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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

中国のデジタル・シルクロード構想と激化する米中デジタル覇権争い

2019/02/21

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5G実用化を前に高まる中国企業排除の動き

ネット・サービスでは、中国とその他の国とに分断されているのが世界の現状だが(当コラム「独自の進化を遂げた中国のネット・サービスと5G」2019年2月20日)、ネット・サービスを通じたデータ収集にも関わる通信分野では、既に中国企業は国境の壁を乗り越えて、海外市場に深く浸透している。その代表が、中国の通信機器大手、ファーウェイだ。ファーウェイは、モバイル・コンピューティング・ネットワークの設備を供給する世界最大手となっている。

米政府や議会では、ファーウェイが通信機器を通じて世界中で偵察活動を行い、また、企業秘密を盗み、中国の影響力を拡大するための布石を打っている、との批判が高まっている。

米下院情報特別委員会の委員長を務めたマイク・ロジャース氏は、「中国政府は、ファーウェイや同業のZTE(中興通訊)などを通じて情報活動のネットワークを世界に広げ、国益を拡大するために不正行為を行っている。5G(第5世代移動通信システム)の本格化が間近に迫る中、手遅れになる前にそうした認識を持つべきだ」としている(注1)。

中国製品が5Gを席巻して、中国が世界中の情報を握ることを懸念する、また、技術争いで中国に追い越されることを恐れる米国は、2018年に成立した法律で、ファーウェイやZTEの製品を米政府機関が使うことを禁止した。さらに米政府は、ファーウェイ製品の排除を同盟国にも働きかけている。オーストラリアやニュージーランドなどは、これに同調して排除に動いた。日本も政府調達からファーウェイとZTEの製品を事実上排除する方針を決め、5Gの通信網から、中国の2社を実質的に除外している。

また、ファーウェイとZTEが、米国製部品の入手ルートを絶たれていけば、中国は米国の5Gネットワークとは互換性のない、別バージョンのネットワークを構築する可能性があるだろう。この場合、5Gでも世界は二分されていくのである。

中・東欧地域が主戦場に

こうした、中国のネット、通信の覇権と深く関わるのが「一帯一路」構想だ。中国は、港湾や道路などのインフラ整備で、こうした地域での勢力圏拡大を図るだけでなく、この一帯一路に中国の5G通信ネットワークを広げて「デジタル・シルクロード」とすることも構想している。まず、一帯一路の沿線国に対して、5G通信ネットワークを構築し、その後に、電子商取引などのネット・サービスで中国主導のデジタル化経済を確立することを目指す可能性がある。その場合、中国は、一帯一路の沿線国からビッグデータを獲得することが可能になり、「デジタル覇権」を広げることができる。

現在、米中のデジタル覇権の主戦場となっているのが、欧州、特に中・東欧地域だ。米国のファーウェイ製品排除の要請を受けた欧州諸国の対応は分かれている。ドイツなどは、ファーウェイ製品の使用回避策を検討中だが、スロバキア政府は「脅威の証拠となる情報はない」としてファーウェイ製品排除には否定的だ。また、イタリア政府も5Gへのファーウェイ製品の採用を禁じる方針との観測を明確に否定している。

米国政府の要請にも関わらず、欧州各国がファーウェイ製品排除で足並みが揃わない背景には、ファーウェイ製品が既に相当普及しているという事情がある。また、5Gでファーウェイ製品を排除した場合には、スウェーデンのエリクソンなどがその代替候補に上がるが、それは、5G技術ではファーウェイよりも遅れ、一方で、コストはかなり高まってしまうのである。

こうした事情の下、特に中・東欧諸国はファーウェイ製品排除に慎重姿勢が目立つ。それは、中国が、経済支援を通じて、既に影響力を強めているためでもある。中・東欧の16か国は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に協力して、中国との首脳会議(16プラス1)を定期開催している。

米国からの要請を受けても、すでに見たスロバキアやハンガリーは、慎重な姿勢を崩していない。ハンガリーは近年、対中接近が顕著である。2018年にはファーウェイと5G整備で協力する覚書に署名している。

中・東欧諸国の大半は、NATO(北大西洋条約機構)に加盟する米国の同盟国だ。米国は、同盟国にファーウェイ製品が浸透していくことを許せば、そこから米国の機密情報が中国へと流れ、安全保障上の大きなリスクとなることを強く警戒しているのだ。

中・東欧を主戦場に、「デジタル覇権」を巡る米中間の対立は一層激しさを増している。その行き着く先は、世界のデジタル経済圏の分化なのではないか。

(注1)The 5G Promise and the Huawei Threat, Mike Rogers, Wall Street Journal, January 29, 2019

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