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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

中国政府の産業補助金の問題はどこにあるか

2019/05/16

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補助金を巡る米中対立の底流にあるもの

「国家資本主義」と呼ばれる中国の経済システムの中で、政府の強力な産業政策が果たす役割は大きい。さらに、その産業政策の中核を成しているのが、産業補助金制度だ。合意間近とされた米中貿易協議が決裂した背景の一つには、この産業補助金制度の修正を巡る米中間での激しい対立があった。

米国政府は、中国政府による巨額の補助金に助けられて、中国企業が不当に安い値段で米国向けに製品を輸出し、それが米国の貿易赤字の拡大、雇用の喪失をもたらしている、と考えている。それに加えて、巨額の補助金を通じて中国政府が半導体の内製率(国内生産比率)を急速に高めることなどが、中国の先端産業に急速な成長をもたらし、先端産業あるいは経済全体での米国の優位を脅かす、ひいては安全保障面での米国の優位を脅かすことを、米国政府は非常に警戒している。

他方、中国側は、国有企業に対する中央政府の補助金制度の見直しについて、米国政府の要求を相当分受け入れたものの、最終段階で米国政府が地方政府による補助金の見直しも合意内容に加えることを要求し、それを受け入れることができなかったと説明している。地方政府による補助金は、景気対策や企業誘致など、貿易政策とは直接関係のない国内政策で多く利用されるためだ。米中貿易合意で、こうした国内政策が強く制限されることになれば、それは不当な「内政干渉」に当たると中国政府は考え、受入れを拒否しているのである。

産業補助金は、日本も含めてどの国でも実施されているものだ。それにもかかわらず、あえて米中貿易協議の場で議論されるのは、自由貿易のルールに反している面があるため、というのが米国側の主張である。実際には、それ以外の狙いもあることは、既に述べた通りだ。かつて、日米貿易摩擦が激化した際にも、米国側は日本の産業政策を「Japan.Inc(日本株式会社)」と呼び、産業補助金制度を含めて過剰な市場介入であるとして、強く批判していた。

中国の補助金を巡る国際紛争

さらに、産業補助金を巡る米中両国の対立の底流には、経済システムを巡る考え方の大きな差がある。米国では、民間経済活動に対する政府の関与は基本的には望ましくなく、必要最小限にとどめるべき、との考え方が強い。これは、「自由」を尊ぶ国のアイデンティティに根差している。

他方、中国政府は、市場経済化を進める一方、政府が経済活動に強い影響力、指導力を発揮してきたことで、高成長が実現されたと考えている。こうした経済システム、あるいはその考え方の違いに深く根差している産業補助金を巡る米中両国の対立は、容易には解消されることはないだろう。

米国が中国の産業補助金を問題にし始めたのは、実は、最近のことではない。2000年代前半から、それは表面化し始めたのだが、その舞台となったのは、世界貿易機関(WTO)だった。

2000年6月に、中国政府は通常17%の増値税(付加価値税)について、国内集積回路メーカーは14%分還付するなどの優遇措置を採用した。これに対して、米国政府は2004年3月に、海外企業も国内企業と同様な権利を与える内国民待遇原則に反する不当な措置であるとして、WTO紛争解決了解に基づく協議要請を行った。中国政府が優遇措置を撤廃することで、米国がWTO申立てを取り下げ、この紛争は早期に解決した(注)。

しかし、その後も、2006年からの中国・補助金事件、2007年の米国・対中国産コート紙相殺関税調査、などの問題が生じた。さらにその後は、米国企業から米国政府に、中国からの輸入製品に対する相殺関税調査を求める提訴が頻発したのである。相殺関税制度とは、輸出国の補助金を受けた輸入品に対し、国内産業保護の観点からその補助金額の範囲内で割増関税を課す制度のことだ。これはWTOの協定で、一定の規律の下に認められている。

中国の補助金制度とは

中国の産業補助金制度は、ⅰ)補助金とⅱ)税優遇措置の2つの柱からなる。ⅰ)補助金には、政府による現金供与と企業の借入れに対する利払い負担補助がある。

そして、ⅱ)税優遇措置には、所得税減税と増値税(付加価値税)減税がある。前者は、ハイテク企業などへの低所得税率適用や、ハイテク設備の減価償却加速、研究開発費の優遇的な控除などがある。後者は、輸入設備に関する増値税減税、増値税の輸出時の還付率引き上げ措置、などがある。

これらは、中央政府による措置だが、米中貿易協議でも争点になった、地方政府による補助金制度、税優遇措置もある。それらの措置は、産業政策というよりも、企業誘致、産業集積支援のためにとられることが多い。この点に照らすと、地方政府による補助金制度の見直しを強く迫った米国側の姿勢には、問題があったかもしれない。

中国の補助金制度を問題としてきたのは、米国だけではない。日本を含めた主要各国も、その問題点を長く指摘してきた。最大の問題は、補助金制度が不透明なことだろう。

中国は2001年のWTO加盟後も、2006年まで補助金協定で認められている補助金通報を行ってこなかった。中国の補助金制度が不透明であり、仮に中国政府がそれを見直し、撤廃したと主張しても、それが正確に確認できないとの根強い不信感を米国政府は持っている。そこで、中国の国内法の改定を通じて、補助金制度の見直しをより実効性の高いものにしようとしたのだろう。しかし、それは、中国側にとっては不当な内政干渉と理解されたのである。

米国が、WTOの紛争解決制度の下で、他国と足並みを揃えて中国の補助金制度の問題点を指摘し、その改善を促していれば、それなりの実効性があったのではないか。トランプ政権がWTOの紛争解決制度を無視して、2国間協議で中国側に補助金制度の見直しを迫ったことで、そうした道が閉ざされてしまったことは残念なところだ。

(注)「中国による補助金供与の特徴と実務的課題-米中間紛争を素材に-」、RIETI Discussion Paper Series 11-J-067、名古屋大学、川島富士雄

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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