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レバレッジドローンCLOはCDOと違うのか

2019/02/13

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レバレッジドローンが再び注目を集める

米国市場で長らくそのリスクが懸念されてきたレバレッジドローン債権の価格は、昨年12月に3%以上も下落した。これは、米国債の格付けが最高位のトリプルA格から引き下げられた、2011年8月以来の下げ幅だった。しかし、年明け後には、価格は戻している。そこで、レバレッジドローンのリスクを巡る議論が、改めて活発になってきた。例えば、2月12日のフィナンシャル・タイムズ紙では、レバレッジドローン市場に対する悲観派と楽観派の寄稿が、並列して掲載された(注1)。

レバレッジドローン市場のリスクを巡って、依然として見方は分かれてはいるものの、長引く異例の低金利の中で、投資家が過度のリスクをとった代表的な市場の一つであり、やはり引き続き警戒的に見ておきたい。レバレッジドローン市場が本格的に調整されれば、それは投資家に損失を与えるだけでなく、格付けの低い企業は新規の借入れや借り換えに行き詰まり、クレジット・クランチ(信用収縮)の状況を生み出す。それが、実体経済に与える打撃は決して小さくないだろう。

レバレッジドローン市場は、リーマンショック後に爆発的に広がり、市場規模は10年で約2倍の1兆超に達した。レバレッジドローンは、格付けが低く多額の債務を抱える企業でも借り入れができる。ハイイールド債(ジャンク債)が起債できない低格付けの中小企業でも借入先が見つかるこのレバレッジドローン市場は拡大を続け、資金調達手段としてより知名度が高いハイイールド債を上回る規模にまで達した。そして、この市場を支える主要な柱となっているのが、CLO(ローン担保証券)だ。

このCLOは、レバレッジドローンを担保にそれを証券化したうえ、そのリスクの高い証券を集めて、それを裏付けとして様々な安全度(トランシェ)の債券を発行する金融の手段のことだ。シティグループのデータによると、CLOの価値は2007年から倍増し、2018年末には6,000億ドルを超えた。

ところでCLOは、10年前のリーマンショックで有名になったCDO(債務担保証券)と良く似ている。このCDOは、結果的にはほぼジャンクであった住宅ローン担保証券の束を担保にして、債券を発行する手法だ。CLOは、「Cで始まりOで終わるところだけはCDOと同じだが、それ以外は全く違う」という指摘もあるが、本当にそうだろうか。

「炭鉱のカナリア」は鳴かなくなったのか

レバレッジドローン市場の先行きを楽観視する向きは、現在までのパフォーマンスの良さを強調する。例えば、「トリプルA」に格付けされたトランシェ(証券化商品を条件によって分けた一区分)には、一度も不履行は起こっていない。シティグループによると、トリプルA格のトランシェの2018年の平均利益率は2.7%だったという。他方、最もリスクの高い「エクイティ」トランシェの利益率は2018年に-11.4%だったが、この程度の損失では、「エクイティ」の投資家は直ぐには逃げていかないという。

しかし、レバレッジドローン、CLOが大きく成長してから、未だ本格的な景気後退には晒されていない。その耐性は、未だ試されていないとも言えるだろう。

レバレッジドローンに関するリスクで、近年、特に注目を集めているのが、融資の契約を行う際に盛り込む特約事項である「コベナンツ」が、確実に緩められてきていることだ。コベナンツとは、例えば、借入を希望する企業が、一定の財務比率等について金融機関にその遵守を約束し(財務維持コベナンツ)、仮に、企業がその約束に違反した場合は融資を回収するといったものだ。企業の財務環境が一定程度悪化すれば、企業が破綻する前に融資が回収できるため、金融機関は貸倒れのリスクを大きく削減できる。またCLOの投資家も投資リスクを減らすことができる。

企業が破綻する前にこの条項が適用される仕組みは、金融機関や投資家がより大きなリスクに直面することを、事前に回避させるという点から、「炭鉱のカナリア」の一種とも言われる。

ところが、このコベナンツの要件がかなり緩められているのである。これを、コベナンツ・ライトともいい、その結果、金融機関や投資家がより大きなリスクをとるようになっている。今や、「炭鉱のカナリア」の機能が着実に損なわれているのである。

レバレッジドローン市場が金融危機の引き金を引くかどうかは分からないが、経済、金融情勢が悪化する局面では、それを増幅するアクセラレーターの役割を果たしてしまうのではないか。昨年、イエレン前FRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「景気が悪化すれば、レバレッジドローンの負債が原因で経営破綻する企業が相次ぐだろう」、「これにより景気が一段と悪化する」、と強く警鐘を鳴らしている。

レバレッジドローンは米国経済・金融が抱える大きな潜在的リスクの一つとして、引き続き注視しておく必要があるだろう。

(注1)"Do leveraged loans pose a threat to the US economy?", Financial Times, February 12, 2019

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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