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米テクノロジー株下落とハイ・イールド債の指標性

2018/11/22

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ハイ・イールド債は早期警戒指標でなくなったか

先月から、米国株式市場がテクノロジー株主導で調整色を強める中、株式市場の調整局面ではその先行指標、あるいは早期警戒指標とされてきた、ハイ・イールド債(ジャンク債)の指標性に注目が集まっている。ウォールストリート・ジャーナル紙の記事(注1)を参考に、足もとの状況を検討してみたい。

投機的格付けのハイ・イールド債市場は、米国株式市場の大幅調整を、数か月程度先取りした動きを示す傾向が、過去には見られた。例えば、1998年のロシア危機の際には、ハイ・イールド債のスプレッド(財務省証券との利回り格差)は、株価急落の数か月前から拡大傾向にあり、10日程前からは急拡大を示していた。2007年のサブプライム・ローン問題の際には、株価急落の50日前頃から、スプレッドは拡大傾向を鮮明にしていた。

2018年10月に、S&P500指数は7%の下落と過去7年間で最大の下落幅を記録したが、それ以前に、ハイ・イールド債のスプレッドはむしろ縮小傾向を示していた。さらに、株価が大きく下落した10月のハイ・イールド債指数(ICE BofAML’s)の価格は、2%の比較的小幅な下落にとどまった。こうした動きから、ハイ・イールド債は、もはや株式市場の先行指標としての役割を失っているのではないか、との見方も出てきている。

株式市場とハイ・イールド債市場の構造変化

ハイ・イールド債市場は、それを取り巻く環境変化によって、株式市場あるいは金融市場全体のリスクの高まりを予め知らせる、シグナリング効果を低下させている可能性が考えられる。異例の金融緩和策が作り出す低金利環境の影響から、投資家による「サーチ・フォー・イールド(利回りの追及)」が過度に進んだ結果、ハイ・イールド債市場のスプレッドが、企業の信用リスクを拡大させるような経済環境の変化を反映しなくなっている可能性があるのではないか。

また、ハイ・イールド債市場と株式市場を構成する企業分野の乖離が広がっていることが、両者の連動性を低下させている面も考えられる。近年の米国株式市場でその構成比率を急速に高めてきたのが、テクノロジー分野の企業であるのに対して、ハイ・イールド債市場で構成比率を高めてきたのは、エネルギー分野の企業である、といったミスマッチが広がっている。

S&P500指数を構成する銘柄で、アップル、アマゾン、グーグルといった巨大IT企業の株式時価総額で見た構成比率は、足もとで4分の1を超えた。10年前には、その構成比は16%程度だった。他方、ハイ・イールド債市場でのテクノロジー企業の構成比率は、6%程度に過ぎない。ハイ・イールド債市場を構成する最大の分野は、エネルギー関連だ。10年前にはエネルギー分野は4番目の規模であったが、いわゆるシェール革命以降、エネルギー関連企業は、ハイ・イールド債の発行を通じた資金調達を急増させたのである。

このような、米国株式市場とハイ・イールド債市場の双方の構造変化を踏まえると、ハイ・イールド債市場にかつてほど、株式市場の先行指標としての役割を求めるのは難しいのかもしれない。

株価の大幅下落、あるいは金融危機などの前兆を探るのであれば、投資適格ゾーンも含めた社債市場全体に目を配っていく必要があるだろう。特に注目しておきたいのが、投資適格最下位のBBB格の社債市場の動向だ(本コラム「ハイ・イールド債よりもBBB格債に注目」(2018年10月1日)参照)。

(注1)"Junk Bonds Hold Steady as Volatility Returns", Wall Street Journal, November 16, 2018

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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