞれの勘定で管理する。これは、資金プール、つまり複数の資産管理商品の資金をドンブリ勘定で運用することの禁止である。資金プールについては、当然のことながら、期間ミスマッチのリスクやポンジースキーム化等の不正行為のリスクがある。
- 資産管理商品の資金の他の資産管理商品への投資は一層のみとする(公募証券投資基金への投資は除く)。つまり、資産管理商品の組み込みは二階建てまでとなる。これにより、資産管理商品のチェーンが長くなっていくことを防ぐ。
- 公募商品やオープン型私募商品等で仕組み債の利用を禁止する。私募商品で仕組み債を作る場合も、優先部分と劣後・中間部分の比率が商品の種類ごとに規定される。
- 商品の種類ごとに統一的な負債比率(総資産/純資産)を設定する(例えばオープン型公募商品の場合140%等)。ここではルックスルーの原則が適用され、投資先の資産管理商品の総資産も含めて計算される。
以上の三つは、新たな規制が入るたびに規制回避のための迂回融資のチェーンが長くなり、さらに、その過程で仕組み債が利用されたり、レバレッジがかけられたりすることでリスクが大きくなってきたことに対する措置であると見られる。
- 資産管理商品の統一的な報告制度を確立する。人民銀行を中心に資産管理商品データコードと総合統計が作成される。上述のレバレッジ率の計算は一例であるが、資産管理商品の中に資産管理商品が組み込まれるため、最終的なリスクの把握のためには、統一的な資産管理商品データベースの作成が不可欠である。
- 既存の資産管理商品が徐々に満期を迎えるのを待つ一方、今後は指導意見の規定に合わない新商品を発売しないとの形で指導意見を実施していく。こうした過渡期は2019年6月30日までである。これは、指導意見の規定を一気に満たす場合に生じかねないリスクを避けるためである。
資産管理業務の規範化は、今後の中国の経済・金融のリスクを評価する上で極めて重要である。今後、パブリックコメント募集を経てどのような正式意見が発表されるかが注目される。
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