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米国で広まる経済理論MMTの危うさ

2019/03/01

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政府債務増加は問題ないとするMMT

3月1日は、米中貿易戦争の一時停戦の期限だ。これについては、期限延長の方向だが、米国は同日にもう一つの期限を迎える。それは、政府の債務上限の停止措置が失効することだ。これは米国債のデフォルト(債務不履行)に繋がるものだが、上限引き上げに向けた議会の審議は今のところ進んでいない。米財務省は特別措置で国債の利払いや償還などを続けることができるため、実際にデフォルトとなるのは、9月初め頃とみられている。

米国で、議会が政府債務に上限を定めるのは、政府による野放図な債務拡大を防ぐためだ。しかし、米国政府の債務残高増加は問題ない、との主張も広がっている。それを支えているのが、MMT(Modern Monetary Theory)という考え方である。これは、日本語では現代金融論、あるいは新表券主義と呼ばれている。その主張は、独自の通貨を持つ国の政府(部門)は、通貨を限度なく発行する権利を持っているため、債務返済が滞ってデフォルトに陥ることは起こらない。従って、政府債務残高がいくら増加しても問題はない、という考えだ。

MMTの提唱者の一人であるニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授は、欧州債務危機は各国が単一通貨ユーロを採用したのが元凶であり、ドルという独自通貨を持つ米国には当てはまらない、としている。同氏は、政府債務の増加が、供給不足からインフレを引き起こすような場合には問題だが、それが生じずに経済成長と雇用の増加が続いている限り、政府債務の増加自体は問題ない、としている。そして、米国で国債発行の余地はまだあり、政府支出の拡大、政府債務の増加に憶病になり過ぎなければ、国はもっと豊かになることができる、と主張している。同氏は、2016年の米国大統領選挙で、急進左派の民主党バーニー・サンダース氏のアドバイザーを務めていた。

深刻化する双子の赤字問題のもとで政府債務拡大は危険

ケルトン教授が指摘しているように、政府のデフォルトリスクについては、ユーロ圏の国々と米国とでは大きな違いがあることは確かである。通貨発行権を持つ中央銀行は、政府が信用力の低下で国債を発行できない状況に追い込まれ、国債の償還や利払いができずにデフォルトのリスクが高まる場合には、例えば、民間銀行に無制限に流動性供給を行い、銀行が新規発行分の国債を買入れるような形で、デフォルトを回避することができる。

一方、独自の通貨を持たずに、また欧州中央銀行(ECB)の傘下にあるギリシャ中央銀行は、独自の判断で銀行に対して無制限の流動性供給を行うことはできない。それがゆえに、ユーロ圏にあるギリシャには、デフォルトのリスクが相応にある。

しかし、法定政府債務上限が引上げられずに生じる、いわゆるテクニカル・デフォルトを除けば、政府のデフォルトが生じにくい米国では、野放図な財政赤字の拡大、政府債務の増加が何の問題も生まないのだろうか。決してそういうことはないはずだ。

そうした政策は、財務省証券の需給を悪化させ、また、米国政府の財政政策・国債管理政策に対する不信感から、財務省証券の利回り上昇を生じさせる。それは、米国経済や金融市場全体に悪影響を及ぼす、いわば悪い利回り上昇だ。

さらに、トランプ政権の財政拡張策によって双子の赤字、つまり財政赤字と経常赤字の同時拡大が進む現状では、財政赤字のさらなる拡大は経常赤字の一段の拡大観測を強め、それはドルの信認をも低下させる。それによって、ドル安と悪い利回り上昇とが相乗的に進むような、悪循環のリスクも高めるだろう。

こうした点から、米国の政府債務増加は問題ないとするMMTの考え方は危険だ。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は議会証言で、この主張に関連して「自国通貨で借り入れができるからと言って債務(の規模)は関係ないというのは間違いだ」と発言している。全くその通りだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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