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欧州はどの程度日本化(Japanification)したか?

2019/03/19

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欧州を日本化指数で診断

欧州中央銀行(ECB)は3月7日の理事会で、2019年の成長率見通しを前回の1.7%から1.1%へと大幅に下方修正した。また、年内の利上げ見送りと銀行への新たな資金供給策(TLTRO3)の導入を決めている。こうしたECBの政策修正を受け、ある言葉が再び注目を集め始めている。それは、2014年頃にも盛んに議論されていた、「日本化(Japanification)」だ。オランダの金融グループINGは、その前日に「ユーロ圏の日本化(The Eurozone's "apanification")」と題するレポートを発行していた。

これに関連して、金融市場で注目される動きは、ドイツ国債利回りの低下である。ドイツの10年国債利回りは、昨年秋以降、低下傾向を辿っており、足もとでは0.1%を下回ってマイナスの水準に近付いている。他方、日本の10年国債利回りは、現在-0.05%程度だ。近い将来、両者が逆転する可能性も考えられるところである。これが、ユーロ圏の日本化を象徴する、金融市場の動きとなっている。

同レポートでは、「日本病(Japanese disease)」の要素に関する伊藤隆敏・コロンビア大学教授の分析をベースに、日本化モデルが紹介されている。このモデルに採用されている要素は、①需給ギャップ、②インフレ率、③政策金利(短期)、④人口動態変化、の4つだ。これを基に、日本化(Japanification)指数が作成されている。その中立的な水準は+4~+6だが、ユーロ圏の指数は、2012年から2017年まで、マイナスの領域に沈んでいる。本家の日本では、同指数は1993年から2017年まで、実に4半世紀にわたって、一貫してマイナスの領域にある。この指数が、ユーロ圏が日本型の「失われた20年」の入り口にあるとの観測を生む一因となっている。

また、人口動態については、両者の類似性が目立っている。日本の人口は2010年から2017年間に135万人減少した。ユーロ圏でも、生産年齢人口は、10年前の2009年に2億2,000万人でピークに達し、2018年には2億1,800万人まで200万人も減少している。

類似点と相違点

同レポートは、「欧州はどの程度既に日本化されたのか?」という問いに対して、「ある程度(to some extent)」と答えている。類似点はあるものの、日本ほど厳しい状況には陥らないのではないか、という判断なのだろう。

レポートでは、日欧の違いも指摘している。第1に、日本が90年代末から物価が下落する、いわゆるデフレ局面を経験したのに対して、ユーロ圏では年平均値でマイナスのインフレ率は経験していない。第2に、日本の政府債務のGDP比率は2018年に238%に達しているのに対して、ユーロ圏では最新値で86%にとどまっている。これは、2014年の91.8%から低下している。

しかし、ユーロ圏の中でも、より日本化が進んでいる国はある。ギリシャの政府負債GDP比率は、2016年に183%となり、日本に次いで主要国中2位となった。また、スペインでは2014年から2016年に、継続した物価下落が見られた。イタリアでは、2008年から2013年の間にマイナス成長が続いた、などが挙げられる。

レポートでは、ユーロ圏の状況が日本と比べればまだ良好である理由として、金融システム不安に対する当局の対応の違いを挙げている。当局の銀行救済とECBの金融緩和措置が、日本と比べるとより迅速な対応であったとの評価であるが、果たして本当だろうか。現在のイタリアの銀行の不良債権問題などをみても、欧州の当局が迅速な対応をとり、またそれが大きな成果を挙げたようには見えない。この点では、レポートの評価に違和感が残る。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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