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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

ECBのドラギ総裁の記者会見-Goodbye Mr. Praet

2019/04/11

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はじめに

今回(4月)の政策理事会は、予想通りに金融政策の現状維持を決定した。また、ドラギ総裁が記者会見で説明したように、今回の会合は具体的な対応を決めるより、今後の対応方針を確認することに主眼があったようだ。それでも、記者からの質問は先行きに対して慎重なトーンが目立ったほか、注目を集めつつあるマイナス金利の副作用対策に関する議論が多かった。

景気と物価の評価

意外なことに、今回(4月)の記者会見では、景気や物価の見通し自体に関する質問は比較的少なかった。理由は判然としないが、先般公表されたAccount(議事要旨)によって、前回(3月)の政策理事会の時点で慎重な意見が台頭していたことが確認できていることや、昨晩公表されたIMFのWEOによって一通り議論が整理されたことなどによるのかもしれない。

その上で、景気に関して新味があった質問は、トランプ大統領による対EU関税の導入を巡る質問である。筆者は、ドラギ総裁が政治的な動きにはコメントしないとして、回答を避けるのかと思ったが、ドラギ総裁は、この種の脅威がユーロ圏でのセンチメント低下の主たる原因であり、経済活動に影響を与えるとして、敢えて苦言を呈した。

物価に関しては、ドラギ総裁が冒頭説明で実際の物価は目標の上下双方に乖離しうると説明し、オーバーシュートの可能性を示唆したことに対して、ECBによるインフレ目標の特徴(2%の下方で近い水準を目指す)との関係を問う質問がみられた。これに対しドラギ総裁は、上下対称の目標運営に言及したのは今回が初めてではないとして、方針変更との見方は否定した。

別な記者は物価連動債のブレーク・イーブン・レートに織り込まれたインフレ期待を取り上げ、低下を続けている点の評価を質した。これに対してドラギ総裁は、執行部の分析によればインフレ期待そのものよりもリスクプレミアムの低下に伴う面が大きいとみられるとして、例えば2016年とは状況が異なるとの理解を示した。

もっともドラギ総裁も、だから安心してよいという訳でもなく、インフレの減速に対してECBには有効な対策が無いとか、ECBは低インフレを許容するといった思惑が市場に生じていることが背景である可能性もあるとした上で、市場のそうした見方は正しくないとのメッセージを強調した。

金融緩和と金融仲介

質問数から見て、今回(4月)の記者会見の焦点がこの点にあったことは明らかであった。

このうち、前回(3月)の政策理事会で9月からの実施を決定したTLTROIIIについては、期間(2年)や適用金利(MRO連動)などの大枠が固まっているものの、一番重要な銀行貸出の促進に対するインセンティブの内容が決まっていない。

この点に関してドラギ総裁は、冒頭説明で、今回(4月)の政策理事会では具体的な議論は行っておらず、今後の会合において、銀行与信を通じた金融仲介の状況と景気見通しの双方をしっかり確認した上で行うとの説明を行った。これは質問に対して先手を打つ趣旨だったのかもしれないが、会見では多くの記者が再びこの点を取り上げた。

これに対しドラギ総裁は上記の線での説明を繰り返した一方で、次回(6月)には、執行部による景気見通しの改訂を含めて、経済や物価を展望する上での材料が揃うともコメントし、次回(6月)会合で細部を決定するとの見通しを示唆した。TLTROIIIの開始が9月に迫る中で、銀行の準備を考えると次回(6月)がポイントになることは容易に推測できるが、新たな情報ではあった。

さらに多くの質問が提示されたのは、マイナス金利に伴う副作用の軽減策であった。実際、今回(4月)の政策理事会の声明文では、「マイナス金利政策の経済活動に対する望ましい効果を維持するため、銀行による金融仲介に対する副作用が存在するのであれば、その除去が必要かどうか検討する」との表現が加えられた訳である。

ドラギ総裁は、こうした表現が3/27日の講演と実質的に同じであるとの理解を強調したほか、今回(4月)の政策理事会では、マイナス金利に関する階層構造も含め、具体策に関する議論は行わなかったと説明した。そして、TLTROIIIと同じように、銀行与信を通じた金融仲介の状況と景気見通しの双方を確認した上で、それを踏まえて具体策を議論する方針を示唆し、こうした方針は政策理事会で支持を得ていると述べた。

また、ドイツの銀行協会がマイナス金利の負担によって同国の銀行が競争上不利になっているとの批判を示したことに関しても、 ドラギ総裁は、影響は個々の銀行のビジネスモデルによって異なり、ドイツの銀行全体でも日本ほど厳しい状態になく、マイナス金利政策が行われていない英国よりも状況は良いと反論した。

その上でドラギ総裁は、欧州の銀行の低収益の主因は過当競争(over-crowding)にあるとの理解を強調し、従業員数や店舗数、経費などの面で効率化の余地は大きく、生き残りにはデジタル化を進める能力を具備することが重要との見方を主張した。

こうした考えはECBがかねて主張してきた内容に近く、その意味で違和感は無いが、上記の講演からの流れに照らすと整合的でない。もしかすると、市場で指摘されるように、ドラギ総裁の前傾姿勢に政策理事会がブレーキをかけたことによるのかもしれない。

副作用問題への対応で難しいのは、日銀に関する議論で確認されたように、金融緩和の後退と誤解されやすいことである。ECBも「正常化」を進める中で自然にマイナス金利政策を解除できればよかったが、前回(3月)の政策理事会以降、そうしたシナリオには不透明性が高まっている。実際、今回(4月)の記者会見でも、追加緩和の場合に株式の買入れはありうるかという、まるで時間が逆戻りしたような質問も示された。

ドラギ総裁は、今回(4月)の記者会見の最後に敢えて発言を求め、来月で任期が満了するプラート理事にとって、今回(4月)の政策理事会が最後となることを説明して謝意を表明した。しかし、他ならぬドラギ総裁の任期も本年10月で満了であり、その下での政策理事会も最早残り少なくなった。ECBは組織としてはあくまで連続的な視点で政策を運営するとしても、ドラギ総裁が最後に何を残そうとするかも当面の興味深いテーマである。

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