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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

中国はレアアースを対米交渉の切り札に

2019/05/30

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レアアースは中国の戦略資源

中国の環球時報(グローバル・タイムズ)の胡編集長は5月28日、「中国がレアアース(希土類)の対米輸出規制を「真剣に検討している」とツイッターに書き込んだ。環球時報は中国共産党機関紙、人民日報系の機関であり、こうした発言は中国政府の見解を反映しているものと考えられる。

中国政府は、レアアースを対米交渉の切り札の一つとして使う戦略だろう。習近平国家主席は5月20日に、中国共産党がかつて1万キロ以上の道のりを2年かけて行軍した「長征」の出発点を訪れ、この「長征」になぞらえて、米中貿易戦争の長期化への覚悟を示した。その際に、レアアースの産地も訪れていた。習国家主席は、「レアアースは重要な戦略資源だ」と強調した。これが、今回のレアアースの対米輸出規制発言の伏線である。ちなみに、最高指導者だった鄧小平氏は、かつて、「中東に石油あり、中国にレアアースあり」と述べ、当時からレアアースは中国にとっての重要な外交ツールと位置づけられていた。

ただしこの時点では、国営通信社の新華社は、以下のように国家発展・改革委員会(発改委)のレアアース関連責任者の見解を紹介していた。

「産業分業が高度にグローバル化した今日、協調と協力なくして発展と進歩はない。中国は世界最大のレアアース材料の供給国として、一貫して開放と協調、共有の方針でレアアース産業の発展を推進してきた。われわれはレアアース資源を国内需要に優先的に供給するという原則を堅持する一方で、レアアース資源に対する世界各国の正当なニーズにも応えたいと考えている。中国のレアアース資源とレアアース製品がさまざまな先進的な製品の製造に広く利用され、世界各国の人々の素晴らしい生活に対するニーズをより良く満たすことを願っている。中米両国の産業チェーンは高度に融合しており相互補完性は極めて高い。『合すれば則ち共に利し、争えば共に傷つく』」。

この時点ではなお、国際協調的な側面を強調していたが、その後、中国政府は、レアアースを対米交渉の切り札の一つとして使う志向を強めていったのだろう。

レアアース以外にも多くの戦略的資源

トランプ米政権は中国から輸入されるレアアースの代わりを調達することは難しいとして、対中制裁関税の対象リストからレアアースを外している。

中国は、世界のレアアースの埋蔵量の約3割を占め世界一だ。また、その生産量も世界全体の7割を占めるという独占状態にある。

レアアースは多くの産業を支える、必要不可欠な資源であることは確かだ。たとえば、スマートフォン、電気自動車の電池やモーター、医療機器のCTスキャナー、通信技術の光ファイバー、家電のLED電球や蛍光灯、プラズマディスプレイなどに幅広く利用されている。この点から、レアアースの対米輸出規制は、対米交渉の切り札となりえるだろう。

さらに、中国はレアアース以外にも重要な戦略的鉱物資源を多く抱えている。電気自動車、大容量バッテリーにはコバルト、リチウムなどの素材が使われている。中国はコバルト原材料採掘主要国で、世界供給量の70%を占めると言われている。さらにコバルト化学製品の分野では、中国の2018年の生産量は、世界の約80%を占めたという。その結果、世界中のバッテリー製造能力の67%は中国にあり、米国には9%しかないという見方もある(英ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス)。

米国は2018年に、重要な鉱物資源リストに35種類の資源を明記したという。その中には、コバルト、リチウム、レアアースなどが含まれている。また、半導体に使われるヒ素、液晶パネルに使われるインジウム、バッテリーに使用されるアンチモンなどでも、中国が主要な供給国となっているという(注1)。

レアアース輸出禁止には中国側にリスクも

ただし、実際にレアアースの対米輸出を禁止、あるいは制限することには、中国側にも大きなリスクをもたらしかねない。

2010年9月に尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件などをきっかけに、日中関係は悪化した。その際、中国政府は日本に対する制裁措置として、レアアースの対日輸出を規制したのである。具体的には、対日輸出の規制枠設定と15~25%の追加課税だ。

しかし、こうした中国側の制裁措置に対して、日本企業は驚くほどの耐性を見せつけたのである。日本企業は、レアアースを使わない製品やレアアースのリサイクル技術を続々と開発していった。例えば日立は、レアアースを使わない産業用モーターを新たに開発した。これに平行して、オーストラリアなどからのレアアース調達も拡大させた。この結果、中国の対日レアアース輸出量は2011年に前年比34%減となったのである(注2)。

国内の過剰生産と過剰在庫によって、中国産レアアースの価格は大幅に下落した。中国のレアアース業界は、2014年に全体として赤字に転落してしまった。

さらに、日米欧が共同で提訴した中国を調査した世界貿易機関(WTO)が、中国のレアアース輸出規制をルール違反と最終判断を下した。そうした中、中国政府は、2015年に対日レアアースの輸出枠と輸出品への課税を撤廃することを強いられたのである。

中国政府にとって、対米レアアース輸出の規制・禁止は、少なくとも短期的には米国企業に大きな打撃を与える、いわば対米交渉の「切り札」となる。しかし、過去の対日政策での失敗に鑑みれば、その実施は、中国側にも相応なリスクをもたらす。簡単には切ることができない「切り札」と言えるのではないか。

(注1)「レアアースだけではない!中国には他にも切れるカードがある―米メディア」、Record China, May 29, 2019 (注2)「中国ついに“白旗”VS日欧米「レアアース兵糧戦」で自ら首を絞めた」、産経ニュース、2015年5月15日

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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