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シャドーバンキングの抜本的な解決へ 資産管理業務の規範化意見、正式発表

2018/05/01

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4月27日、中国人民銀行、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会、外為管理局は連名で「金融機関の資産管理業務の規範化に関する指導意見」(以下、指導意見)を発表した(即日実施)。昨年11月に草稿が発表され、パブリックコメントを募集していたものである。

中国の資産管理業務は、2010年前後からシャドーバンキングによって、換言すれば規制回避のための「金融革新」によってリスクを内包しながら急拡大してきた。今回、指導意見が正式に発表されたことで、中国の資産管理業務が規範化され、リスク・リターン・投資家の関係が正常化していくことが期待される。また、中国の資産管理業界も大きな変動期を迎えることになろう。

31条から成る指導意見の基本的な考え方や大枠は草稿とほぼ同じであるが、以下に簡単にまとめておく(詳しくは当コラム2017.11.21「シャドーバンキングの抜本的な解決に向けた動き」、金融ITフォーカス2018年1月号 「中国における金融リスク防止策の強化」 を参照されたい)。

  • 資産管理業務の定義。資産管理業務は金融機関のオフバランス業務である。つまり、金融機関による元本・収益保証は禁止される。リスクは投資家が負う(それに伴い投資家の適格性管理も行う)。
  • 資金の募集方式と投資先による資産管理商品の分類と、その分類に基づく統一的規制の適用。つまり、同じ機能の商品には同じ規制(投資範囲、レバレッジ、情報開示等)がかけられる。
  • 非標準化債権類資産への投資条件の厳格化。
  • 資金プール(ドンブリ勘定)の禁止。
  • 資産管理商品の資金の他の資産管理商品への投資の制限(公募証券投資基金への投資を除き一層のみ。つまり、資産管理商品は二階建てまでとなる)。
  • 公募商品やオープン型私募商品における優先・劣後構造の禁止。
  • レバレッジ規制。統一的な負債比率(総資産/純資産)の設定。
  • 資産管理商品の統一的な報告制度の確立。
  • 激変緩和のための過渡期の設定(既存の資産管理商品が徐々に満期を迎えるのを待つ一方、今後は指導意見の規定に合わない新商品を発売しない)。草稿では過渡期は2019年6月末までであったが、2020年末に変更された。

指導意見は、多くの内容を含むが、ここでは、今後についてのポイントを二つ挙げる。

1.銀行の資産管理商品(理財商品)の元本収益保証禁止
第一は、元本収益保証(暗黙の保証を含む)の禁止と投資家責任の徹底である。20兆元余りに上る銀行の資産管理商品(理財商品)への影響は避けられないと見られる。元本収益保証の禁止と並行して、資産管理商品の純資産価値が原則、市場価格に基づいて評価されることになる(これが、元本・収益保証しているかどうかの基準にもなる)。公募証券投資ファンド等と同様の方法が銀行の理財商品全般にも適用されることになる。

個人の投資家にとっては、元本割れの可能性もあるため、従来の銀行理財商品がゼロリスク・ハイリターンという時代が終わることになる。一般庶民の銀行に対する信頼は厚く、銀行の販売する商品ならば大丈夫との認識は根強い。このため、銀行としては、まず投資家教育から徹底しなければならない。こうしたことから、これまで資金調達を特に理財商品に依存していた一部の銀行は苦戦する可能性がある。

2 シャドーバンキングの行方
第二に、非標準化債権類資産の問題である。非標準化債権類資産とは、例えば不動産プロジェクトに対する収益受益権などであり、資産運用商品に組み込まれる形で、シャドーバンキングにおいて重要な役割を果たしてきた。

まず、指導意見の標準化債権類資産の定義を見ると、草稿に比べて厳しくなっている。「等分化され取引可能であること、情報開示が十分であること、集中登記・独立委託管理されていること、公正価値を定められ流動性があること、銀行間市場・証券取引所など国務院の同意を経て設立された取引市場において取引されていること」である。草稿では「銀行間市場・証券取引所など、国務院と金融監督管理部門が認可した取引市場において取引されていること」であった。

次に、この標準化債権類資産以外は、非標準化債権類資産(「非標」とも呼ばれる)となるわけだが、今回の指導意見以前に金融当局によって発表された様々な規定により、既に資産運用商品の非標への投資はかなり制限されている。指導意見によれば、過渡期の終了する2020年末までに規定違反になっている投資は解消しなければならない。ただし、非標を利用して資金調達しているインフラ建設等のプロジェクトは期間が長いため、最終的な資金源である個人投資家向けに販売された短期物の資産運用商品(銀行の理財商品等)との間には、明らかに期間ミスマッチがある。このため、指導意見では、デフォルトリスク等を避けるように、過渡期においては既存資産運用商品での借り換えが認められている。

こうした過渡期の措置はあるものの、2020年末までには規定違反の商品は解消する必要がある。解消の方法としては、オンバランスの銀行融資への切り替え(銀行融資で非標を返済する)があるが、そもそもシャドーバンキングは銀行が自己資本比率規制等を避けるために始めたことを考えると、簡単ではないかもしれない。一方、非標を銀行間市場あるいは証券取引所で取引可能な資産証券化商品に組み替えることが考えられる。資産証券化の規定整備等が必要であるが、今後、資産証券化商品は増加すると思われる。また、指導意見では、私募投資基金については別途法律で定めるとしているため、私募投資基金が使われる可能性もある。

シャドーバンキングは、潜在的なリスクが大きく、批判の対象となることが多いものの、一方で金融革新の側面を持っており、また、インフラプロジェクトの資金調達に使われてきたことも事実である。問題は、リスクとリターンがマッチしていないことや、情報開示が不十分でリスクの高い商品が不適格な個人投資家に販売されていたことである。指導意見の趣旨は、経済発展に必要な資金調達を断絶させることなく、これらの問題点を是正し資産管理業務を規範化することであろう。

執筆者情報

  • 神宮健

    神宮 健

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    金融デジタルビジネスリサーチ部

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