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ドル資産離れとFRBのバランスシート政策見直し

2019/02/12

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海外の米財務省証券保有は頭打ち

巨額の経常赤字を抱える米国は、米財務省証券(国債)を主な受け皿にして、海外(米国外)から大量の資金調達を行っている。80年代に問題視された財政赤字と経常赤字の拡大、つまり「双子の赤字」問題は、財政赤字が一時は黒字に転じるなど90年代には緩和された。しかし、2000年代に入ると、減税措置やイラク、アフガン戦争に関わる戦費拡大などを受けて、財政赤字は再び拡大していった。その過程で、海外投資家による米財務省証券の保有が、大きく増加していった。米財務省証券を最も保有したのは中国であり、その規模は2011年に海外部門全体の14%に達していた。

しかし、2014年以降、海外の米財務省証券保有は頭打ちとなっている。さらに、足もとでは、海外保有比率は急速に低下している。2014年頃までは、国内と海外とでそれぞれ保有される財務省証券の規模は概ね等しかったが、現在では海外保有分の割合が全体の4割程度にまで低下している。これは、海外投資家のドル資産離れが進んでいる証左、と考えることができるのではないか。

海外の財務省証券保有比率が低下している背景には、財務省証券の発行が増加する一方で、海外からの財務省証券への投資意欲が抑制されていることがある。財務省証券の発行額は2017年の2兆300億ドルから、2018年には2兆3,600億ドルへと+16%も増加した。その背景には、トランプ政権下での財政拡張策、例えば10年間で1.5兆ドルもの過去最高規模の減税や2年間で3,000億ドルの歳出拡大策がある。

他方で、歴史的なドル高傾向を受けて、海外投資家にとってはドル資産を持つことのリスク、つまりドル下落リスクが高まっていることが、財務証券保有を抑制させている。さらに、米国での金融引き締め策によって短期金利が上昇し、財務省証券投資のヘッジコストが高まった一方で、長期金利の上昇幅が小さかったことも、財務省証券保有を抑制させる要因となっている。

財務省証券市場の不安定化リスクが金融政策にも影響

トランプ政権下で、「双子の赤字」問題が再び深刻化している。これは、ドルの信頼を低下させるとともに、発行が急増する財務省証券の価格下落(金利上昇)リスクを潜在的に高めている。こうしたリスクに配慮して、海外投資家が財務省証券を手放し始めれば、ドルの下落要因になるとともに財務省証券の価格下落(金利上昇)を生じさせ、米国経済に大きな打撃となることも考えられる。

現状では、海外が財務省証券保有を増やさない分、米国内の投資家が財務省証券の保有を拡大させている。しかし、財務省証券の発行額が拡大していく中で、国内でのスムーズな消化が続く保証はないだろう。

米国内の投資家にとってもう一つの懸念は、米連邦準備制度理事会(FRB)による、財務省証券保有の削減だ。FRBが財務省証券保有を減らす分、民間投資家は財務省証券の保有を政府の純発行額(発行総額―償還分)以上に増やすことが求められる。海外投資家も米国内投資家も、ともに財務省証券の保有を増やすことに慎重になれば、財務省証券の需給が悪化して、大幅な価格下落(金利上昇)を生じさせる可能性があるだろう。

先般、FRBは、景気情勢が悪化した場合に、保有する財務省証券の削減策を修正する可能性を示唆したが、上記のようなリスクが高まれば、こうした景気対策としてではなく財務省証券市場の安定を維持するために、財務省証券の削減策を修正することを強いられる可能性もあるだろう。

これは、FRBが国債管理政策に否応なしに関与せざるを得なくなることを意味する。こうして、中央銀行による資産買入れ策の弊害が、皮肉にも、他国に先駆けて正常化に着手した米国ではじめに表面化する可能性も考えられるところだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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