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米国の強硬措置が中国経済の自律性を高める

2019/05/20

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ファーウェイ規制に猶予措置も

米商務省は5月16日、中国通信機器最大手ファーウェイ(華為技術)に対して米国製品の輸出を事実上禁じる規制措置を、同日付で正式に発効したことを発表した。中国の本社のほか、日本法人を含む全世界の関連会社68社も対象となる。この措置は正式発表の翌日に発効したため、米国及び海外の企業では全く対応の準備が進んでいない。さらに、海外の企業にとっては、規制対象となる製品の範囲もわかりにくいことから、大きな混乱が世界規模で生じている。

ファーウェイは、米国のインテル、韓国のサムスン電子、オランダのNXPセミコンダクターズなど、約1万3,000社から年間約700億ドルの部品を調達している。このうち日本企業は、ソニー、三菱電機、村田製作所など約100社であるが、調達額は66億ドルと1割程度を占めている。米国以外の企業でも、米国製の部品やソフトウエアを25%超含む製品のファーウェイ向け販売は、今回の規制の対象になるとされ、日本企業への影響も出てこよう。

ところで、ロイター通信が17日に報じたところによると、米商務省は、ファーウェイ製品の利用を原則禁じる制裁措置を、近く一部縮小する可能性があるという。ファーウェイ製品は米国では小規模通信会社が多く採用しており、制裁発動でそれが一気に使えなくなれば、携帯電話やインターネットのサービスなど、業務に大きな支障が出るおそれがある。そこで米商務省は、ファーウェイとの取引を認める暫定認可を出し、新規ではなく既存の取引については、その適用に90日の猶予期間を与えるという。

これは、ファーウェイ製品の利用について、主に米中小企業に配慮した措置であるが、ファーウェイへの部品供給に対する制裁措置についても同様に、米商務省の運用、つまり匙加減によってその実効性を大きくコントロールできる。米商務省は否定しているものの、こうした点を利用して、米政府が対中貿易協議での交渉材料に利用することは考えられるところだ。

周到に準備を進めてきたファーウェイ

ファーウェイの任正非(レンチョンフェイ)CEO(経営最高責任者)は18日、深セン市の本社で日本のメディアなどと会見を行った。任氏は「ファーウェイは法律を犯していない」と、米政府の輸出規制を強く批判した。他方、ファーウェイの経営への影響については、影響は部分的にとどまるとの見方を示した。その理由として、クアルコムなど米企業が半導体を売ってくれない場合への備えは、以前から進めてきたと説明している。米国による同社の排除の動きは15年ほど前からあったことから、自社生産や米国以外からの調達力を強めてきたとしている。

これを裏付けるかのように、17日にロイター通信が報じたところでは、ファーウェイ傘下のハイシリコンは以前から、いずれ米国から半導体やその他の技術を入手することができなくなる可能性を想定し、数年前からその影響を緩和するための準備をしてきたという。その結果、大半のファーウェイ製品は安定供給が可能だとしている。これは、ハイシリコンの総裁が従業員に送付した書簡を中国国営メディアが報じたもので、それが事実であることをファーウェイはロイター通信に認めている。

1987年設立のファーウェイは、既に1990年代前半から、半導体を自主開発してきた。2018年には通信機器大手の中興通訊(ZTE)が米国の制裁対象となり、米国のクアルコムなどから半導体の供給が受けられなくなり、一時、経営危機に陥った。しかし、半導体を自力で開発できるファーウェイは、ZTEと比べれば制裁措置に対する耐性が強い、との見方が多い。

高まる中国の半導体内製率

ハイシリコンの総裁は、ファーウェイが技術の自給自足を目指すとも表明している。ファーウェイは、すでに高価格帯のスマートフォンにハイシリコンが設計したチップセット「Kirin」を搭載している。ファーウェイの徐・輪番会長は、3月のロイターとのインタビューで、ハイシリコンが昨年75億ドル以上に相当する半導体を製造したことを明らかにしていた。他方で、ファーウェイが外部から調達した半導体は推定で210億ドルだ。

また、ファーウェイは、2021年までに英ケンブリッジに通信系半導体の開発センターを稼働させる計画だ。自社製スマートフォンに搭載する半導体の設計能力を強化して、自給率を上げるのが目的とみられている。今後5年間で、10億~20億ポンドを投資するという(注1)。新たな拠点はケンブリッジ郊外のソーストンに位置するが、ここは、ファーウェイ子会社のハイシリコンがアプリケーションプロセッサー(AP)のCPUコアの供給を受けている英Armの本部に近い。ファーウェイはこの拠点でブロードバンドネットワーク向け通信チップを開発する。

米国からの部品供給が停止する事態を想定してきたファーウェイは、自社製スマートフォンに搭載するハイシリコン製APの自給率を、2018年時点の45%から2019年末には60%に引き上げる目標を掲げている。将来は完全内製化も視野に入れている。

他方、ファーウェイが開発する半導体の品質は急速に高まっている。ハイテク調査会社テカナリエは、ファーウェイが2018年に発売した高級スマホ「Mate20Pro」を分解して、アップルの「iPhoneXS」と比べた(注2)。2つのスマホはそれぞれ、ハイシリコンとアップルが設計した半導体を搭載していたが、計算能力や省電力性能も上がる回路の線幅は、2つとも7ナノメートルだった。2018年末までに世界で実用化された7ナノメートル半導体は3種類だけだという。この点から、ハイシリコンの微細回路の設計能力は、既に世界トップの水準にあることが確認された。

今回の制裁措置によって、米企業からの半導体調達が滞り、短期的にはファーウェイの経営には大きな打撃が及ぶことは避けられないだろう。しかし、傘下のハイシリコンや日本を含めた米国以外の国からの調達によって、比較的早期に経営を安定化させることが可能であるかもしれない。

米国は、中国政府の強力な産業政策である「中国製造2025」のもとで、中国の半導体の内製率が急速に高まることを強く牽制し、米中貿易協議では、巨額の政府補助金の見直しを要求している。しかし、今回の強硬措置は、中国の半導体の内製率向上をさらに加速させるだろう。結局、米国政府が望むのと全く逆に、こうした強硬措置は中国経済の自律性を高め、より強化することに繋がるのではないか。

(注1)「ファーウェイ 英国にIC設計拠点 チップ内製化率向上へ」、電子デバイス産業新聞、2019年5月16日
(注2)「ファーウェイ半導体、アップル並みの最先端性能」、日本経済新聞電子版、2019年4月24日

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