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国際決済システムでも米中の覇権争い

2019/05/24

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利用が広がる中国独自の国際決済システム

貿易取引で見れば、既に中国は米国と肩を並べる規模に達している。しかし、こうした経済面での中国の存在感と比べると、金融面での存在感はまだ低く、かなり見劣りしている。それを象徴するのが、世界での人民元の利用ではないか。中国が人民元の国際化を標榜してからかなりの時間が経過しているが、意図した程には国際化は進展していないように見える。

例えば、2018年10-12月期時点で、世界の外貨準備のなかで人民元が占める比率はわずか1.9%に過ぎない。これは米国ドルの61.7%、ユーロの20.7%、円の5.2%、ポンドの4.4%に次ぎ、世界第5位だ。

しかし、中国は将来の人民元国際化の進展、あるいは米国との軋轢、制裁措置などを視野に入れて、独自の国際決済システムを2015年10月に導入している。それが、CIPS(国際銀行間決済システム)だ。

現在の世界の国際決済では、その中核を担っているのがSWIFT(国際銀行間通信協会)で、そのシステムを通じて送金情報がやり取りされる。SWIFT自身は送金や決済を担うわけではないが、銀行間の国際送金や決済を支える「メッセージ通信サービス」を提供している。SWIFTを通じて、膨大な量の金融取引情報が送信されているが、この送金情報がなければ、銀行間の国際送金は成り立たない。

このネットワークから外されてしまった金融機関は、国際送金ができなくなるが、米国はこのSWIFTを、外交やテロ対策に利用してきたという経緯がある。SWIFTはベルギーに本拠地を置く国際的機関であるが、実際には米国の強い影響下にあるとされる。

そのため、米国の制裁対象に指定された金融機関は、貿易取引によるドル建て決済ができなくなるのである。実際、トランプ政権は2018年11月に、制裁措置の一環でイランの複数の銀行を排除するように、SWIFTに圧力をかけた模様だ。これは、イラン原油の禁輸措置の実効性を高める狙いがあった(注1)。

国際決済システムもダブル・スタンダードへ

そこで、将来、米国から制裁を受ける可能性がある国には、それに備えて独自の国際決済システムを構築する誘因が生じる。中国がCIPSを導入した背景には、そうした事情もあったのだろう。実際、ロシア、トルコなど米国が経済制裁の対象とした国の銀行が、このCIPSに多く参加している。

日本経済新聞社の調査(注2)によると、2019年4月時点でCIPSへの参加は89か国・地域の865行にまで広がっている。参加銀行数を国ごとに見ると、第1位が日本、第2位がロシア、第3位が台湾だ。

CIPSの参加国には、一帯一路の参加国など、中国がインフラ事業や資源開発で影響力を強める国々の銀行も多く含まれている。マレーシアなどアジアの新興国に加えて、南アフリカ、ケニアなどアフリカの国の銀行も参加している。一帯一路構想の中国関連事業では、依然として人民元決済の比率は小さい模様だが、将来的には一帯一路周辺国を軸に「中国経済圏」は一段と拡大していく一方、そこでの取引に人民元が多く使用される、つまり「人民元圏」も拡大させていくことを中国は視野に入れているだろう。その際には、このCIPSが同地域での国際決済の中核を担っていくはずだ。

米国が貿易面で対中制裁を強めれば、中国は将来的にSWIFTの利用を妨げられることを警戒して、人民元の国際化、つまり貿易取引等での人民元の利用拡大とCIPSの利用拡大とを急ぎ強化していくだろう。その際に、米国に対峙している国のCIPS参加も広がっていこう。

このように、米国による対中強硬姿勢は、国際決済の分野においても、中国による独自の標準(スタンダード)作りを後押しすることになり、世界のダブル・スタンダード化を促してしまうことになるのではないか。

(注1)「米制裁 ドル離れ招く」、日本経済新聞、2019年5月19日
(注2)「人民元 ドル覇権に一石」、日本経済新聞社、2019年5月19日

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