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FRBのパウエル議長の記者会見-Well positioned

2019/10/31

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はじめに

今回のFOMCは予想通りに25bpの利下げを決定した。パウエル議長は、海外要因を中心に先行きの不透明性が幾分低下したとの見方を示すとともに、米国経済が見通しに沿って推移する下では現状の政策が適切との判断を示し、利下げの動きを一旦止める方針を示唆した。

景気と物価の判断

今回(10月)の声明文のうち景気や物価に関する記述は、設備投資と輸出が「弱まった(have weakened)」から「引続き弱い(remain weak)」に変わった以外は、前回(9月)と同じである。

実際、パウエル議長は質疑応答で、良好な雇用や所得、センチメントに支えられて家計支出は堅調さを維持する一方、海外経済の減速や貿易摩擦などによる慎重なマインドのため、輸出と製造業の生産、設備投資の面で企業活動は抑制的と見方を確認した。

物価に関しても、一時的な要因を除くとインフレの基調には変化がないとの理解を示すとともに、インフレ期待は引続き抑制的である状況で不変との見方を確認した。

一方でパウエル議長は、先行きのリスクにが足許で幾分改善したとの見方を示し、貿易摩擦に関して米中間の交渉に前向きな動きがみられる点や、Brexitに関してno-dealのリスクが低下した点を指摘した。もっとも質疑応答では、これらにも不透明性が残ることも指摘し、貿易摩擦に良好な展開があっても実体経済に恩恵が及ぶには一定の時間を要するとの見方を示した。

政策判断

パウエル議長は冒頭説明で、3回の利下げが景気拡大の維持に効果を発揮しており、時間的ラグを考えるとそうした効果は今後も継続すると主張した。また、質疑応答では、政策金利が中立水準を若干下回る水準に維持されているとし、企業活動への効果は抑制されているが、消費や住宅建設を中心に下支えの効果がみられると指摘した。

その上でパウエル議長は、今後の米国経済が緩やかな景気の拡大と目標近傍でのインフレ率という見通しに沿って推移する下では、現在の政策金利が適切との判断を示し、利下げは一旦は停止する方針を示唆した。実際、今回(10月)の声明文でも「今後の政策金利を設定する上では」という利下げの継続を示唆する箇所が削除されている。

こうした方針変更に関しては、折角の雇用拡大を維持するために利下げを継続してはどうかといった指摘を除くと、記者会見でも目立った批判は示されなかった。むしろ、記者の質問は、①どのような状況が生ずれば再び政策変更に踏み切るのか、②それは利上げと利下げのどちらになるのか、といった点に集中した。

これらの点に関して、パウエル議長は冒頭説明の中で、経済見通しを顕著に変更する事態になれば、それに沿って政策を変更するとの原則を示した上で、質疑応答ではインフレが加速する可能性は低いとの判断を示すことで、利上げによって政策変更を再開する蓋然性は低いとの見方を示唆した。

また、貿易摩擦の状況が好転した場合の利上げの可能性を問う質問に対しても、パウエル議長は貿易摩擦の影響は重要であるがリスク要因の一つに過ぎない点を指摘し、海外経済の減速に伴う影響やインフレ率の動向などを総合的に考慮した上で政策変更を判断する姿勢を強調した。

なお、一部の記者が貿易摩擦の影響を中心に景気動向が地域によって異なる点を指摘したのに対し、パウエル議長もそうした問題を認めつつも、金融政策によって直接に対応することは難しい点を確認し、景気拡大の恩恵を拡大するのは議会の責務であると説明した。

逆に、緩和的な金融環境が維持されることに伴う金融システム面の副作用に関する質問も一部の記者から示されたが、パウエル議長は、企業負債の水準や一部の資産価格に注意すべきとしつつも、大きな不均衡は見られないとの判断を維持した。

パウエル議長によるこれらのコメントは、総じて見れば、利下げの一旦停止の後に起こりうる政策変更は利下げの再開であるとの印象を与えるものであった。

より長期的な観点からは、日本の記者が、米国経済が低成長と低インフレ率によって「日本化(Japanization)」するリスクを質したのに対し、パウエル議長は日本にみならず欧州の状況を注視しており、低インフレは世界的な現象であるとの理解を示した。また、米国はインフレ率とインフレ期待が安定するなど状況は異なるとする一方、インフレ期待が一旦低下すると困難な事態に陥ると指摘し、インフレ期待のアンカーの重要性を確認した。

また、別な記者からは、インフレ期待のアンカーに向けて、金融政策の中期的見直しの中でどのような対応が取られるかとの質問も提示されたが、パウエル議長は、この点がインフレ目標の対称性との関連で議論されている点を認めつつ、結論を語るのは時期尚早として、来年前半まで検討を続けることを示唆した。

短期金利の高騰

9月下旬から短期金利に上昇圧力がみられる点に関して、パウエル議長は冒頭説明の中で、レポオペとTBの買入れを通じて対応している点を確認するとともに、これらは金融政策の目的で長期債の買入れを行う量的緩和とは異なる点を強調した。

質疑応答では金利上昇の背景に関する質問が示されたのに対し、パウエル議長は短期金融市場のプレーヤーが各々適切と考える水準以上の超過準備を抱えているにも関わらず、運用に回らないことは予想外であった点を認めた。ただし、その背景については多様な要因を注意深くレビューしていると指摘するに止めた。

対応策については、まずは超過準備を(金利上昇が顕在化する直前の9月上旬の水準である)1.4兆ドル強に維持することが重要として、レポオペは少なくとも来年の1月まで、TB買入れは来年の第2四半期まで継続する考えを示した。

一方、流動性比率規制や自己資本比率規制の見直しの可能性を問う質問に関しては、直接的な回答を避けた一方、レポ市場における日中流動性の円滑な供給といった技術的な対応について検討の余地がある点を示唆した。これに対し、この問題がFRBのバランスシートの均衡規模に及ぼす意味合いについては、パウエル議長は回答を避けた。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融ITイノベーション研究部

    主席研究員

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