中国の奇跡の経済発展の原動力は何だったのか
中国は政治体制を堅持
中国の改革開放40周年を記念する式典が、12月18日北京の人民大会堂で開かれた。習近平国家主席は、「先進国が数百年かけた工業化を数十年で成し遂げた。不可能を可能にした」、「人民の勤勉さや勇気が創造した奇跡」と、中国経済発展の成果を大いに誇った。
また、式典には、改革開放に貢献したとしてネット通販大手アリババ集団の馬雲(マーユン、ジャック・マー)会長が呼ばれ、またパナソニック創業者の松下幸之助氏や大平正芳元首相らも表彰された。
習国家主席のスピーチでは、大きな懸案となっている米国との貿易協議について、直接的な言及はなかった。しかし、現在の一党独裁、政府の強い影響力の下での経済成長路線には変化がない、ということを示唆する発言を多くしている。これは、先端産業の育成などに中国政府が強く関与する枠組みを修正することを求めるトランプ政権に対して、そうした要求を撥ねつけたことを意味するだろう。この点から、2019年3月までの交渉期限の間に、米国と中国が貿易協定で合意できる見通しはより厳しくなったと言える。
習国家主席は、「改革すべき、あるいは改革できるものはしっかり改革するが、改革すべきでない、あるいは改革できないものは断固として改革しない」とも述べた。この「改革しない」ものは、共産党の政治支配と習近平国家主席自身の地位と役割なのだろう。
経済発展の鍵は市場化か政府関与か
習国家主席は、「我々は、国家経済(国有企業)のさらなる発展を進める」とし、経済の自由化を進める一方、国有企業の役割については維持する発言もしている。
習国家主席は、経済に対する政府の強い関与こそが、中国の奇跡的な経済成長を実現した、また更なる経済発展のためには、現在の政治体制を維持することが重要だ、と考えているのだろう。しかし、これについては、中国国内の経済学者の間でも意見が分かれている。中国の奇跡の成長は、政府の支配のよるものか、それとも市場化の恩恵によるところが大きいのか、という点だ。
後者の見方に立てば、習国家主席のもと政治改革が進められない一方、市場化が遅れることになれば、中国経済の発展に今後は歯止めがかかっていくことになる。北京大学の張維迎教授(経済学)は、「過去40年間の中国の高度成長は、いわゆる中国モデルより、むしろ市場経済への移行、起業家精神、西側からの技術的学習によってもたらされたものだ」、「中国モデルを強調することは、国有企業の強化、政府の権限拡大、産業政策への依存へとつながり、改革プロセスを逆転させる。経済はいずれ停滞に陥るだろう」と、今年10月に述べている(2018年12月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)。
中国の経済発展のメカニズムを正確に知ることは、他の新興国の経済政策にも大きな影響を与えることになるだろう。多くの国が、そのメカニズム、秘密を知りたがっている。他方、政治体制堅持ありきの結論から、十分な検証なしに、現状維持の姿勢を中国政府が続けた場合には、一部の経済学者が指摘するように、経済成長は先行き大きな壁にぶち当たる可能性もあるだろう。
米国との間での貿易戦争、IT企業を巡る争いが激化するなか、中国経済は分岐点に差し掛かっている。経済成長を続けるためには、過去の冷静な検証が必要な時期だ。
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