フリーワード検索


タグ検索

注目キーワード
業種
目的・課題
専門家
国・地域

NRI トップ コラム コラム一覧 ECBのドラギ総裁の記者会見-Policy package

コラム 井上哲也のReview on Central Banking

ECBのドラギ総裁の記者会見-Policy package

2019/09/13

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

ECBは今回(9月)の政策理事会で多様な手段による金融緩和の強化を決定した。政策理事会メンバーに意見の相違が窺われたことを考えると、合意の成立には意外感もあるが、ECBが景気と物価の先行きに対して警戒感を強めている証左とも言える。

景気と物価の見通し

まずは景気と物価の見通しを確認しておきたい。

ドラギ総裁は、冒頭説明で、ユーロ圏の景気減速が一段と明確になり、リスクは下方に傾いたままである点を強調したほか、質疑応答では、ユーロ圏全体が景気後退に陥るリスクはなお小さいが、その可能性は上昇したとの認識を示した。

実際、執行部による2019~21年の実質GDP成長率見通しも、+1.1%→+1.2%→+1.4%と、前回(6月)に比べて2019年と20年が0.1%ppおよび0.2pp下方修正され、潜在成長率を下回る状況が当面続くとの見方を示唆している。

物価に関してもドラギ総裁は、冒頭説明で、低成長に加えて原油価格の低迷がインフレ圧力を低下させる一方、賃金上昇から物価への波及にはなお時間を要するとの見方を確認した。

執行部による2019~21年のHICPインフレ率見通しも全期間にわたって下方修正され、+1.2%→+1.0%→+1.5%となった。前回(6月)に比べると、2019年から順に各々0.1%pp、0.4pp、0.1ppとやや大きめの修正となり、2021年も目標達成が困難となった。

政策決定

今回の政策決定は、ドラギ総裁が質疑応答で説明したように、いくつかのグループに整理できる。

第一に、預金ファシリティの適用金利を10bp引き下げて-0.5%とした(MROと貸出ファシリティの適用金利は据え置き)。また、こうした低金利を、物価見通しの時間的視野の中でインフレ率が目標に収斂することが予想され、しかも基調的なインフレ動向を反映したものとなるまで維持するとした。

これらのうちでフォワードガイダンスは、従来のカレンダーベースの要素が除かれただけでなく、ドラギ総裁が質疑応答で説明したように、一時的な理由によるインフレ目標の達成では金融緩和を解除しないことを明示した点で、強化されている。

なお、インフレ目標は「2%に十分近く、しかし2%未満」というECB固有の内容が維持された一方、前回(7月)の政策理事会と同様に、インフレ目標に対する政策運営は上下対称であることが声明文の中で強調されている。

第二に、本年11月から毎月200億ユーロのペースで資産買入れを再開し、政策金利の緩和効果を強化するのに必要な期間にわたって、しかも利上げを開始する直前まで継続するとした。この買入れペースはネットであり、保有債券の償還に伴う再投資は従来どおり継続する。

資産買入れの内容について、ドラギ総裁は国債と社債を主体とすると説明した一方、本稿の執筆時点(日本時間午前零時)では、カバードボンド等の買入れにも預金ファシリティの適用金利による利回りの下限を撤廃するという内容以外は公表されていない。

一方ドラギ総裁は、資産買入れにも継続期間のコミットメントを加えたことが、フォワードガイダンスの強化とともに補完的な効果を発揮し、イールドカーブの全域に下方圧力をもたらすとした。

第三に、当座預金に二層構造を導入し、一定の範囲(後述)までマイナス金利でなくゼロ金利を適用することとした。また、10月から実行されるTLTRO IIIは、銀行に対する資金供給金利を10bp引下げ、原則はMROの金利(0%)、取引先への貸出増加に伴う最優遇の場合は預金ファシリティの金利(-0.5%)と変更した。

このうち、当座預金の階層化については、個々の金融機関にとって所要準備の6倍までゼロ金利を適用されること(つまりSNBの枠組みと近い)や、この倍率は適宜見直しを行うことが別途の公表文で示されている。

ドラギ総裁は、金融政策に重要なのは波及メカニズムの確保であり、これらの措置も銀行貸出を通じた政策効果の円滑な波及の確保が狙いであることを質疑応答の中で再三強調するとともに、銀行の低収益という問題にはマクロ・プルーデンスのような別途の政策で対応すべきとの考えを確認した。

政策決定を巡る議論

質疑応答で数多くの記者が示した質問は、政策理事会のコンセンサスによる決定であったかどうかであり、特に資産買入れに対する反論の有無を質す向きが目立った。

これに対しドラギ総裁は、景気や物価の状況を踏まえて金融緩和を強化する方向性にはコンセンサスがあった一方、もう少し状況を見極めるべきとの見方もあったことを認めた。その上で、今回の政策決定に踏み切る上では、インフレ期待の低下リスクを放置すべきでないとの判断があったと説明した。また、政策手段の中では資産買入れについての反論が相対的に多かったものの、明確な多数の支持を得たと説明した。

資産買入れに関しては、Open-endの枠組みにしたことと国債の買入れ余地が少ないことの整合性をどう理解すべきかといった点や、打開策として、債務者あたりの保有上限の見直しや新たな資産の買入れを検討したかどうかを問う質問も数多く提示された。

これに対しドラギ総裁は、現在の枠組みでも資産の買入れ余地は十分あるとの理解を示したほか、他の資産の買入れを含む枠組みの見直しは議論していないと説明した。加えて、記者からは、長短金利を長期に亘って低位に維持することを中心に、金融緩和の副作用に対する懸念も示されたが、ドラギ総裁は少なくとも現時点では政策効果の方が大きいとの主張を繰り返した。

このほか、記者はインフレ目標自体の見直しの可能性も質したが、 ドラギ総裁は、目標を下げればインフレ期待の低下につながり、目標を上げれば信認を損なう意味で、どちらも難しいとの理解を示した。

なお、質疑応答の中でドラギ総裁が最も力説したのは、域内国が財政政策を柔軟に発動すべき点であり、金融危機後の景気回復の殆どは金融政策が支えたとか、柔軟な財政運営があれば、今回のような広範な金融緩和は必要なかったといった感情的な発言が聞かれたことも印象的であった。

執筆者情報

井上 哲也

金融ITイノベーション研究部

主席研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ