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TPPの発効と自由貿易体制の将来

2018/11/05

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TPPが年内に発効へ

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が12月30日に発効し、アジア太平洋地域に巨大な自由貿易圏が誕生することになった。TPPは加盟11カ国中6か国の国内での手続きが終了してから60日後に発効する規定となっている。メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダに加え、10月末にオーストラリアの国内手続きが終了したことで、年内に発効することとなった。まだ国内手続きが終了していない他の加盟国、ベトナム、マレーシア、チリ、ペルー、ブルネイは、それぞれ国内手続きが終了した60日後に加わる。

加盟11か国すべてが加わると、TPPは人口約5億人、GDPが11.38兆円と世界のGDPの約13%にあたる巨大貿易圏となる。今後は、TPPの加盟国拡大が大きな注目点となるだろう。タイは2019年のTPP参加を目指し、準備を進めている。マレーシアやベトナムも、TPP参加を検討している。英国も、欧州連合(EU)離脱の2019年3月以降、TPP参加に向けた交渉開始を検討している。TPP加盟には、既存の加盟国すべての承認が必要となる。

日本は、2019年の年初から、米国との2か国貿易交渉を始めるが、その前にTPPが発効したことは、米国に対する交渉力を多少なりとも高めることにもなろう。

地域統合の広がりとTPP

2国間FTAを中心に、TPPのような地域統合が増え始めたのは1990年初頭のことだ。WTOの統計によると、その数は1990年には100に満たなかったが、2016年には635に達したという。

2国間FTAは次第に複数国のFTAへと発展し、さらにはメガ・FTAへと発展していった。最も巨大化したFTAが、TPP協定だった。

TPP協定とは、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国及びベトナムの、当初は合計12か国で、高い水準で包括的な、またバランスの取れた協定を目指して交渉が進められてきた経済連携協定だ。

2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国によって始められたFTAがその原型だ。2010年3月から米国、豪州、ペルー、ベトナムを加えて8か国で拡大TPP交渉が開始された。さらに後に、マレーシア、カナダ、メキシコ、日本(2013年7月)が次々と参加し、2015年10月のアトランタ閣僚会合で大筋合意に至り、2016年22に加盟国によって署名された。

日本は2017年1月に国内手続の完了を寄託国であるニュージーランドに通報し、TPP協定を締結した。2017年1月の米国によるTPP離脱表明を受けて、米国以外の11か国の間で協定の早期発効を目指して協議を行い、2017年11月のダナンでの閣僚会合で11か国によるTPPについて大筋合意に至り、2018年3月にチリで署名された。

しかし規模、内容ともに地域統合の最先端とされ、地域統合で標準的なルールとなっていくことが大いに期待されていたTPPは、米国の離脱によってその重要性はかなり削がれてしまったのである。

日本にはTPP拡大を推進する役割を期待

一つ日本に期待される重要な役割は、TPPをさらに拡大させ、それを軸にして多角的自由貿易体制を再構築していくことではないか。EUに次ぐ巨大地域統合であるTPPの加盟国がさらに増加すれば、自由貿易体制を保護主義から守る防波堤ともなろう。

また、TPPの加盟国が増えるほど、そこに加盟しない国が加盟国向けに輸出をする際の競争条件が相対的に悪化することから、新規の加盟国が自然と増えていくという効果も期待できるだろう。その延長線上では、中国やEUなどとの統合を進めることも可能となるかもしれない。さらに、米国にとってもTPPに加盟しないことのデメリットが大きくなっていくことから、現状ではかなり難しい米国のTPP再加盟への道が、将来的には開けてくる可能性もある。

米国が離脱したことで、日本がTPPを主導する立場となった。トランプ政権の保護貿易主義は、世界の自由貿易体制にとって大きな脅威となっているが、むしろそれを機に、日本がTPPの拡大に向けてコーディネーターとしての力量を発揮していけば、大幅に後退してしまった戦後の多角的自由貿易体制の理念をむしろ再び取り戻すことも可能となるのではないか。少なくともそのような強い気概を持って、日本政府には今後の貿易交渉に取り組んでいって欲しいところだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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