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10月FOMCのMinutes-Potential policy tools

2019/11/25

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はじめに

25bpの利下げを決定した10月のFOMCでは、米国経済が緩やかな景気拡大という見通しに沿って進めば、政策金利を当面は現状維持とすることが適当とのコンセンサスが形成された。一方、金融政策全般の見直しに関しては、将来の政策手段について興味深い議論が展開された。

経済の見通し

FOMCメンバーは、前回(9月)時点での経済見通しを概ね維持すべきとの判断を示した。

つまり、貿易摩擦やBrexitを巡る不透明性は若干低下したが、海外経済の減速リスクには警戒感を維持した。この間、国内経済に関しては、家計を巡る環境が金利低下によってさらに好転したとの判断を示す一方、設備投資は外需の影響だけでなく、原油価格の低迷などによっても下押しされているとの見方を示した。

物価に関しては、2%目標に向かう動きを支持したほか、一時的な下押し要因の減衰を確認した一方で、家計のインフレ期待に低下の兆しがみられる点や、上記のような海外要因による景気の下押しによる影響が下方リスクとして指摘された。

なお、10月会合では定例(4半期毎)の金融リスク点検も行われたが、FOMCメンバーは、金融システム全体のリスクは抑制されているとしつつも、企業債務の大きさや信用格付の低下、銀行の資本バッファーの低下(社外流出による)、一部の資産価格の過剰評価などのリスク要因を指摘した。

政策判断

10月FOMCで25bpの利下げを支持したメンバーは、海外経済の減速リスクが高い下で、保険的な対応が必要との判断に合意した。加えて、ELBまで一定の距離がある下での利下げは、ELBに直面するリスクをむしろ低下させるとの主張もみられた。

これに対し、利下げを支持したメンバーのうち2名(a couple of)は微妙な判断としたほか、数名(several)のメンバーは、景気や物価の見通しが良好であり、それらのリスクも若干低下しただけに、これまでの利下げ効果を見守るべきとも指摘した。

その上で今後に関しては、ほとんど(most)のメンバーが政策金利は適切な水準になったとの見方に合意し、今後の経済指標が見通しの顕著な変更を必要とするものでない限りは、現状維持が適切との判断を示した。また、この点を示すために、声明文から「act as appropriate」の表現を削除することに合意した。

将来の政策手段

かねて進められている金融政策の枠組み見直しのうち、10月会合では政策手段に関する議論が行われた。すなわち、執行部がフォワードガイダンス(FG)、マイナス金利(NIRP)と資産買入れ(AP)について分析を示し、FOMCメンバーが討議した。

まずFGは、執行部が「qualitative」(抽象的条件)、「date-based」(期間に関する条件)、「outcome-based」(経済に関する条件)の3パターンを示したのに対し、FOMCメンバーは総じて効果に肯定的であった一方、FOMCが悲観的シナリオを想定している印象を与えるリスクを指摘した。また、「outcome-based」については、経済主体に前倒しの行動を促す点や説明責任の点で望ましいとの指摘がなされた一方、内容や条件を適切に説明することの難しさを指摘する向きも見られた。

一方、NIRPについては、執行部は海外での一定の効果を認めつつ、副作用の存在や金融システムの違いなどを指摘し、否定的な見方を示唆した。FOMCメンバーも、全員(all)が魅力的な手段ではないとの見方に合意し、金融機関や企業・家計の行動への影響に不透明性が高い、金融市場の機能低下を深刻化させる、米国と海外の金融市場や金融システムの違いは大きいといった点を理由として挙げた。

さらに、APに関しては、執行部は過去のケースでも政策効果が大きく、懸念された副作用も限定的だったほか、diminishing returnとの指摘もさほど当たらないとして、肯定的な評価を与えた。 FOMCメンバーも、総じてこうした評価に合意した一方、推計結果のばらつきに留意が示されたほか、既に低金利の状態から開始した場合の政策効果に関する執行部の懸念には合意も示された。

また、APを経済条件に紐付ける方法は説明が容易である一方、資産規模の必要以上の拡大を招く可能性があるとの指摘や、クレジット市場への介入は市場機能の低下を深刻化するといった指摘も併せてなされた。

APに関しては金利目標の設定も議論され、数名(a few)のメンバーは、実体経済への効果が大きい点や、市場に信頼されれば買入れ額を抑制しうる点をメリットとして挙げた。

もっとも、多く(many)のメンバーは、短期の中立金利も不透明な中で長期の目標を適切に設定するのは困難、多額の買入れや満期構成の大きな変動を招きうる、国債管理政策との関係に誤解を生む、といった懸念を挙げて、否定的な見方を示唆した。ただし、大多数(majority)のメンバーは、FGとAPの組み合わせによって短期ゾーンの金利を調整する可能性は支持した。

これらを踏まえてFOMCメンバーは、ELBの近傍では通常の利下げには限界があるが、FGとAPは有効であり、具体的な発動の仕方は経済状況によって異なるほか、事前に丁寧な説明を行うことが重要との考えを示した。また、全体の結果は2020年前半に決定するが、年初の中長期の運営方針の改訂に成果を反映させる可能性も示唆した。

レポ金利上昇への対応

FOMCは、10月4日にもこのための電話会議を開催し、その結果が11日に当面の対応方針として公表された。今回の議事要旨には両会合での議論が記載されている。

紙幅の関係で今後の方針に関する議論だけみると、執行部は①中規模のオペを頻繁に実施、②standing facilityを導入の2案を提示し、①はstigmaは少ないが、量的効果やample reserve schemeとの整合性に難があり、②はそうした問題を抑制できるが、条件次第でstigmaまたはmoral hazardのリスクがあるとした。 FOMCメンバーの多くは、現schemeでは②は不要のはずとしつつも、補完的措置としては有効であり、銀行が保有する債券の有効活用に繋がるとした。また、上記の問題を抑制すべく条件、取引相手、担保等を検討すべきとして、導入の方向性を支持した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融ITイノベーション研究部

    主席研究員

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