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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

合意なし離脱回避の道を探る英国とEU

2019/01/09

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離脱合意案承認の目途はたたず

英国の欧州連合(EU)からの離脱条件を定めた、離脱合意案の承認を巡る英議会の採決が、1月15日に行われる予定だ。この合意案は当初、昨年12月中に採決される予定だったが、与党内の強硬離脱派や閣外協力する北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)などの反対が強く、採決に掛ければ大差で否決されることが明らかな情勢であったため、延期されていた。

仮に合意案が英下院で承認されれば、欧州議会での可決を経て3月29日に、EUからの円満離脱が実現する。また、激変緩和措置として、2020年末までの移行期間が設けられている。その間は、英国はEU加盟国とほぼ同じ地位を保ちつつ、環太平洋連携協定(TPP)加盟など、独自の貿易交渉を始めることも可能となる。

しかし、現時点でも合意案が議会で否決される可能性が高い状況には全く変わりはないことから、与党の一部では、採決の再延期を主張する声もある。しかし、メイ首相は、合意案の英議会での採決を「必ずやる」と明言している。また、否決された場合には「英国は未踏の領域に入る」と強く警告している。未踏の領域とは、英国の経済や国民生活に混乱を及ぼす「合意なき離脱(ハード・ブレグジット)」のことだ。

退路を断ったかのようなメイ首相の発言には、合意案の修正をEU側に促す意図もあるのだろう。「合意なし離脱」となり、英国の経済や国民生活に甚大な被害が生じれば、その影響はEUにも飛び火することは避けられない。こうしたEU側の懸念に付け込んで、EU側からの譲歩を引き出す戦略なのだろう。

合意案について、英国議会内で特に反対意見が強いのが、英領北アイルランドを巡る「バックストップ(安全策)」と呼ばれる条項についてだ。離脱後、北アイルランドと地続きのEU加盟国アイルランドとの国境に税関を置かずに関税を徴収する方策を見いだすまでは、英国全体がEU関税同盟にとどまる余地を残したものだ。反対派は、この条項の下では、EU離脱で英国側が目指す主権の回復ができなくなる、ということを問題視している。

メイ首相も、反対派が受け入れられるように、この条項を見直すようEU側に働きかけているが、EU側は合意案の修正には一切応じない、という姿勢を崩していない。

離脱日の延期も議論

EU側は合意案の修正には応じない一方、「合意なし離脱」となることを避けるために、離脱手続きを定めるリスボン条約50条の適用を延長することを検討しているとみられる。昨年11月末に英タイムズ紙は、EU側が離脱日を約3か月延期する案を準備している、と報じた。さらに年明け後にも、英紙テレグラフが、英政府とEU当局者は、リスボン条約50条の適用延長を検討していると改めて報じた。メイ首相は、英国としては離脱日の延期を検討していないとしており、主にEU側で議論が進められている可能性が考えられる。

仮にこの延長が実現すれば、合意案が英議会で可決されないまま、離脱日の3月29日を迎えても、英国はEU関税同盟にとどまり続け、大きな混乱は生じない。いわば、時間稼ぎが可能となる。他方、リスボン条約50条の適用延長が実現されれば、英国が2度目の国民投票を実施することも可能となる。

英議会での合意案が否決された後に、EU離脱の是非を問う国民投票を、再度実施することも考えられる。調査会社ユーガブが昨年11月に発表した世論調査によれば、離脱合意案に反対との回答は全体の42%、賛成は19%、分からないとの回答は39%だった。再度国民投票が実施されれば、EU残留が過半数となる可能性もあるだろう。ただし問題は、国民投票を実施するには4か月以上かかるとされていることであり、その場合、来年3月29日の離脱日に間に合わせるのはかなり難しくなる。

離脱日を延期するには、EUの全会一致での承認が必要となり、ハードルは相応に高い。しかし、「合意なし離脱」は回避したいという思いはEU側も強く持っているとみられ、最終的にはこうした方向でEU側が一定の譲歩をする可能性は残されているだろう。

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