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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

「忘れられる権利」を巡るグーグルの闘い

2019/01/18

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「忘れられる権利」のEU域外適用問題が決着に近づく

欧州連合(EU)の最高裁判所にあたる欧州司法裁判所の法務官は2019年1月10日、米グーグルなどの検索エンジンに対して、EUの「忘れられる権利(right to be forgotten)」をEU域外で適用するよう強制することはできない、との見解を示した。

法務官はこの判断について、「EUが仮にEU域外でアクセスされるウェブサイトからすべてのコンテンツの削除をグーグルなどに命じれば、他国、他地域は独自の法規によって、EU域内での情報のアクセスを阻止する事態を招きかねず、これは、欧州および世界各地で表現の自由を最低レベルにおとしめる現実的なリスクや、独裁体制による情報管理のリスクを高める懸念がある」、と説明している。また、「プライバシーの権利と正当な公共の利益のバランスをとる必要がある」という見解も示した。

この判断は法的拘束力のない意見書で示されたものであるが、欧州司法裁判所の正式な判断は、この法務官の見解に従う場合が多い。最終判断は、向こう数か月のうちに示される見通しだ。同様の判断が欧州司法裁判所によっても示されれば、グーグルにとって大きな勝利となり、EU域外でのEUの忘れられる権利の適用を巡る3年にもわたる法廷での論争は、決着を見ることになる。

2000年代以降、欧州を中心として、「自分の情報を消去するよう、企業などに求めることができる」という新たな権利、つまり忘れられる権利が、個人情報保護のひとつとして議論されるようになった。EUで忘れられる権利が確立されていくきっかけとなったのは、2014年5月に、スペインの男性が自分の過去の情報に関する検索結果を削除するようグーグルに求めた裁判で、スペインの裁判所の要請に応じた欧州司法裁判所が、その判決で初めてこの権利を認めたことだ(注1)。裁判所は、EU居住者は、自宅住所など自身の個人情報を含むリンクを削除するよう検索エンジンに要求することができる、との判断を示した。

GDPRで明文化された忘れられる権利

この判決を受けてグーグルは、直後に、EU加盟国のユーザーがEU域内で「忘れられる権利」を行使している人物について検索する際には、全世界の同社の検索サイトから当該人物のリンクを削除する作業を始めた。例えば、あるドイツ人に関するリンクを削除する要求が本人からなされ、グーグルがそれに同意している場合、その人物について検索しようとするユーザーがEU域内にいるのであれば、世界中のグーグルサイトからリンクが削除された。

EUが2018年5月に施行した一般データ保護規則(GDPR)では、一般消費者が企業に対して自分の個人情報を削除するよう求める忘れられる権利が、第17条で明文化された。GDPRでは、個人は企業に対して、自身の個人情報を遅滞なく削除することを要求でき、またその要求が拒否された場合は、その理由を知る権利があると規定されている。

ただし、表現及び情報の自由の権利の行使に必要な場合、EU法もしくは加盟国の国内法によって取扱いが要求されている法的義務を遵守するのに必要な場合、公共の利益や公的権限の行使のために行われる業務の遂行に必要な場合、公衆衛生の分野における公共の利益のために必要な場合、公共の利益の目的、科学的もしくは歴史的研究目的又は統計目的の達成のために取扱いが必要な場合、などが例外と規定されている。

フランス当局とグーグルの争い

欧州司法裁判所が忘れられる権利を認めた後、フランスの個人情報保護機関「情報処理および自由に関する全国委員会(CNIL)」は2015年に、検索を実行する人がEU域内に限らず、世界のどこにいる場合でも、個人名を含む情報を削除するようグーグルに命じた。CNILは、例えばVPN(仮想私設通信網)接続などで所在地をごまかして検索すれば、忘れられる権利をかいくぐることができると主張し、忘れられる権利をEU域外にも適用して、全世界のウェブサイトで実施するようグーグルに命じたのである。その後、2016年にCNILは、命令に従わなかったグーグルに巨額の罰金を科した。それを受けてグーグルは、欧州司法裁判所に上訴した。

グーグルは、個人情報保護と言論の自由のバランスに関する基準は国によって異なることから、EUは独自の見解を他国に押し付けるべきではない、と主張してきた。そして、CNILの提案する世界的な情報削除は、忘れられる権利を認めない国との際限のない法的衝突をもたらすとした。

他方でCNILは、忘れられる権利の世界的適用はEU市民のプライバシー権の保護に必要だと主張し、EU市民の個人情報はたとえ域外から利用される場合でも保護に値すると主張してきたのである。

欧州委員会は2018年9月に、欧州司法裁判所での審問で、忘れられる権利をEU域外にも適用することに反対の立場を示した。グーグルや言論の自由を尊重する意見に同調した形だ。

欧州司法裁判所の法務官の判断は、この欧州委員会の意見を反映したものでもある。欧州司法裁判所の正式な判断も、同様なものとなる可能性が高そうだ。そうなれば、EUの忘れられる権利が域外にも適用されるか否かの議論に、決着がつくことになる。

他方、こうしたEU域内での議論とは別に、EUの忘れられる権利は他国、他地域でも検討されている。将来的には、その権利が世界に広まっていく可能性も考えられるところだ。

米国のカリフォルニア州では、2020年に「消費者プライバシー法」が施行されるが、そこでは、消費者が企業に個人情報の削除を求めることができる忘れられる権利が導入される。また、日本でも、2015年にさいたま地裁が出した決定の中で、「過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」と言及した例もでてきている(注1)。

(注1)「忘れられる権利、グーグル100万件削除」、日本経済新聞電子版、2018年10月31日

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