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FRBのパウエル議長の記者会見-Downward shift

2018/12/20

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はじめに

今回のFOMCは25bpの追加利上げを予想通り決定した。もっとも、むしろ焦点となっていた2019年以降の経済見通しや政策金利の運営については、市場が期待していたよりも小幅な修正に止まった印象がある。

景気判断と経済見通し

今回のFOMCによる声明文のうち、足許の景気判断(第1パラグラフ)は、前回(11月)と比べて(失業率が横ばいに転じた点を反映した以外は)全く変わっていない。また、リスクバランス(第2パラグラフ)も中立のままに維持した。

ただし、このリスクバランスの後に、海外の金融経済動向とそれらが米国経済に与える影響を注視するという表現が加えられ、FOMCとして主要なリスク要因と認識していることが示された。

一方、今回改訂された経済見通し(SEP)においては、景気と物価ともに(既にほぼ終了した2018年はともかく)2019年に関して若干の下方修正がなされた。つまり、2019年の実質GDP成長率とPCEインフレ率、PCEコアインフレ率の見通しは、各々+2.3%、+1.9%、+2.0%となり、前回(9月)の+2.5%、+2.0%、+2.1%に比べて低下している。

記者会見では比較的多くの記者が物価見通しを取り上げた。まず、ある記者が失業率が2021年にかけて「長期水準(FOMCによる新たな見通しは4.4%)」を明確に下回って推移することとの整合性を質したのに対し、パウエル議長は賃金と物価に直線的な関係がある訳ではないとの理解を示した。この点は、前回(11月)のFOMC議事要旨に示された通りである。

また、別の数名の記者が、インフレ目標に達しないままで良いのかとの疑問を示したのに対し、パウエル議長は、インフレ目標に達しないのであれば決して望ましいことではない点を認めつつも、目標自体が2%近傍である点を確認し、1.9%であっても目標を概ね達成しているとの理解を示した。

このほか、数名の記者が取り上げたのは金融環境の評価である。実際、パウエル議長も記者会見の冒頭説明の中で、9月FOMC以降に金融環境が明確にタイト化したことを認めている。これに対して記者は、注目すべき市場やタイト化の程度等を取り上げたが、パウエル議長は特定の市場セグメントでなく全体として評価すべき点や、あくまでも実体経済への影響の観点から注視すべき点を説明した。

もちろん、インフレ率や金融環境に関する記者の質問の本当の趣旨は、利上げを続けることの妥当性に対する疑問であることは明らかであり、この点は次の節で検討する。

政策運営に関する議論の前に、景気判断について一つだけ付言すると、貿易摩擦の影響に関する質問が予想外に(かつ前回(9月)対比でも)少なかったことは印象的であった。貿易摩擦の展望自体をパウエル議長に質すことが的外れであることは事実ながら、この問題がどういう経路によってどの程度の影響を与え始めているかについて、FOMCの理解を質すことにはなお意味があるように思う。

政策判断

今回改訂されたいわゆるdot chartによれば、FOMCメンバーによる2019~21年の各年末の政策金利の予想(median)は、 2.9%→3.1%→3.1%となり、前回(9月)の3.1%→3.4%→3.4%から下方修正された。つまり、2019年の利上げ幅が前回(9月)には0.7%とされていたが今回は0.5%となったほか、見通しの全期間にわたってカーブが下方に平行移動したイメージとなっている。

一方で、FOMCは「長期」の政策金利の見通しも3.0%から2.8%へ同時に下方修正したので、2019年末以降は政策金利を「中立」水準を若干上回った形で維持するとの考え方が示唆されていることになる。そうした考え方自体は前回(9月)と同じである。

これに対しては、先に見たように、多くの記者が金融環境やインフレ率の動向を参照しつつ、利上げを継続する妥当性を質した。パウエル議長は、下方修正したとは言え2019年の経済成長見通しは「長期」を明確に上回り、インフレ率も目標近傍で推移するとみていることを確認し、緩やかな利上げを継続することの適切さを強調した。また、政策金利の水準が、今後は中立ないし若干の引き締めの領域に入る見通しであることも再確認した。

もっともパウエル議長も、これからの利上げが既定路線を辿るのでなく、経済指標次第(data dependent)であることも強調し、新たな指標から推測される経済の動きが、FOMC自身の見通しに沿ったものかどうかがポイントになると説明した。加えて、数名の記者からの質問に拘らず、8回のFOMCのいずれで2回の利上げを実施するかについては明言を避け、今後のFOMCにおける議論の如何であることを強調した。

FOMCによるこうした意向を反映して、今回の声明文(第2パラグラフ)では、持続的な景気拡大やタイトな雇用状況、インフレ率の2%近傍での推移との間では、緩やかな利上げの継続が整合的というこれまでの表現に対して、「数回の(some)」という単語が加わるに止まった。この点に関しては、もう少し明確な改訂を期待した声もあっただけに、市場にはやや落胆もあったかもしれない。

コミュニケーション

今回の会見では、FRBによる政策運営の見直し、特にコミュニケーションの面での議論に関する質問もあった。

パウエル議長は、具体的な結論に至っていないことや、インフレ目標の見直しのような抜本的なものになる訳ではないことを確認した。また、経済見通し(SEP)の枠組み自体は所期の効果を十分に発揮していると評価した。

一方、いわゆるdot chartについては、FOMCメンバーが各々どのような考えにあるかを示す点で有用である一方、平均(median)に対する過度な注目や、(見通しでなく)計画と誤解されるリスクがあるとの理解も示した。併せて、冒頭説明の中でも、これからは全体としてリスクバランスを示すことが重要との認識を示した。

もちろん市場にとっては、このような中長期的な視点からの議論だけでなく、2019年の2回の利上げのタイミングを探ることも重要である。今回の会見でも、一部の記者は、FOMCごとに年8回開催されるようになる記者会見の位置づけ-経済見通しの改訂が行われる年4回とそれ以外との関係-を質問した。しかし、パウエル議長は、むしろ、経済見通しを年8回改定することも含めて柔軟に対応する考えを示唆した。

執筆者情報

  • 井上哲也

    井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部
    シニアチーフリサーチャー

    金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフリサーチャー

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