米大統領選挙でのフェイクニュース拡散を検証
民主主義の根幹を揺るがすフェイクニュース
SNSが世論を誘導、操作する政治的な手段として利用されていることが近年明らかとなり、大きな問題へと発展している。ネットの個人サイトやSNSを通じてフェイクニュースが意図的に拡散され、それが選挙結果に影響を与える事例が、2016年の米国大統領選挙で多く見られた。有権者の見解、意思が容易に操作されてしまうのであれば、選挙制度に基づく民主主義の根幹が揺らいでしまう由々しき事態だ。
英国の選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカ社(CA)による米フェイスブック(FB)の個人情報流用が、こうした問題が特に注目されるきかっけとなった。
英ケンブリッジ大学のアレクサンドル・コーガン教授は、フェイスブックで利用できる性格診断アプリを開発した。当時のフェイスブックの連携アプリは、本人の情報だけでなく、友人の情報まで簡単に取得することができた。ケンブリッジ・アナリティカ社は、学術目的として最大8,700万人分の個人データ(友人の情報を含む)をフェイスブックから入手した。その後、2016年11月の米大統領選挙では、同社はトランプ陣営に雇われ、このアプリから得た個人の特性に関する情報とフェイスブックから得られた個人情報を組み合わせて、有権者それぞれの嗜好や政治的方向性を把握したうえで、トランプ候補に有利な情報、対立候補のクリントン氏にとっては不利な情報、いわゆるフェイクニュースを流したのである。これは、トランプ候補の勝利に寄与したと言われている。
高齢者がフェイクニュースを拡散
このケンブリッジ・アナリティカ事件を検証するため、米国のプリンストン大学とニューヨーク大学の研究チームは、2016年の米大統領選中にフェイスブックのユーザーだった約3,000人を対象にした調査結果をこのほどまとめた。対象者のうち49%が、プロフィールデータを研究に用いるとの研究チームの要請に応じたという。その調査結果が、2019年1月9日に、米科学誌サイエンス・アドバンシズに掲載された(注1)。
フェイスブックでは、ニュースサイト上で記事の「シェア」ボタンを押すと、フェイスブックの友人に記事を読ませることができる、という機能がある。この機能を通じて、2016年の米大統領選では、ネット上で多くのフェイクニュースが拡散されたと考えられている。そこで、研究チームはこのシェア行動を調べたのである。
研究チームは、米ネットメディア「バズフィード」がまとめたフェイクニュースサイト一覧などを参照して、研究対象となったユーザーたちがフェイスブック上でシェアしたリンクと、フェイクニュースのシェアサイトとして知られる複数のウェブサイトとを照合した。その結果、こうしたフェイクニュースサイトのリンクを一つでもシェアしたユーザーは、全体の8.5%程度だったという。これは、多くの人が考えているよりもやや小さめの数字であるかもしれない。
他方で、意外な調査結果となったのは、65歳以上のユーザーは支持政党に関わらず、最も多くのフェイクニュースサイトの記事をシェアしていたということだ。65歳以上の平均シェア件数は、0.75本だった。この数は、18~29歳の7倍、45~65歳の2倍以上に及ぶ。
同論文は、米国の60代以上の高年齢層について、オンライン上のニュースの信頼性を判断するデジタルメディアのリテラシーのレベルが十分でない可能性があると指摘している。さらに、加齢によって記憶力の低下が影響している可能性も示唆している。
また、今回の調査では、民主党支持者よりも共和党支持者が、イデオロギー的にはリベラル派よりも保守派のほうが、より多くフェイクニュースをシェアしていたことが明らかにされた。これは、2016年の米大統領選中に最も多く生み出されたフェイクニュースが、トランプに有利となるものだったことに起因している可能性があると言えそうだ。
ところで、トランプ氏は2016年の選挙でフェイクニュースが果たした役割を軽く扱い続けている。自身の勝利に助けがあったことを認めたくないことが背景にあるのだろうが、民主主義の根幹を揺るがしかねないこうした問題について、再発防止に向けて実効性のある措置を取ることが政権には強く求められるだろう。
(注1) "Less than you think: Prevalence and predictors of fake news dissemination on Facebook", SCIENCE ADVANCES, Andrew Guess, Jonathan Nagler, Joshua Tucker, January 9, 2019.
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